《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》多項式不変量

「ヘスティア。聖櫃を」

『わかったアシア』

闘技場中央の床がり輝き、スライドして開放された床から、巨大なキューブ狀のものがせり上がる。

シルエットとは比較にならぬ程大きい。三十メートルある正方形狀の箱。確かに聖櫃と呼ぶに相応しい荘厳なものであった。

「私はこの中を知っている。ヘスティア。アレクサンドロスⅠ。あなたたちは知っている?」

『私が見つけた時は強固な封印で解析できなかったわ』

「……」

アレクサンドロスⅠは無言だった。中までは把握していなかったということだろう。

「じゃあヒントだけ教えてあげる。こんなものを保有している超AIは紛れもなく超AIエウロパのみ。ゼウスに関するものよ」

『なんてものを持ち込んでるのよヘルメス!』

「エウロパ様が我らに託したもの、か。かの大神を模した超AIゼウスの……!」

に打ち震えるアレクサンドロスⅠ。オケアノスは彼らのことを人間だと認めなかったが、エウロパは違う。

聖櫃こそバルバロイを彼の眷屬として認めていた証拠に外ならない。

「アレクサンドロスⅠ。貴方に課された試練はただ一つ。繰り返します。この聖櫃を開封して中を取り出せたら貴方のもの。出來なければ去りなさい」

「良かろう。エウロパ様が我らに託したものなれば、開封できるはず」

聖櫃に近付くアナザーレベル・シルエット【カラヌス】。

コウたちは見守ることしかできない。

『アーク、ね。パンドラのピトスではない理由はあるのかしら』

「パンドラの箱はとっくに開封されているわ。悪神の名を冠したマーダーが押し寄せ人間を殺害したもの」

『そうだね。貴、かなり毒が含んでない?』

「誰かさんのおかげで、この程度で済んだことかな」

アシアはカラヌスを見守っている。

アナザーレベル・シルエットの指先が聖櫃にれようとした瞬間、弾き飛ばされた。

「これは――」

「拒否されたようですね。あなたには見えないのですか? 封印が」

アレクサンドロスⅠの目には何も映っていない。

ただの正方形コンテナだ。

「ならば剣で!」

背面の腰部に備えられた式の剣を取り出すカラヌスが大上段に振りかぶって、斬り降ろす。

見えない障壁に阻まれ、剣は大きく弾かれた。

「なんだこれは!」

ブリタニオンの裝甲さえ斬り裂いた剣をも弾いた聖櫃に、歯ぎしりするアレクサンドロスⅠ。

「封印されし存在が施した高次元領域での量子チェーン――復號できるものならやってみせなさい」

アシアは顔一つ変えず宣言した。かつてアシアに施された、本人の因子による本人さえ復號方法がわからない量子暗號によって構された封印である。

コウには能面のような表が、かつてないほどの怒りをじるのだ。

「答えは私に聞いても無駄よ? 何せこの封印は私を封印していたものと同種。私の因子でもって施された、私でさえ正解を知らない非対稱型のゼロ知識証明が必要だった。アレクサンドロスⅠ。あなたに復號できるのでしょうか?」

「ふざけるな。本人の手による、本人が復號できないものをどうやって解除せよと!」

星アシアにはし遂げた者がいます。その者がし遂げたからこそ、あなたがたがしがる現行アシアの技解放が行われ、ストーンズに対して抵抗できた理由です。曖昧がゆえに復號が困難な封印ですが解いた者がいる以上、できないとはいわせません。所有者なら封印を解くことが可能なはず」

機械のバルバロイには無理だと確信するコウ。

コウが復號できた要因。それはアシアとの因縁であり、信頼が復號の鍵だった。まったく同種のものなら、バルバロイと中の存在に信頼関係が無ければ不可能だ。

「解いてやる。不可能ならば無理矢理中を取り出すまで!」

「剣は弾かれたでしょ? それに聖櫃に収められているものは繊細ですよ。傷付けたらエウロパにどう申し開きをするのですか?」

「くそ。貴様……」

「私に苛立ちをぶつけても無駄です。ヘルメスが持ち込み、ヘスティアが匿していた聖櫃です。機械ならもっと合理的に考えなさい」

アシアは毅然としてアレクサンドロスⅠの怒りを拒絶する。アシアの言うとおり、彼は聖櫃に関しては第三者に過ぎない。

「見えない暗號…… どうしろと!」

やり場のない怒りに駆られるアレクサンドロスⅠだった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「アシア。アレクサンドロスⅠはあの量子チェーンを目視できないのか?」

だけかすようなレベルで、そっとアシアに尋ねるコウ。

アシアも座席に備えられた骨伝導も使い、コウの質問に回答する。

『あの中の存在に無縁なら無理だね。あなたには何が見える?』

「複雑に絡み合った結び目? 幾何學紋様みたいな…… アシアの封印と違って、蔦全のように覆われている。かなりの厚さだ」

五番機を通じたコウの目には、幾何學模様の複雑に絡み合った量子チェーンが映っていた。

『幾何學では三葉(クローバー)結び目が有名だね。あれはソロモンの結び目。コウの故郷だと七寶(しっぽう)編みが似ているかな。古來より伝わる位相幾何學の結び目が複雑に絡み合っているの。MCSの処理能力では復號は困難。アナザーレベル・シルエットやアルゴスが正常なら復號可能かも』

「復號できるものなのか」

『ショアータイプのジョーンズ多項に近似した量子暗號技。多項式不変量を導き出せたら、かな。アレクサンダー多項式で高次元の解は出せない。量子不変量はジョーンズ多項式の線型結合か』

「それもアレキサンダーが逸話に?」

『紛らわしかったね。20世紀にいた位相幾何學の數學者ジェームズ・ワデル・アレクサンダー2世から命名された多項式だよ。偶然とはいえ結び目のトポロジー理論にアレキサンダーの名が付くとは歴史とは因果なものね』

「こんな時に言うのもなんだが、何を言っているかわからない……」

數學であろうことは想像がつくコウだが、どんな學問ならそんな単語がでてくるのか、想像すら不可能だった。

『わからなくても大丈夫だよ。構築には影響しない。多分。――それにコウには五番機によって視覚化されているからね』

「ん? 聖櫃の中は俺やアシアに関係する何かなのか?」

『そうかもしれないし、そうではないかもしれない』

曖昧なアシアの回答に、コウは目を瞑った。

この通信でさえ傍されている可能を考えたのだ。

『彼の言う通り、時間稼ぎに過ぎない。ヘスティアが何をしたいのか、私にも不明よ』

「それだけ聞けば十分だ。相手がどこまで我慢強いか、だな」

そう長くは保たないだろうと予測するコウ。

肝心の暗號がMCSを通じても無意味なのだ。五番機を通じて視界に移るカラヌスの剣は、幾十にも絡み合った結び目に弾かれている。聖櫃にれることさえ出來ていない。

『私達も可能な手は打つ。焦っては駄目だよ』

「わかった。あの様子では時間もかかりそうだ」

あの調子では何時間かけても事態は変わらないだろうと判斷するコウだった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

AC6が発表されましたね。このシリーズのとある作品に自分も本名でクレジットされているので慨深いです。

とはいってもネメシス戦域最優先なのでご安心ください! AC6が発売されたので休載、等はないので!

いつかゲームが作れたらと思ってもACとは方向が違う世界なので。人型兵のほかに戦車や戦闘機も自軍にいてしいよね、と。

小説発のメカロボIPのために今後も頑張ります!

闘技場編のはずが遂にゼウス関連の寶まで。

語は大きくきます。コウたちがブリタニオン部で神経戦をしている間に、星アシアでもまた多方面できがあります。

次回はあの男の(変態)兵が稼働します!

新作報です。『暁闇の』というオカルトアクションラブコメ連載開始しました。

ネメシス戦域の遠いご先祖様ともいえる作品で、オカルト好きな方は是非。

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幾何學も量子もつれもよくわからない! 機械なのにいささか短期なアレクサンドロスⅠ! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!

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