《獻遊戯 ~エリートな彼とTLちっくな人ごっこ~》「どうしてほしいのかちゃんと言って」5
──今夜は莉と會う約束をしている。
そこでちゃんと話そうと決めた。
きっと不安にさせているこの関係も、はっきりさせるつもりだ。
俺は丸の支店の一階に降り、店頭窓口に顔を出した。
渉外擔當は基本的に出掛けているか二階のデスクで作業をしているかだが、取引先の報を店頭の事務行員がキャッチすることもあるため、普段から意識してコミュニケーションを取っている。
それに、異を控えた今は世話になった行員とできるだけ話しておきたい。
「お疲れさま」
俺は客足が途切れたところを見計らい、窓口にいる二年目の笹川(ささかわ)さんに聲をかけた。
「穂高さん!  お、お疲れですっ」
彼とはこれまであまり話す機會がなかったし、異前にしっかり挨拶をしておこう。
「どう?  今日は混んでる?」
「結構混雑しました。穂高さんの擔當先の事務員さん何人かいらしてて、皆さん異が寂しいとおっしゃってましたよ」
「本當?  うれしいな。笹川さんも、ありがとね」
「はい。……うう、私も寂しいです」
彼が泣き真似のジェスチャーをしたため、俺は「ハハッ」と軽く笑った。
「俺これから『よつば商事』に挨拶に行くから、書類出してもらえる?  預かってたリスト今日返そうと思って」
書類をくれという意味で手を差し出したが、笹川さんは突っ立ったままだ。
「それなら、今日、よつば商事の擔當者さんが店頭に來たので、お渡ししておきました」
「……え?」
俺は手を戻す。
「……誰が來た?  経理の加藤さん?」
「いえ。違う人でした。會社ではなく個人的な用事で來たみたいですよ。穂高さんがいるか聞かれましたがお出かけ中だったのでお繋ぎできませんでした。返卻があれば総務部に渡してくださるって仰ったので、お渡ししました」
「個人的な用事って?」
「払込用紙での支払です。お買いの代金の」
「処理済みの払込用紙ある?  ちょっと見せて」
俺の矢継早の質問に、彼は首をかしげながら「はい」と用紙を取りに行った。
……嫌な予がする。
よつば商事は、店頭には滅多に來ない。
用事があれば社長の個人的な支払でも俺に頼むことがほとんどだった。
それに、今総務部って言ったよな……?
よつば商事に〝総務部〟は存在しない。
笹川さんは払込済みの印の押された払込用紙を探してきて、「これです」と俺に差し出した。
すぐにけ取り、依頼人欄の名前を見る。
「西野里依紗(りいさ)さんという方ですね。こう、若くて髪の巻いてて、し派手な……」
「あのさ!  それ、『よつば商事』じゃなくて、『ヨツバ』の付の西野さんじゃないか?」
予は的中した。
俺は自分を抑えようとしたが、聲のトーンは低く、激しくなっていく。
笹川さんは聞いた瞬間はポカンとした表を浮かべたが、徐々に顔からの気が引いていった。
「……え……」
「笹川さん!  ヨツバとよつば商事は別の會社じゃないか!  ヤバいぞ、これ……」
「どうした穂高。大きな聲を出して」
いつもの俺では考えられないほどに取りしていたからか、後ろの席に座っていた事務の次長が割ってってきた。
「……あの、おそらく、ですが……」
「ふむ。なんだ?」
笹川さんは顔面蒼白でこまり、俺もおそらく、同じ顔をしている。
大変なことが起きた。
「誤返卻(ごへんきゃく)が起きました」
「なっ……」
「よつば商事への書類がヨツバに渡ってしまったようです。中は、従業員二百人分の、口座報と給與金額」
次長は目を見開き、俺たち三人のはシンと靜まる。
すぐに次長は「報洩だ」と呆然とつぶやく。
その瞬間、俺の脳裏には、よつば商事の社長の怒り、従業員二百人への謝罪、ヨツバの不信に満ちた反応のイメージが、映像となって次々と流れていった。
「すみませんっ……私……私……」
泣き出す笹川さんへのフォローよりも先に、俺は攜帯からヨツバへ電話をかける。
その間に次長は踵を返し、支店長の元へ報告に行った。
「ダメだ、晝休みでつながらない」
ヨツバは晝の一時間は留守電になっている。
だが総務部には誰かしらいるはずだ。
それこそ、莉とか。
報告を聞き、冷靜にも鬼のような顔つきに変わった支店長へ、俺は鞄を持って走りながら「俺取り返してきます!」と伝えた。
まだ中を見ていないかもしれない。
走れば間に合う。
外へ出て、街の中を走った。
移り変わる都會の景と、スーツで走る俺への好奇の目。
間に合わなかったらすべてが終わる。
相手と培ってきたはずの俺と銀行への信頼が、一瞬で崩れ去ることになる。
俺はここまで懸命にやってきた。
プレッシャーに打ち勝つために取引先の事業を勉強し、信頼を得るためにひたむきに要に向き合った。
信頼して預けてもらった資金も、報も、大事にしてきたつもりだった。
その努力が、最後の最後に、無になる。
走りながら、けなくも泣きたい気持ちに襲われた。
間に合え。
間に合え!
電話が通じる時間になり、俺はすぐに攜帯からヨツバへ掛ける。
『プー、プー』という機械音。
繋がらない。
噓だろ、こんなときに話中なんて。
かなりの距離を走ったため一度足がもつれ、息が切れる。
ポケットに攜帯を戻し、次は鞄の中にある、自分のプライベートのスマホを取り出した。
どうすればいいか分からないまま、通話畫面から【日野莉】を選ぶ。
「はぁ……はぁ……」
息が切れたままもう一度走り出した。
スマホを耳に當てたまま、願うような気持ちで、呼び出し音を聞いていた。
どうしてこんなときに繋がらないんだ。
もうダメなんだろうか。
すると、呼び出し音が止んだ。
『……はい』
出た!
「莉!!」
走る速度が増す。
『ど、どうしたの?』
「莉!  封筒を開けるな!」
俺は、全全霊でんでいた。
スマホを握りしめ、天に祈る。
『……あ、A4の封筒ですか?  それならもう……』
そんな。
間に合わなかったのか?
膝から崩れそうになりながら、皮にも、そのときやっとヨツバのエントランスへたどり著く。
り込むように中へり、総務部のカウンターへ。
俺の様子に、総務部の社員たちの視線が集中する。
カウンターの近くには、スマホを耳に當てたままの莉が立っていた。
「あ。穂高さん」
彼の腕には例の封筒が抱えられていた。
走りすぎてからの味がし、絶で頭が真っ白になる。
「これ、封筒です。どうそ 」
「……え?」
ふらふらとカウンターへ寄ると、彼から『よつば商事 中』と書かれた封筒が差し出された。
封は切られていない。
「西野さんから渡されたんですが、宛名が違っていたので。開けずに、たった今、支店にご連絡したところだったんですよ」
「…………開けて、ない」
「はい。確認せずお預かりしてしまったようで、申し訳ありませんでした」
け取るために手を出すと、自分の手は震えていた。
冷や汗が熱さに変わり、絶は安堵へ、張は力へ。
らかい笑顔を浮かべる莉は、まるで神のようで──。
「莉!!」
俺はカウンターの向こうの彼の手首をとった。
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