《獻遊戯 ~エリートな彼とTLちっくな人ごっこ~》「俺と付き合ってくれる?」1

──カウンターの向こうにいた清澄くんに手首を摑まれ、引き寄せられた。

「えっ!?」

彼の手はじわりと汗ばんでいたが、そんなことを考える間もなく私の頭は彼のに押し付けられる。

「え、え」

彼の青いネクタイが目と鼻の先にある。

カウンターを隔てているためを乗り出す形の無理な姿勢だったが、清澄くんはそんなことお構い無しに、私の背中へと手を回し、抱きしめた。

莉……!  マジで助かった!  ありがとう……!」

ギュウギュウと腕の中に閉じ込められ、私は混で目が回った。

皆が見てるのに……!

顔に熱が集まって溶けてしまいそうなくらい恥ずかしいが、私はこの腕をほどけないほど、うれしさが込み上げてきた。

どうして抱きしめるの?

になるから、私とはこれでサヨナラなんじゃなかったのだろうか。

で始まった私たちの関係は、ヨツバにも、銀行にも、誰にも知られないまま、終わるんだって思っていたのに。

こんなことして、いいの……?

「……清澄くん……?」

私が彼にだけ小さくつぶやくと、清澄くんはピクリと反応し、そして勢いよくを離した。

「あっ……」

彼は真っ赤になっており、おそらく私の背後にいる社員たちの視線をけて固まっている。

……私も同じだ。

背中がピリピリと痛い。

「す、すみませんっ……」

清澄くんは謝罪をして離れたが、もう取り返しがつかない空気になっている。

私も天に昇ってしまいそうな気持ちだ。

恥ずかしくて。

うれしくて。

「じゃ、じゃあ、こちらは回収させていただきます。今回のことは社長に改めてご説明に伺いますので。あ、あの、お騒がせしました。失禮します!」

清澄くんは真っ赤な顔のまま、逃げるようにエントランスを去ってしまった。

當たり前だが、周囲はしばらく沈黙し、そしてざわめき始める。

ああ……どう思われたかな。

責められるかな。

恨まれるかな。

でも、どう思われたとしても、今はそんなことは気にならなくて。

「信じらんないっ!  なによ今の!」

近くにいた西野さんが私に詰め寄るが、今は彼に噓をついて取り繕うことなどに頭は回らない。

「やっぱり穂高さんとそういう関係だったわけ!?  アンタなんでもないって言ったじゃない!  噓つき!」

こうやって言われることが怖かったはずの私なのに、なにも怖くない。

癖だったごめんなさいって言葉も思い付かない。

放心気味の私が黙っていると、ざわめく総務部に「靜かに」という課長の聲が響いた。

課長は私の前に立ち、西野さんに向き合う。

「そんなことより、西野さん。勝手に銀行へ行って書類を預かってくるなんてダメでしょう。け渡しは総務部が擔當することになっているんだから、いい加減なことをしたら銀行さんも混するわ」

「えっ、そんな、私はよかれと思ってやったんですぅ……」

「決まりを守ってって言っているの。前から思っていたけど、西野さんはちょっと離席が多すぎるし、まずは自分の擔當する業務を真面目にやって。今回は日野さんのおかげで、銀行さんに迷をかけずに済んだのよ」

「なっ……」

西野さんは私を睨むが、里見さんや課長、そして他の社員たちも彼に厳しい目を向けていた。

普段はあまり私を褒めない課長が、そんなことを言ってくれるなんて驚いた。

「日野さんも」

「は、はい!」

と思っていたけど、私にも課長の厳しい視線が飛んできた。

すると課長は、クスッと微笑む。

「彼氏とイチャついちゃダメ」

課長の、厳しくも甘いお叱りが、なんとも恥ずかしくて。

「……す、すみません……」

私を抱きしめて置いていった清澄くんが、ちょっとだけ憎らしかった。

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