《【書籍化&コミカライズ】創魔法の再現者 ~『魔法が使えない』と実家を追放された天才年、魔の弟子となり正しい方法で全ての魔法を極めます。貴方の魔法は、こうやって使うんですよ?~》133話 英雄王子・2

的な狀況からの第一王子の復活、そして誰もが予想だにしなかったカルマへの痛打。

それは、戦場の多くの場所に影響を與えていた。

「立て。諦めるな兵士たち。──あのお方を見るが良い」

今までの戦況の中で、とりわけ絶的だった場所。即ち兵士たちの士気が最も下がり、崩壊寸前だった戦場。そこに、王家直屬部隊隊長の靜かな聲が響いた。

むやみやたらと聲を張り上げるような真似はしない。そんなことをしなくても伝わると確信していたし、あの景を前にしては聲を上げることすら無粋だと彼自じていたから。

故に、続く言葉も余計なものは挾まず、端的に。

「立ったのだぞ、あのお方が。あれに(・・・)立ち(・・)向かって(・・・・)いるのは(・・・・)、第一王子(・・・・)殿下(・・)だぞ(・・)。よもやこの場に、その意味が分からないものは居るまいな」

隊長の聲が、兵士たちに染み渡る。

合わせて、先刻ヘルクが思いの丈をんだ時と同質の──けれどその時よりも遙かに大きな熱量が、兵士たちの中で渦巻く。

──ユースティア王國の兵士たちにとって、戦場は『勝てる相手に勝つ』だけの場所だった。

自分達が敵わないものは絶対に敵わない。それを倒すのは優秀な統魔法使い、自分達とは生まれた時から何もかもが違う、選ばれた雲の上の人たち。

そういう戦いを前にして自分達にできることなど、大人しく退いてそういう人たちに任せるか、それが不可能なら潔く諦めるか。その二択しか有り得なかった。

……それにどれほど忸怩たる思いを抱いているようと、それ以外はなかったはずだった。

そう、そして。

──第一王子ヘルクも、自分達と同じ側の人間だった。

今代の王家に産まれておきながら王家の範疇を出ない程度の力しか持たなかった存在。選ばれなかった側の魔法使いで、かわいそうな王子様。

それが、ヘルクに対する兵士たちの共通認識。何度も何度も無様を曬し、幾度となくげられ、醜く足掻くその姿には皆が同を抱いていた。

……自分達と同じだ、と自己投影すらしていたのだ。

もし、今カルマに立ち向かいカルマに痛打を與えた存在がエルメスやカティアのような存在だったなら、兵士たちはある種何とも思わなかっただろう。

無論敵手を打倒してくれることに喜びこそするが、やはりその底にあるのは『最初から違う人間が違うことをするのは當然』という思いで。心の芯に響くことも、彼らの価値観を変えることもあり得なかったのだろう。

でも、ヘルクなのだ。今目の前に立っているのは、同と共の対象だったヘルクなのだ。

そんな彼が。どれほど力が足りずとも足掻き続け、どれほど無様を曬そうとも諦めず。恨み言を吐いても、絶に苛まれても目標だけは失わずそれに向かって進み続け。

そうして遂には、どうやってかは分からないがあれほどの難敵を追い詰めている。

そんな彼を見て、兵士たちは思う。本來では抱いてはいけない──この國では抱いてはいけないとされていた、一つの想い。

憧憬。

自分達も、ああ在れるだろうかという想い。

力がなくても、無様に醜く足掻こうとも。それでもむもののために、しいもののために。手をばして抗うことが、許されるのだろうかと。

「……やるぞ」

一人の兵士が、立ち上がった。

的な狀況に、真っ先に心を折られてしまったはずの兵士の一人だった。

「やらなければ、ならない。──あのお方に、恥じぬ戦いを私もしなければならない。今は、心からそう思う」

誰に聞かせるともない、獨り言に近い言葉。故にこそ本心が溢れたその呟きを聞いた、周りの兵士たちにもそれは伝わり、

「そう、だな」「上に言われたからではない、そうしたいのだ」

「誇りという言葉を、今初めて知った気がする」

靜かに、けれど確かに。熱は広がっていく。

ある兵士はもう一度立ち上がり、別の兵士は魔に立ち向かい、負傷でそれができないものも自然とヘルクに対する聲援を送り始め。

そのうねりは大きく、戦場を覆い返そうとしていた。

一度不意をついた程度で倒せるほど、カルマは甘くなかったらしい。

「舐め……ないで、くれるかなぁ……っ!」

の半ばほどまでを凍り付かせながら……裏を返せば、その程度で止めて。

今の彼にとっては猛毒に等しい停滯の魔力を浴びながらも、尋常ならざる再生能力で強引に魔力を燃やして抗いながら、後退に合わせて殘る魔力で力任せに魔法を撃ってくる。

「っ、ぁ、──ッ!」

天敵の致命傷をけて大幅に力を削がれながらも、尚その魔法の威力は規格外。未だヘルクの知るどの統魔法使いよりも強力な魔法が、冗談のように連続して飛んでくる。

古代魔道(アーティファクト)を駆使してなんとか凌ぐも、かろうじて致命打は避ける程度。けきれなかった分の削りに加えて古代魔道(アーティファクト)の過剰使用によるのダメージ、地獄の二重苦がヘルクの総を襲う。

「だから……どう、した……ッ」

──そんなもの、耐えれば良い話だ。

反吐は吐くもので、戦いは痛いもの。自分はそれを、産まれた時から王族の誰よりも知っている。

それでもなりたいものがあるから、したい戦果があるから。やるんだろうが。

相手が自分より強いことなんていつものことだ。敵う気がしないのなんて、當たり前のことだ。何もかもがみ通りなんて贅沢、自分如きにめるわけがない。

良く、知っている。

それでも足掻くのだ。足掻き続けて、よしんばむ栄が摑めなくとも最後の最後まで進み続けることだけは決めているのだ。

その意志に従って、彼は最後の一撃を叩き込むべくもう一度魔法を起する、が。

「はは──知ってる、よ、きみの魔法は遅いんだっ!」

躱される。

大幅に機力を削がれた現狀でもカルマを捉えられないほどに、ヘルクの魔法は威力も速度も足りていない。あと一撃が、ささやかな自分の力では絶的なまでに遠い──それを痛するヘルクの前で、カルマが今効果範囲から完全に逃れようとするその剎那。

式再演──『白凪の大蛇(エリヴァ・ガルダ)』」

全く別方向からの、白霜の魔法。

しかもそれはカルマにとって唯一の天敵となる魔法。間一髪でカルマが回避するも、その余分な作でヘルクの魔法の程から逃げ切ることは未だ葉わず。

それをせる人間など、この場に一人しかいない。

「エル、メス……!」

創痍になりながらも、翡翠の瞳にだけは変わらぬ眼を宿して己を狙う敵手。その名をカルマが忌々しげに呟く。

ヘルクも、エルメスがこの狀況を作った最大の功労者であると理解するが故になんとも複雑な視線を彼に向けるが。

「……納得いかなさげですね。目の前に持ってこられた勝利ではやはり駄目ですか」

エルメスは、その視線をけ止めた上で苦笑して。

「その考え自にはむしろ好を覚えますが、一つだけその上で申し上げるなら」

端的な言葉を、告げる。

「貴方の執念がなければ、この狀況は絶対に有り得なかった。その事実だけは、認めてもよろしいのではないでしょうか──

──後ろの方々の、ためにも」

言われて、後ろを向く。

するとそこには、自分がカルマに突撃したのとは全く違う景。

多くの兵士たちが士気を取り戻し、果敢に魔に立ち向かい。そうでないものも必死に聲を張り上げ、その中の多くが自分に対する聲援を上げ。

彼らが全てを理解したわけではないだろう。けれど──確かに、ヘルクのように己のなすことを足掻きながらし、ヘルクに希を託す景が広がっていて。

そして。

それをけ止めるのが王族の責務だとも、彼は良く理解していたので。

「僕の『白凪の大蛇(エリヴァ・ガルダ)』もカルマには有効、けれどやはり貴方の魔法が最も致命傷になり得ます。そう進化を導しましたから」

手負いの方から突破することを決めたのだろう、エルメスめがけて魔法を撃つカルマの攻勢を捌きながら、エルメスが続ける。

「だから、援護します。隙を作りつつ絶対に逃さないようにするので、どうにかもう一度奴に魔法を打ち込んで下さい。絶対に出來ます──もう一人、援護も居ますので」

「!」

「な──ッ」

ヘルクが瞠目し、カルマが悪寒を覚えて飛び退く。

その一瞬後、カルマがいた場所目掛けて凄まじい勢いの剣閃が走った。

「……謝するぞ、カルマ。利き腕を折られたのは久しぶりだ」

こちらも満創痍、言葉通り片方の腕をだらりとぶら下げながらも。

むしろ常よりも苛烈な戦意を宿し、爛々と金の瞳でカルマを見據えるルキウスの姿が。

「そういうわけで殿下。……余力は殘っていますか?」

「私ごと撃っても構いません。どうか自らの手で、この戦いに決著を」

エルメスと、ルキウス。

既にこの國では最上位だろう実力の二人に、確かな助力を求められ。

なんとも言い難いが、ヘルクの中で暴れる。けれどそれを今は呑み込んで、ヘルクも王族として為すべきことを為す。

確かに、言えることは。

この上なく、頼もしいということだったから。

「……謝する、臣下たちよ。

──絶対に、逃がすな」

慣れない言葉に、けれど二人は躊躇なく頷いて。

にとどめを刺すべく、三人は揃ってカルマに立ち向かう。

力が足りずとも、絶対に諦めず困難に向かい。

その意志と気高き心で、共に戦う仲間を鼓舞し皆の中心に立ち。

運命を呼び込み、その場の強者を味方につけ、絶的な逆境を跳ね返す。

それを為すものを──人は、英雄と呼ぶ。

やがて真にその名をけ継ぐ者が、その始まりとなる戦いに挑み。

戦いが、最後の激突へと突する。

次回、決著予定。ぜひお楽しみにしていただけると!

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