《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第214話「魔王ルキエ、観事業を立ち上げる(2) −伝説の魔獣の恐怖−」

「……溫泉に安全にるための方法はわかったのじゃ」

「……『三角コーン』なら十分、安全は確保できると思います」

『鹿威(ししおど)し』の実験をしてから、數日後。

俺たちは玉座の間で、観施設についての話をしていた。

「陛下、トールどの」

同席しているケルヴさんは、俺とルキエを見て、首をかしげた。

「おふたりはどうして、視線を合わせようとしないのですか?」

「「気のせい (じゃ) (です)」」

……『鹿威(ししおど)し』の実験中に、々あったからね。

俺たちは、目を合わせづらくなっちゃったんだ。

「さて、問題はどうやって観地に人を呼ぶかじゃな」

「想定される観客が魔王領の者だけなら、溫泉だけでも十分だと思われます。ですが、帝國の者も呼ぶとなると……溫泉以外も必要になるでしょう」

宰相(さいしょう)ケルヴさんは考え込むように、

「人間の中には、魔王領を警戒している者もおります。そんな者でも來たがるような魅力が必要でしょう。その場所にしかないような、限定的な魅力が」

「魔王陛下と宰相閣下に申し上げます」

俺は床に膝をついて、告げる。

「人を呼ぶための魅力について、勇者世界を參考に考えてみました」

「やはり……すでに考えていらしたのですね」

「はい、宰相閣下。勇者世界の資料を調べたところ、あちらの世界には『ご當地キャラ』というものがあるそうです」

「『ご當地キャラ』、ですか?」

「その場所に行かなければ會えない相手です。勇者世界では、それらに出會うために、長い旅をする者もいたそうです」

先々代の魔王が殘した資料には、そんなことが書かれていた。

勇者世界には各地の特徴を生かした『ご當地キャラ』というものがいたらしい。

その『ご當地キャラ』に會うために、空を飛び、海を渡る人間もいたそうだ。

「ですがトールどの。『ご當地キャラ』とは、どのようなものなのですか?」

「おそらくは、勇者にとっての強敵でしょうね」

資料には『ご當地キャラ』のシルエットだけが載っていた。

角のある者や、羽のある者、鎧兜(よろいかぶと)をに著けたような姿だった。

的に頭が大きいのが特徴だ。

人間に似ているけれど……おそらくは、魔獣だろう。

『ご當地キャラ』の中には、片刃の剣などの武を手にしている者もいた。

つまり『ご當地キャラ』は聖剣・魔剣を使いこなす魔獣ということになる。

勇者世界の人間にとっては、おそるべき脅威(きょうい)だろう。

そんな『ご當地キャラ』の元に人が集まるのは當然だ。

勇者世界の者は、みんな、戦闘民族なんだから。

彼らは『ご當地キャラ』を倒して名を挙げるために、長い旅をしていたんだろう。

──と、いうことを、ルキエとケルヴさんに説明すると、

「待て、トールよ。それはおかしいぞ」

ルキエは不思議そうな顔で、首をかしげた。

「『ご當地キャラ』が勇者でも倒せない魔獣だとするなら、その生息地(せいそくち)は危険な場所のはずじゃ。『観地』と呼ぶのはおかしいのではないか?」

「……あ」

ルキエの言う通りだ。

勇者でも手こずる『ご當地キャラ』がいる場所を『観地』と呼ぶのはおかしい。

しかも、『ご當地キャラ』が存在しているということは、勇者は奴らを倒せなかったということだ。倒せば『ご當地キャラ』はいなくなってしまうんだから。

おかしいな。

資料には『観地で、ご當地キャラに會おう!』と書いてあるんだけど。

「トールは『勇者は戦闘民族』という固定観念にとらわれすぎではないのか?」

ルキエはそう言って、笑った。

「いかに勇者とはいえども、観地で魔獣と戦うわけがないではないか?」

「確かに……そうかもしれません」

「じゃろ? そもそも、溫泉地はくつろぐための場所じゃ。そんな場所に強敵がいては、おちつかぬ。おそらく『ご當地キャラ』とは、戦うための相手ではないのじゃろう」

「では『ご當地キャラ』とは……?」

「それは常識的に考えればわかることじゃよ」

優しい笑みを浮かべて、ルキエは告げる。

「『ご當地キャラ』とは、伝説の魔獣に化けた人間……あるいは、魔獣に似せたゴーレムなのじゃ!」

「なるほど!!」

「さすが魔王陛下です!!」

俺とケルヴさんは、ぽん、と手を叩いた。

ルキエの言う通りだ。観地で、魔獣と戦うわけがない。

でも、作りなら話が通る。

伝説の魔獣と戦うためには、その姿形を知り、戦い方を研究する必要がある。

そのために、魔獣に似せたものを用意したのだろう。

それが『ご當地キャラ』なら、人が集まるのもわかる。

勇者世界の者たちは、よろこんで魔獣 (レプリカ)を見に來るはずだ。

そっか。『ご當地キャラ』とは魔獣に似せた作りだったのか……。

「勇者世界の人たちは観地で、伝説の魔獣のレプリカを見ながら、攻略法を考えていたんですね……」

「その後は模擬戦闘(もぎせんとう)を行い……疲れたを溫泉で癒(い)やしていたのでしょう。合理的です。さすが勇者世界ですな」

俺とケルヴさんがうなずく。

でも、ケルヴさんは困った顔で、

「ですが……それをこの世界で実現するのは難しいかと」

「どうしてですか。宰相閣下(さいしょうかっか)」

「この地には『ご當地キャラ』になりそうな魔獣はいないのです」

魔族と亜人たちは、勇者と人間に追われて、北の地にやってきた。

魔獣を倒し、土地を切り開き、魔王領を作った。

「ですが、歴代の魔王陛下が手こずるような魔獣は、存在しなかったのです」

「……なるほど」

そりゃそうだ。魔王なんだから。

強力な闇の魔る魔王に勝てる魔獣がいるわけがない。

「だったら、人間の領土で有名な魔獣を『ご當地キャラ』にしましょうか?」

「いや、それも難しかろう」

ルキエは頭(かぶり)を振った。

「人間領にいた強力な魔獣たちは、そのほとんどが勇者たちによって倒されておったはずじゃ。『ご當地キャラ』になりそうな魔獣は、殘っておらぬのではないか?」

「『魔獣ガルガロッサ』を『ご當地キャラ』にするのはどうですか?」

「『ハード・クリーチャー』はよくないと思うぞ?」

「そうですか?」

「帝國の連中は『ハード・クリーチャー』を召喚しておる。それをご當地キャラにしたら、彼らを挑発(ちょうはつ)していると取られかねぬ」

「……それはありそうですね」

帝國の連中は、プライドが高いからな。

しかも、彼らは『ハード・クリーチャー』と戦って敗れている。

そんなものを『ご當地キャラ』にしたら『嫌味か!?』『オレたちをバカにしてるのか!?』って思われるかもしれない。なくとも、客寄せにはならないだろう。

……うーむ。

『ご當地キャラ』を決めるのって難しいな。

勇者世界ではどうしてるんだろう?

魅力的な『ご當地キャラ』なら、観の起剤(きばくざい)になると思うんだけど。

魔王領がかになっていくためにも、帝國との流を深めるためにも、役に立つはずだ。

それが勇者世界の風習なら、帝國の人たちも喜ぶだろう。

「でも……良さそうな魔獣がいませんね」

「『ご當地キャラ』にできそうな魔獣となると、條件が厳しいのじゃ……」

俺とルキエは顔を見合わせて、考え込む。

「帝國と魔王領の両方で、有名な魔獣がいればいいんですけどね」

「古いもの……例えば、勇者召喚が行われる前に存在していたものはどうじゃ?」

「勇者でも倒せなかった魔獣ですか?」

「うむ。あるいは、勇者に見つからなかった魔獣じゃな」

「そんなものがいるんでしょうか……?」

「歴史に詳しい者なら、知っておるやもしれぬな」

「魔王領で歴史に詳しい人というと──」

「歴史を語り継いできた家の者……つまりは、宰相家(さいしょうけ)の者じゃな」

じ────っ。

俺とルキエは、ケルヴさんを見た。

「わ、私ですか? 確かに私の一族は、代々、魔王領の歴史を語り継いでいるのですが……それより昔の出來事となりますと……」

じ──────っ。

「わ、わかりました。思い出してみましょう……」

ケルヴさんは額を押さえて、考え込む様子だった。

玉座の間を歩き回り、時々、柱に近づいて──我に返ったように、離れて。

『アイス・ピラー』の魔で氷の柱を生み出し、それに額をくっつけて。

しばらくして、なにかに気づいたように、顔を上げて──

「思い出しました。この世界には……確か『アビスルインダババ』という魔獣の語があったはずです」

──ケルヴさんは、そんなことを教えてくれた。

「勇者時代以前から伝わるものです。『魔獣アビスルインダババ』は名狀(めいじょう)しがたき姿をしており、出會った者に奇妙な問答を仕掛けるそうです」

「ほほぅ」

「『魔獣アビスルインダババ』ですか……」

「弱い魔獣だったのか、あるいは、勇者がわざわざ討伐するほどの相手ではなかったのかはわかりません。ただ、大陸の各地で語り継がれた魔獣ですから、帝國にも言い伝えが殘っているのかもしれませんね」

「思い出しました。俺も似たような魔獣のことを、本で読んだことがあります」

帝國の役所にいたころ、俺は書庫で歴史書を読んでいた。

そこに『後ろから追いかけてくる魔獣』の伝説があったんだ。

名前は『アビスルインダババ』か、それに近いものだったと思う。

暗い道を歩いていると、草むらから現れて、すごい勢いで追いかけてくるそうだ。対処法を誤るとさらわれたり、攻撃をけたりするらしい。

「なんとも不気味な魔獣じゃな……」

「出會ったら、その場で3回まわって手を叩くそうです。そうすると魔獣は立ち去るらしいですよ?」

「帝國ではそうなのですか? 當家に伝わっているのは『後ずさりながら、3回「はにゃん、ぱにゃにゃん」と唱える』という対処法なのですが」

俺とケルヴさんは顔を見合わせた。

「土地によって生態が違うんでしょうか?」

「あり得ます。同じ種類の魔獣でも、山に住む者と、砂漠を住処(すみか)とする者では、屬や弱點が異なりますから」

ケルヴさんの言う通りだ。

例えば魔獣『マウンテンウルフ』は寒さに強く、皮(ひふ)がい。

だけど、同じ狼型の魔獣の『サンドウルフ』は暑さに強い。皮は薄いけれど、その分、きが速い。

同じ狼系の魔獣でも、住む場所によって違っている。

伝説の魔獣『アビスルインダババ』も同じようなものかもしれない。

「『魔獣アビスルインダババ』の記録が、帝國にもあるなら、使えるかもしれぬな」

ルキエは、満足そうにうなずいた。

「ならば『ご當地キャラ』にちょうどよい。トールとケルヴが知る伝説を掲示(けいじ)すれば、魔王領の皆も『魔獣アビスルインダババ』に興味を持つはずじゃ。『魔獣アビスルインダババ』の『ご當地キャラ』を観地の目玉にするとしよう!」

「…………」

「…………むむ」

「どうしたのじゃ。トールにケルヴ。難しい顔をして」

ルキエは首を不思議そうに、

「『アビスルインダババ』に似せたゴーレムを作ってしいのじゃが、難しいか?」

「ゴーレムを作るのはできます。問題ありません」

それは錬金師(れんきんじゅつし)にとっては、難しい技じゃない。

俺も魔王領に來てからたくさん、マジックアイテムを作っている。素材もある。

たぶん、良いものができるだろう。

「問題は『魔獣アビスルインダババ』がどんな姿をしているのか、わからないことなんです」

「……あ」

ルキエが目を見開いた。

わかってくれたみたいだ。

『魔獣アビスルインダババ』の姿形(すがたかたち)は誰も知らない。

帝國の伝説では、背後から語りかけてくるだけだ。やっぱり、どんな姿なのかはわからない。

魔王領の方でも『名狀(めいじょう)しがたい姿』──つまり、語ることのできない姿とされている。

姿形がわからなければ、『ご當地キャラ』にできないんだ。

「まずは、皆の話を聞いてみようと思います」

俺は言った。

「魔王領のみんなから話を聞けば、『アビスルインダババ』の姿形がわかるかもしれません。々な人の話を聞いて、一番多かった意見を元にゴーレムを作りましょう」

「なるほど。それなら実に似たものが作れるじゃろう」

「いいアイディアだと思います。トールどの」

ルキエとケルヴさんはうなずいた。

こうして俺は『魔獣アビスルインダババ』について尋(たず)ねて回ることになったのだった。

────────────────────

・1人目。衛兵のミノタウロスさん (人間換算年齢24歳。獨

「祖父から、聞いたこと、あります」

「『アビスルインダババ』とは、赤くてヒラヒラしたものだと」

「その奇妙なきを見ていると、我を忘れてしまう、と」

「出會ったら冷靜さを保ちなさいと、祖父から、聞いている、です」

──なるほど。『アビスルインダババ』は、赤くてヒラヒラしている、と。

────────────────────

・2人目。ドワーフの廚房係(ちゅうぼうがかり)さん(人間換算年齢18歳。人妻)

「はい。曾祖母(そうそぼ)に言われたことがあります。『いい子にしていないと「アビスルインダババ」が來るよ』と」

「ただ……どういう姿のものかは、聞いたことがありません」

「とにかく巨大で、雑な生きだと聞いています。手先が用なドワーフは、そういう生きが苦手ですから」

「あ、はい。お役に立てれば栄です」

──『アビスルインダババ』は、巨大で雑な生き、と。

────────────────────

・3人目。留學生の皇さん(16歳。獨

「『アビスルインダババ』は、離宮で読んだ絵本に出てきました」

「え? 姿形? もちろん知っています」

「なんというか、ブワーッとしていて、もじゃもじゃで、ズドドドドーン、と歩く生きでした。なのにシュババッと移するのです」

「え? 『完全に理解しました』ですか。さすが錬金師(れんきんじゅつし)さまですね」

──『アビスルインダババ』は陸と空を制して、八本腳でが生えていて、重低音と共にき回る、と。

────────────────────

なるほど、わかった。

うん。これだけ証言が揃(そろ)えば大丈夫だな。

つまり『魔獣アビスルインダババ』の正は。

は………………。

…………うん。たぶん、あれだな。

──數日後。玉座の間にて──

「『魔獣アビスルインダババ』は名前だけの、実のない魔獣です」

俺はルキエとケルヴさんに向けて、告げた。

「『魔獣アビスルインダババ』というのは、みんなが怖がるものの象徴(しょうちょう)なんです。子どもをしつけたり、言い聞かせたりするために使われていたようです。つまり、実際は存在しない魔獣ですね……」

「「……なるほど」」

ルキエとケルヴさんは、納得したようにうなずいた。

『アビスルインダババ』の姿かたちがはっきりしない理由も、それで説明がつく。

ケルヴさんのご先祖は、人間と敵対していた。

たぶん、彼らにとって人間は、よくわからない価値観を押しつける存在だったんだろう。そういうものと出會うことは、ケルヴさんのご先祖にとって恐怖だったのかもしれない。

そこから、『魔獣アビスルインダババ』の伝説が生まれたんだ。

人間にとって怖いのは、夜道で攻撃されることだ。

亜人と比べて、人間は夜目が利かない。覚も鈍い。腳もそれほど速くない。

夜道では、常に恐怖をじていたはずだ。

だから『夜道には気をつけるように』という注意をうながすために、『夜道を追いかけてくる魔獣』の伝説が生まれたんだろうな。

ミノタウロスさん、ドワーフさんの証言も同じだ。

それぞれの種族にとっての『警戒すべき相手』が『アビスルインダババ』になっている。

リアナ皇が教えてくれた『アビスルインダババ』は……あれは絵本を書いた人のセンスによるものだろう。

というわけで、『魔獣アビスルインダババ』の正は──

「たぶん、太古の言葉で『アビスルインダババ』というのは、怖いものを表す単語だったんじゃないでしょうか。それが変化して、魔獣の伝説になったんだと思います」

「……そういうことじゃったのか」

「……トールどのは……歴史上の定説をくつがえしてしまったのですね」

「仮説ですけどね。真実を知るためには、もっと調査が必要です」

先は長い。

『アビスルインダババ』の真実を突き止めるためには、もっと多くの人から話を聞かなければいけない。

調査には、長い時間がかかるだろう。

長命の生き──ドラゴンや『ご先祖さま』の協力も必要かもしれない。

俺が生きている間に終わるかどうかも、わからない。

それでも、やる価値はある。

勇者時代よりも古い歴史を知るためだ。錬金師として、やりがいがある。

がんばろう。

いつか、『アビスルインダババ』の正について、堂々と発表できるように──

「こら、トール……トール! 聞こえておるのか!?」

「──はっ!」

気づくと、ルキエが俺の肩をつかんでゆさぶってた。

いけないいけない。考え込んでたみたいだ。

「大丈夫ですルキエさま。俺は必ず、太古の言葉──『アビスルインダババ』の正を突き止めてみせます!」

「待て待て待て!」

「どうしましたか?」

「余たちは、『ご當地キャラ』の話をしていたのではないのか?」

「……あ」

忘れてた。

地のための『ご當地キャラ』を探していたんだっけ。

「申し訳ありません。考古學の探究をしてる気分になってました」

「まぁ、そうじゃろうと思っておったが」

ルキエは苦笑いして、

「じゃが『アビスルインダババ』が恐怖の象徴だとすると……『ご當地キャラ』にするのは難しいじゃろうな」

「決まった形がないのですからね」

ルキエの言葉を、ケルヴさんが引き継いだ。

「人によってイメージする『魔獣アビスルインダババ』が違うのであれば、ゴーレムにも著ぐるみにもできません。『ご當地キャラ』にするのは無理なのでは……」

「大丈夫です。対策を考えました」

「対策をじゃと!?」

「そんなものがあるのですか!?」

「簡単です。『魔獣アビスルインダババ』が恐怖の象徴なら、その人がイメージする『怖いもの』に変形するゴーレムを作ればいいんです」

幸い、俺の手元には自在に変形する『抱きまくら』がある。

さらに『応(せいしんかんのう)素材』もある。

このふたつを組み合わせれば、人の『恐怖』に反応して姿を変える『抱きまくら』が作れるはずだ。

「まずは、『魔獣アビスルインダババの館』というものを作ります。り口には『この先にはおそるべき魔獣アビスルインダババがいます』と書いておきます。それを見た者は、自分が知る魔獣の姿をイメージするはずです。そのイメージに反応するように『応素材』をセットしておけば……」

「『抱きまくら』が、イメージ通りの姿に変形するというわけじゃな?」

「そうすれば、場者は自分が恐れる『魔獣アビスルインダババ』を見ることになります。お客は恐怖をじたあと、溫泉で気分を癒(い)やすことになります。つまり、刺激と癒しを楽しめる観地ができあがるわけです」

「なるほどなのじゃ」

ルキエは腕組みをした。

「余は、悪くないと思う。ケルヴはどうじゃ?」

「私としては……実際に見てみないことには、なんとも言えません」

ケルヴさんはルキエと俺に一禮して、

「それが実際に人を呼び込めるほどのものなのかどうか、正直、想像がつかないのです。私には、あまり想像力がないもので……」

「わかりました。では、試作品を作ってみます」

確かに、言葉だけじゃわからないよな。

実際に作って、試してみないと。

「お客に不満を抱かせてしまったら、観地の名が廃(すた)りますからね。『アビスルインダババの館』の試作品を作って、実験してみましょう」

「妙案だと思います」

ケルヴさんがうなずいた。

「それを見て、宰相府(さいしょうふ)として許可を出すか決めることといたします」

「よろしくお願いします。宰相閣下」

「問題ありません。私も、トールどのの技は信頼しております。しっかりチェックして許可を……むむ、許可を……私が許可を出すということは……?」

ケルヴさんの表がひきつる。

彼は、ゆっくりとルキエの方を見て、

「陛下……今回の事業は、私が許可を出すのでしたね?」

「そうじゃな」

「となると、トールどのが『アビスルインダババの館』を作られたら、最初にそれを験するのは……こ、この私で……」

「いや、余が験しても構わぬぞ」

「魔王陛下が?」

「うむ。トールが作った試作品のマジックアイテムは、何度も験しておるからな」

「…………いいえ。そういうわけにはいきません」

ケルヴさんは、ぐっ、と拳を握りしめて、

「それでは私が、宰相の役目から逃げたことになります。今回の観事業は宰相府の管轄(かんかつ)です。私は役目を果たします! 相手が『魔獣アビスルインダババ』とはいえ、作りならば怖くはありません。魔王領の『ご當地キャラ』を、この験するとしましょう!」

そう言ってケルヴさんは、ぽん、と、を叩き──

俺は『魔獣アビスルインダババ験セット』の開発を始めた。

そして、數日後。

した『魔獣アビスルインダババの館』にったケルヴさんは──

ばたん!

すたすたすたっ。

ざぼん。

館にって數分後、ケルヴさんは『魔獣アビスルインダババの館』を飛び出して、大浴場へ。

そのまま熱いお湯に浸かって、ため息をついた。

それから、ケルヴさんは、

「……生きてるって素晴らしい」

そんなことをつぶやいたのだった。

ちなみに、館の中で何を見たのかは、教えてもらえなかった。

ただ、宰相府の公式記録には、

「……名狀(めいじょう)しがたき恐怖そのものでした」

──そんな一言が、書き殘されていたのだった。

その後、ケルヴさんの意見を取りれて、『魔獣アビスルインダババの館』は、しだけ、ゆるやかなものになった。

的には、魔獣に変形する『抱きまくら』を丸っこく、らかく調整した。

ついでに、叩いたり抱きしめたりしてもいいように、素材を整えた。

そうして、魔王領の人たちに、改めて験してもらったところ──

────────────────────

・1人目。衛兵のミノタウロスさん (獨

「『魔獣アビスルインダババ』と出會っても、自分が落ち著いていられることに、おどろきました。自分の恐怖を克服できたような、気がします。自信が持てるようになりました。、です」

────────────────────

・2人目。ドワーフの廚房係さん(人妻)

「『魔獣アビスルインダババ』を抱きしめたら、亡くなった曾祖母(そうそぼ)との思い出がよみがえりました。たくさん泣いてすっきりしました。ありがとうございます!」

────────────────────

・3人目。留學生の皇さん(獨

「おどろきでドキドキです! ワーッとして、もじゃもじゃズドドドドーンなのに、かわいいなんて。將來、私が率いる近衛兵団(このえへいだん)の紋章にしたいです!」

────────────────────

──ゆるいじになった『魔獣アビスルインダババ』には、癒(いや)し効果があることが発見されたのだった。

そして、數日後、擔當者を集めて観地についての會議が行われた。

その席で『魔獣アビスルインダババ』は正式に、溫泉地の『ご當地キャラ』となることが決まり──

まずは『ノーザの町』に、観地への招待狀が送られることになったのだった。

書籍版『創造錬金師は自由を謳歌する』5巻は、本日発売です!

勇者世界からやってきた、カレン・カツラギ。

には、メイベルと同じペンダントが。

そして、トールとカレンの出會いがもたらすものとは……?

本日発売です! 『創造錬金師』第5巻を、よろしくお願いします!!

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