《魔法が使えないけど古代魔で這い上がる》56 親世代の本気

「魔王サマー、どうですかぁ斬られ心地は?斬られたいとこあったら言ってくださーい!」

常に軽口を叩きながらレオンとの連攜で隙をつくらせずに攻め立てるロイド。

魔王も挑発が効いているのか正面突破を念頭に置いており、一歩もかず2人を迎え撃つ姿勢を崩さない。

(さて、順調……ではあるけど、やっぱめちゃくちゃ魔力多いなこいつ!)

確実に魔王の魔力は減っている。

魔王自が口にしていたように、時魔を自分に施すこと、そして時を戻すという作用を與えることは時魔の中でも消費量と難易度が高い。

その二つを重複させた自の時を遡る時魔は、確かに膨大な魔力を魔王に使わせている。

かれこれどれだけ魔王にダメージを與えたであろうか。これが仮に竜種であろうとも3桁近くは倒したであろう。

そもそも、戦闘が始まってすぐの先手必勝とばかりに攻撃を畳み掛けた時も恐らくはダメージ自は與えていたのだろう。

だが、ロイドでなければ気付かない程しか魔力の減が見えない程に、もともとの魔力量が膨大すぎるのだ。

そして現在、かなり魔力量は削れている。

こちらの魔力量もの魔力循環をメインとした戦い方なので消費はない上に、魔導の剣という破格の裝備によってこの作戦は支えられていた。

この調子でいけば、あと10分ほどもすれば『魔力増幅』で一気に押し切れる。

そう頭の端で計算した時だった。

「はぁ、お前達の相手は飽きたよ」

「うっそぉマジっすか、典型的な負け犬の遠吠えじゃないっすか」

「録音しておけば良かったな。いや、またすぐに言いそうか」

すかさず煽るも、魔王は挑発に乗らずについに距離をとった。

それを心で舌打ちしつつ、ロイドとレオンは距離をつめるべく地面を蹴る。

「それに後ろの者達もかまってやらないとな」

だがそれよりも早く、魔王の魔が発した。

「ちっ、魔力量にもの言わせてきやがったか」

「魔王って案外大雑把な攻撃多いよなちくしょー!」

ロイドの言う通り、魔王は膨大な魔力量を生まれながらに備え持つ存在。節約や効率など度外視したゴリ押しこそが本領。

それを表すかのように、空が黒一に染まる。

「破壊魔『夜』」

まだが照らす時間でありながら、朔夜のような闇が一帯を覆う。

破壊魔法の特徴である黒が、數えるのも億劫になる程空を埋め盡くしていた。

「もし耐えたら、また遊んでやろう」

「遊び相手がいないぼっちのくせに偉そーに!」

ロイドは半分くらい脊椎反で悪態をつきながら地面を蹴り返して反転。後方に居るクレアやエミリー達のいる仲間のところまで跳んだ。

レオンも同じく戻り、全員が固まってこの天変地異のような攻撃に耐えようと構えたと同時。

夜が墮ちてきた。

をも破壊するようなどこまでも漆黒の夜空となったそれが墜ちてくる景は、言葉にならない嫌な迫力があった。

「先輩、『魔力増幅』いきますか?」

「今それやると多分ジリ貧になる。出來りゃナシでいきてーんだけどな……」

ロイドとレオンのだからこそ魔力消費を抑えて魔王の魔力量を削れたのだ。普通に戦って削ろうとすればまず間違いなく先にこちらの魔力が盡きる。

つまり防戦となり魔王の魔の迎撃に追われる狀態になれば、そのまま追い詰められるだけとなってしまう。

とは言えこの狀況はあまりに厳しい。

まずは切り抜ける事を考えるしかないか、とロイドがクレアに『魔力増幅』を頼もうとした時。

「ならばここは任せてもらおうか」

「ロイドが思ったより頑張ってたから暇だったしねぇ」

聞くだけで何故か安心してしまうような二つの聲が聞こえた。

「それにロイド達はもはや立派な戦力だ。もし俺達が力盡きても任せられる」

「いや父さん、なんか不吉な言い方やめてくれ」

「なぁに安心しろ、必ず生きて帰ってくるさ」

「死亡フラグぅうう!?父さんなんでそんな言葉知ってんの?!」

「ロイド、お前から聞いたんだが」

ルーガスとシルビアだ。なんか死亡フラグみたいことを真顔で言う父に思わず苦言を呈するも、やはり頼りになる両親の存在は安心があった。

そして死亡フラグの発言を撤回することなくルーガスはふわりと浮かび上がり、そのに蒼くき通る風を纏っていく。

「……って、おいおいマジかこれ?」

その様子を見送っていたロイドは、その力の高まりに目を剝いた。

風が凄まじい勢いで集まっていく。大規模な臺風が突如発生したかのような風が吹き荒れ、それがルーガスへと集約されていた。

それは戦闘中のロイドでは気付けなかった事だが、その風は遠く離れた王都や帝國にも及んでおり、上空から見れば雲が早送りのように集まっていくのが分かる程である。

「と、父さんってこんなに強かったのか…?」

たった1人で天候すらも変える存在――『風神』の二つ名に恥じぬ威容に、ロイドをして息を呑む。

「穿て」

そして短い言葉と共に、天変地異と天変地異が衝突した。

夜空のような黒い弾丸の雨と、澄み渡った青空のような蒼い大気が天空の支配権を奪い合うかのように互いを食い破り、相殺されていく。

その余波で大地は悲鳴をあげるかのように軋んでいた。

それでもなお、夜空の墜落は勢いこそ落ちれど止まる事はない。

しかし、それを良しとする妻や腐れ縁の仲間達ではない。

「『四元』」

魔法にされたエルフ族、その中でも高い魔法適正を有するクレアですらいまだ至らぬ魔法の極地。

四大屬の魔法を緻なバランスで束ねてたった一本の敵を穿つ槍とするオリジナル魔法。

それらの屬を相殺させずに共鳴、干渉、昇華させて、純粋な破壊力の塊と化したそれは、エミリーの『蒼炎』をも超える破壊力を有する。

それを現代最強の魔法師であるシルビアは夫に立ち塞がる夜空へと放ちーー音もなく空を覆う夜を食い破り、大きなを殘して貫いた。

「『萬雷・束』『雷華』――『霹靂』」

それによって出來た夜空のからは、しかし青空ではなく暗雲が覗きーーその暗雲から、巨大な雷が落ちる。

 それと同時に、鏡寫しにしたかのように大地からも雷が天へと昇っていった。

二つの雷は夜空の中心で衝突し、その莫大なエネルギーを全方位に拡散させていく。

空一帯を紫電で染め上げる『萬雷の魔』ベルの切り札は、神鳴りと呼ぶべき天災として夜空を食い破らんと暴れ回っていく。

「『破剣』」

當代の剣の頂きに立つ男の本領である暴力的な剣。

それを象徴する獣のような荒々しい魔力を限界まで込めた一振りは、『剣神』の相棒に恥じぬ名剣をもってして刀がひび割れる極大の一撃。

剣神ラルフの剣と引き換えに放たれた渾の斬撃は、夜空を真っ二つに斬ってのけてみせた。

「おおおおおおっ!」

ルーガスが咆哮をあげる。風の王たる彼の雄びに応えるように、なおも集まり続けていた蒼い風は、穿たれ食い破られ斬られたことで弱まる夜空を一気に押し返していく。

「やるじゃないか」

これが本気の心であった事は、しかしこの場の誰もがどうでも良い事であった。

それよりもいつの間にか距離を詰めてルーガスの目の前へと現れている魔王の脅威が何よりの問題だからだ。

「っ?!」

この巨大すぎる魔を行使しながらけるとは流石に思いもしなかったルーガスは虛を突かれたように目を見張る。

それを嘲るでもなく、魔王は『敵』と見なした相手を貫かんと人外の膂力を有する右腕を振りかぶる。

「だと思った……『鎌鼬』」

その拳が放たれるよりも早く、魔王やルーガスはおろか離れて見ていた者達にすら気付れずに現れた男がそれを阻んだ。

稀代の暗殺者は空中に佇む2人の更に頭上を陣取り、音も気配もないままに魔王のを刻む。

魔王をもってして虛を突かれたのか目を瞠り、己の傷を治すことすら忘れて自を襲った者が何者かと顔を向ける。

それに合わせたように、ドラグは空中で用に回転して加速した勢いそのままに踵落としを魔王の顔面へと叩き込んだ。

「所詮は魔に屬する者だな……『貫穿槍』」

この流れを先読みしてドラグを空中へと放り投げていた男は計算通りに落ちてくる魔王へと巨大な斧を振り上げた。

冒険者最強にして、また將としてのを併せ持つ男の斧は、切れ味でいえばナマクラに等しい。 だが、その大型魔を正面から下せる膂力と、打撃の瞬間に一點放出する超絶技巧の魔力作とあわさった一撃はかつてを見渡す限りの大地を砕いたという逸話さえあった。

「ぐ……!」

その暴力と繊細な技の結晶たる一撃は、魔王のとて耐えるには至らない。

再び上空へと勢い良く吹き飛ばされた魔王のには、かろうじて原型を留めているに過ぎないといった様相であった。

「ついでだ」

ルーガスよりも更に上空まで吹き飛ぶ魔王を睨み、風の王は掲げていた右手を振り下ろした。

その命令に応え、夜空を食い破って天高く上昇していた風が一気に降りてくる。

蒼いを滲ませる極大の風は、凄まじい勢いで下降しながらもこれでもかと圧されていき、ついには一本の槍と化す。

ロイドのそれとは違い、完全にコントロールされた大規模のダウンバーストは、しかしその破壊力を人1人分にまで度を高められたもの。

その未曾有の災害を一點に凝したかのような一撃は、時魔によってを戻して回復した魔王のを再び貫き、破砕した。

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