《ワルフラーン ~廃れし神話》

結局自分の判斷で決まってしまったが、魔人達は文句一つ言わずに賛同してくれた。利などは特に追及していない処か完全に自分の趣味で選んだデザインなので、尚の事罪悪じたが、魔王たる者あまり頭を下げる訳には行かないので、後で謝ろうかななどと考えながらアルドはひたすらに『魔力金剛アダマイト』を運んでいた。

他の魔人達が選んだものならばともかくこれは自分で選んだものだ。魔人達にばかり負擔は掛けられない。偉大さは無くなるかもしれないが、それでもアルドは手伝いたいのだ。別に大変な事はない。たかだか三萬トン程度の『魔力金剛』を運ぶだけ。何も難しい事はない。

「アルド様、何か済みません。俺達が非力なばっかりに……」

「ああいや、気にしないでくれ。私が決めたものだし、最初から最後までお前達に投げっぱなしという訳に行かないだけだ」

名前の通り、非常に濃な魔力によって形される金屬故自然に生まれるという事はない。むしろこんなものが自然の産ならば、とっくの昔に人間が牛耳っているだろう。

では何故、崩壊した都市を新たに立て直せるほどに『魔力金剛』があるか? リスド大聖堂に大量に在るというのもそうだが、距離が距離なので多くはアルドの魔力解放によって生まれたものを使っている、

ここまで聞けば実が湧いてくるだろうか。アルドの包している魔力量は異常だ。なくとも、周りの砂と、瓦礫の一部が全て『魔力金剛』になるくらいには。

常日頃こんな事になるのは困るとでも神が考えたから、アルドは通常の手段では一切魔力を消費及び解放が出來ないのかもしれないという妄想もあるが、それは置いておくことにしよう。

「さて、もうひと頑張りだな」

「ええ、共に頑張りましょう」

「勿論だ。魔人の為に、私の為に―――『皇』の為に」

自分を慕ってくれた―――いや、もう誤魔化すのはやめよう。自分に惚れてくれた彼の為にも、アルドは頑張らなければ行けない。

何に阻まれようとも、絶対に。

レギル港は活気が無い事で有名な港だ。通稱『幽霊港』。行きう人々の顔にしの覇気も無いのが、猶更その通稱に拍車を掛けている。

「っと。謡さん有難うございました」

キリーヤは姿勢を正し、深々と『お辭儀』をした。

「……俺に、俺にお辭儀をするなんてァハハハッ! そんな馬鹿みたいな奴はお前で二人目だよ!」

そんなつもりはなかったのに、思いがけず笑われたキリーヤは歯を剝き出しにしながら、謡を見る。

「ば、馬鹿とは何ですか馬鹿とはッ! 私は只お禮を……!」

「それが馬鹿だっつってんの。俺みたいな奴に恩をじる必要はないし、ジバルの作法を使う必要も無い―――全く、本當にアルド以來だよこんなバカ」

「……え?」

「おっと口がったけどまあいいや。高潔もとい頑固なる騎士様が降りた所で、俺は帰るとするよ。じゃあなキリーヤ。次に會う事があれば、酒でも奢ってやるよ」

「私まだ人していませんよッ?」

謡が地面に手を著くと、船の真上に魔法陣が出現。陣の縁が高速回転し、その魔力を凝していく。

これより先、謡とも敵として再會するのだろう。謡もきっと、それを分かっている。

だからこそ―――この別れの時は、大事にしたい。

「謡さん、また會いましょうッ!」

白銀の魔力が船を包んだ。謡もキリーヤも、敢えて『さよなら』は言わなかった。また會えると、そう信じて。

船が消える寸前、謡は確かに微笑んでいた。

船はもう消えていた。ここが活気のある港ならば、消える船に驚いたかもしれないが、生憎とここはレギル港。居る人は皆、どこかしらに腰を掛けて項垂れている為、誰も気づきはしなかった。程。謡がここを選んだのはこういう訳か。

「それじゃ、エリさん。ここでお別れですね」

し悲しそうに微笑みながらキリーヤが言った。

「え、ええ」

エリが出した決斷は、『どこの大陸に著こうと、キリーヤには協力しない』というものだった。勿論、それもまた一つの選択であり正解だ。誰にも咎める事は出來ない。キリーヤもそれ以上説得はしなかった。

やはりキリーヤの馬鹿げた理想には、協力出來そうもない。幾ら謡の言う事が正しかろうと、変な意地を張るようで悪いが、協力は出來ない。魔人を滅するのなら話はまだ分かるが、キリーヤの言った言葉は魔人と人間の共存。実現すら出來ない理想に手を貸す道理はないし、何より魔人を助ける事などしたくはない。

「キリーヤちゃん、これからどうするんですか?」

「ええっと、取り敢えず村とかを回って、協力者を捜す事にします。……あの」

「はい?」

「協力はその……エリさんが否定されたので、もう追及はしませんが……せめて、一人目の仲間が見つかるまで、一緒に居てはくれませんか? ああ、これも強制じゃないんですけど……」

キリーヤは上目遣いでエリを見、尋ねた。

こういう頼まれ方はされた事が無い故、斷りにくい。それに、キリーヤは協力を申し出てる訳では無いのだ。これは、その―――護衛依頼という奴だ。

護衛なら……まあ。

それに今思い出したが、キリーヤに戦闘能力は無い。エリに護衛を依頼して當然の事である。

「…………仕方ありませんね。ですが、誰かが見つかるまでですよ。本當にそれまでです」

突き放すように言ったつもりだったが、キリーヤは目を輝かせながら、大きく頭を振った。

「いえ、それだけで十分ですッ。ありがとうございますッ!」

……私は別に。

認めたくない気持ちを抑え込みながら、エリは歩き出した。「さあ、行きましょうか」

「はいッ」

「隊長、何故外出許可を出してくれないんだッ? 私には行かなければならない場所があるというのにッ」

フルシュガイド大教會に、耳障りな怒聲が轟いた。教會の屋で羽休めしている烏も、驚いて飛び立った。

「そうは言ってもだな、フィネアよ。デュークは死んだのだろう? ならばあちらに行く用事はない。お前は大人しく待機していろ」

その顔を見て、彼こそが隊長格の人間だと誰が斷言できようか。

奴隷のように不潔な髪型に、不眠を思わせる目の隈。五歳は老けて見える皺は放置する癖に、何故かしっかりと手れされている顎髭。しかし特徴的なのは、左手と一化している錫杖だろう。

ラフォル・フエイル。教會騎士団第三調査隊隊長で、フィネアの上司だ。

「そんな……!」

「くどいぞフィネア。どうやっても行く方法は―――あー、無い事もないな」

「———え?」

期待が高まっているとは言えない。隊長であるラフォルの提案は大抵が祿でもない上に、虛空を見遣るその顔。明らかに何か良からぬ事を考えている。

今度はどんな提案かと、フィネアが息をのんで待っていると、

「うん、ああ」

ラフォルが一人頷き始めた。

「隊長、今度はどんな酷い提案ですか?」

「酷い言い様だ。俺はいつも貴様の無茶ぶりに応えてやってると言うのに」ラフォルは一度咳を払い、改めて切り出した。

「では、改めて。実は騎士団の方でな―――」

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