《ワルフラーン ~廃れし神話》阻めぬ道
帝城。陳腐なネーミングだが、これ以上合う名前も無いような気がする。周囲の山々を遙かに超える大きさ、幾つも立ち並ぶ城壁塔と側塔。居館と城壁は以前の百倍以上にまで大きくなっていて、狹間窓に置いては、計算されつくした構造の為、単純に大きくなったとか、そういった表現では表せそうにない。カペレやペヒナーゼ、別棟は無いが、城の風格は通常のそれとは一線を畫しているため、誰に何と聞かれようと、を張って、これは城であると言えるだろう。
尤も、人がこの城を見る時は死ぬときであろうが。
この城の材質は扉等を除き、全て『魔力金剛』。使用した総量は、三億六千トンを超える。十キロで山一つの度に相當すると言われている『魔力金剛』だ。それを『ふんだん』なんて言葉ですら表現不可能な程、使用すればどうなるか―――それは想像に難くない。
おそらく『今』のアルドの攻撃を以てしても破壊は不可能だろう。それくらいで壊れては困る為、設計通りと言えばそうなのだが……負けたような気がして、し不愉快だったりする訳で。
ともあれ、城は完した。今日よりここが表向きのアルド達の本拠地である。あくまで表向きであるため、後でカテドラル大聖堂と空間的な繋がりを作らなくてはならないだろうが、それを除けば、もはや言うべき事はない出來である。
眼前に聳える城に目を瞠りながら、アルドは今までの自分を振り返る。
魔王として、地上最強として、最善―――いや、最悪は盡くした筈だ。どう転ぶかは誰にも予想がつかないしつけられない。
過ぎ去った昔は気にしない。遠い未來は思い悩まない。今ある事を一つ一つ、真摯に向き合っていけば迷いは無くなるとはジバルの言葉である。
本當にその通りだと思うし、アルドはこれからもそうやって生きていく。
さあ、參ろうか。
城は新築だけあって、傷はおろか、埃一つ見當たらなかった。玉座へと続く絨毯も高級品のようで、歩くだけでその心地よさが伝わってくる。その先にある玉座も、カテドラル大聖堂のモノと遜ない座り心地だ。
アルドは玉座に座った後目を瞑り、無限たる自分を振り返る。
騎士に憧れた自分。
馴染に助けられていたけない自分。
ついに努力が開花した時の自分。
地上最強と呼ばれていた頃の自分。
魔王の自分。
どれもアルド、全てアルド。自分の周りには誰かがいつもいて、助けてくれた。
騎士団長、クリヌス、リーリタ、ファイレッド。そして―――カテドラル・ナイツ。
最も私を慕い、してくれる者達の総稱。彼らがいるからこそ自分は生きていける。生きていると証明できる。
「ナイツッ、れ!」
城に刃のごとき鋭い聲が響くと、鉄扉がゆっくりと開いた。
『鬼』の魔人、ディナント。
『狼』の魔人、ヴァジュラ。
『竜』の魔人、ユーヴァン。
『雀』の魔人、ファーカ。
『烏』の魔人、チロチン。
『骸』の魔人、ルセルドラグ。
オールワークと、トゥイーニーと……取りあえず匿扱いのワドフ。
今ここに、皆が―――
「あ」
メグナとフェリーテ、大聖堂に置いてきた……
「んッゴホンッ! それでは、今後の予定について話し合いたいと思う」
何とか誤魔化そうと思ったが、やはり突破は不可能だったようだ。フェリーテが複雑な表を浮かべながら、尋ねる。
「のう主様。何ゆえ妾達の脳幹に手刀を? 妾達、何かしたかの?」
心の中でかに謝りつつ、その表は崩さない。
後で埋め合わせでもしておくべきだろうか、とも思ったが、ファーカとの約束を果たしていない。するとしても、その後になるだろう。
メグナは満更でもない表で、喚いた。
「そうよそうよッ! 何で私達にこんな事したんですか?」
「……メグナ、顔と言葉が一致していないぞ?」
アルドの問いに、メグナは頬を染めながら、くねりくねりと『蛇』特有のなきで揺れ始めた。
「だってぇ……私ぃ……アルド様の手刀ならぁ……ご褒だからぁ……」
「聞くだけで胃が焼けそうだいん。死ね馬鹿蛇」
「ハ? ウザい。死んで間抜け骸骨」
「その程度の語彙力しか持ち合わせていなんとは、大した知能指數だな?」
「ア?」
自分が引き金だけにこの口論は止めづらいが、しかし放っておけば、いつもどおり殺し合いでも始めてしまいそうだ。
大きく息を吐き、二人にも聞こえるよう高らかに告げる。
「ヴァジュラ! 二人を止め……」
―――爭いが止まる。二人は歪な笑みを浮かべながら、固い握手をわしていた。ヴァジュラは笑顔で頷いているが、その他のナイツ達は苦笑いとも取れる微妙な表をしている。
何かあったのだろうが、聞いたところで得がある訳でもないので無視を決め込む。
「……さて、爭いが止んだところで、今後の方針について話そうと思う。準備はいいか?」
沈黙を肯定とけ取り、アルドは言葉を続けた。
「數日は戦闘員を増やす為、この城の地下にて闘技場を設け、そこで魔人達を育するが、その後の話だ。私は次に、停滯昇華帝國のあるアジェンタ大陸を狙おうと思っている」
停滯昇華帝國。アルドが直々に名付けた呼稱であり、この大陸の特を表している言葉である。言っている意味は理解したくなくとも行けば分かる。あの大陸はそれ程までに異常な特を持ってしまったのだ。
「世代代をしていた、且つ、周りが魔人達で埋まっていたという事もあって、リスド大陸は大帝國ここを攻めるだけで良かったが、他の大陸はそうはいかない。周りからじっくり、ねっとりと、侵略していかなければいけないのだ」
「ああ、アルド様、それはもしかして私に対しての能的な暗示―――」
「私がお前を求める時は直接伝える故、このように回りくどい事はしない」
その言葉に心臓を抜かれたメグナが倒れるのを見屆けた後、アルドは一度虛空に目を遣った。
「で、だ。流石に今回は単獨行が過ぎた。それは私も反省している。故に今回はお前達の、三人を私の付き人にする事とする」
皆いつも通り頷いた。話し合いでは絶対に喧嘩もとい殺し合いになる事を、知っているからだ。
「ついで、という訳でもないが、次の旅に留守番はなしだ」
一度言葉を切り、改めて作戦を伝える。
「まず―――私と共に行く者だが、これはヴァジュラ、フェリーテ、ユーヴァンとする。異論はないな?」
「……ない」
「喜ぶべきかのう」
「イエァァァァァァァァァァァァァッ!」
メグナとファーカの辺りから不満そうな魔力オーラが噴き出ているが、アルドに二言はない。異論を認めるつもりもない。
「次にレギに偵察へ行く者、ディナント、ファーカ、チロチン、メグナとする。異論は認めん」
ルセルドラグもいないし、大喧嘩なんて事にはならないだろう。四人中二人は常識人であるし。
「アルド様、私は如何様に」
抑止力ことヴァジュラ、親友メグナとも、配屬が違う。こんな配置はされた事が無いからか、ルセルドラグは困気味だ。
「お前はフルシュガイドで、『異世界転移によって出てきた勇者』の強さ、數を調べてこい。そしてもし気づかれたなら―――殺せ」
「ッ———! 仰せのままに」
「魔人達の訓練はトゥイーニーとオールワーク。お前達に一任する。リスド周回なり海に出るなりしてくれても構わない。いいな?」
二人は腰を落としてお辭儀をした。
「決まりだ。行開始は四日後、それでは、ファーカ以外、解散ッ」
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