《ワルフラーン ~廃れし神話》魔王の弱點

「やはりおかしいのう」

帝城を出てから數歩。フェリーテは歩みを止め、何かを考えるような仕草をした。

「ドウ……シタ?」

「ん、ディナントか」

心配そうにこちらを見下ろすディナントを一瞥し、フェリーテは思考を口に出した。

「いやの、妾達は確かにフルシュガイドまで偵察に行った。そして、『転移の儀式』により、召喚された勇者を発見。帰還しようとした所を『王』に見つかり、襲撃をけた……ここまでは、ディナントも當事者なのじゃから記憶に新しいじゃろう」

フェリーテが浴をはだけさせ、ディナントに背中を向けた。鋭利な刃によって刻まれた、深い切り傷。

注視してみれば微々たる速度で回復しているのが分かるが、それでも彼の綺麗なに刻まれた傷は未だ痛々しい。

ディナントは複雑な表を浮かべているが、馴染がこんな傷を負っているのだ、當然だろう。

あまり見られたくも無いので、フェリーテは浴を再び羽織り、帯を結び直す。

「……アア、ソウ……ナ」

「……じゃが、おかしいんじゃよ。妾達が帰ってきた時、主様にその話はしなかった。というより出來なかった。何故なら、主様はリスド侵攻に目を向けていた故、他の事に気を散らしてほしくなかったからじゃ―――じゃが、そうなると、ある疑問が湧いてくる。……何故主様は勇者の事を知っているのじゃ?」

「ホカ……カラ、キイタ、ジャ?」

「その可能は低いのう。『探考法』で探してみても、誰も主様にこの事を語ってはいなかった。妾達の『知らぬ人』が居るなら、話は別じゃがのう」

ディナントの表が僅かに揺れる。

どんな方法であれ、『覚』と『探考法』を持つフェリーテを欺くなど、恐らくアルドでも不可能であろうに、何かしらは見事にフェリーテの網を潛り抜けている。

そんな者が居るなど、到底考えられない。たとえ終位魔の『絶対不可侵防イストレンジメント』を使用したとしても、フェリーテの干渉は防げない。

「妾も驚きじゃよ。どんな方法であれ。誰かは確かに妾の眼を逃れた。大したものじゃのう、そやつは」

フェリーテは鉄扇を開き、口元を隠した。言葉に宿るこそ楽しそうだが、その口元は、笑ってはいなかった。

広い城を造ったはいいが早速欠點が見つかった。城に居るモノがあまりに數だと大聖堂以上の孤獨を味わうという事だ。この辺りはいつかナイツをえて協議するべきだろう……

「…………」

「…………?」

二人の間を重い空気が通り抜ける。どちらもその空気に耐えかねているのか、きは無い。自分の意思でこうした手前、文句を言う事は出來ないが、まさかここまで気まずいとは。いや、自分の対話力と、との會話経験の薄さが災いしているだけなのだが……

「アルド様、如何なさいましたか?」

その聲音から察するに、どうやらファーカは空気に耐えかねていた訳では無いらしい。

心臓の鼓を抑えつつ答える。

「んっ、ああ……ファーカ。お前を殘したのには、えーと、理由があってだな。……チロチンから何か聞いていないか?」

「チロチンから、ですか? いえ、特に変わったような事は」

「あいつ―――まあいい」

故意なのかそれとも只忘れていただけなのか。心の中で『烏』を恨みつつ、アルドはその言葉を紡いだ。

「―――デートしないか?」

 恥ずかしい。アルドを取り巻いたは、それだけだった。

數年前、われる事こそあれ、自分からはった事が無いのだ。勿論自分の周りに魅力的なが居なかったというのもあるが―――

「……」

ファーカの顔がみるみる紅していく。

頼み方が悪かったのか? それとも発言が痛々しかった?

人の心理を読む事には自信があるアルドだが、乙心だけはどうにも理解できない。謡は理解できるらしいのだが、同じ男だと言うのに何故だろう。

「ファーカ」

「……っは、ハイィ!」

ファーカは上ずったような聲を上げ、アルドを見た。

「デートしない―――いや、デートするぞ!」

いい加減にじれったいので、玉座から腰を上げると同時にファーカに接近。左手を摑み、城を後にした。

ファーカの戸うような聲は、聞かなかった事にした。

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