《ワルフラーン ~廃れし神話》蘇る過去

 魔王である自分が行かずとも、ナイツの誰かしらが乗り込めば海賊船など數秒で沈める事が出來るが、今回アルドはそれを行わなかった。かなり矛盾した話だが、おそらく魔人達だけでは人間には勝つことは出來ないと思っているからだ―――

いや、それも正しくは無い。何と言えば良いか……そう。アルドは決して魔人だけには拘らないのだ。神話や英雄譚何かでも、そういった拘りを貫いている奴は大抵負けている。この戦いが神話になると言っている訳では無い。所謂、縁起。

だからアルドは、たとえ人間だろうと強い奴ならばこちらに引きれたいと考えている。勿論ナイツ達と一緒にはさせない。ナイツ達とは別に作った仲間―――謡のような人を集めて行きたいのだ。

謡は事が特殊だから一概に人間サイドであるとは言えないのだが、まあそこは置いていいだろう。知られる訳にはいかない計畫もある事だし。

さて、船の部に存在する気配から気を逸らして。

アルドの著地した先には、勿論海賊がいた。人數は見える限り三十五人。皆アルドの所業を信じられないような目で見ている。人間には殆ど出來ないような業なので仕方ないが、今回は著地場所も悪かった。

足元を見ると、大砲の砲が大きく凹んでいる。意図せずして起きた出來事だが、それが彼等の驚きをなお煽った。

「お、お前は誰だ!」

「私は……って、何故無法者の貴様らに語らねばならない。そしてそのセリフは本來私が言うべき言葉だ」

「俺達はその名も高き大海賊団。『海徨ハウンドオブデッド』! 総勢八千三百名の泣く子も黙る海賊さッ」

男が噓を言っているのは明らかである。それは恐らく、アルドと同じことをしていれば誰でも分かる事だろう。

「ふざけているのか。『海徨』はもういない。私が完なきまでに叩き潰したからな」

只の噓と言うにはあまりにも暖かい。これは憧れ故の噓だ。

良く子供の頃やったではないか。『僕、騎士団長様ね』とか、『僕○○様だい』とか。これは憧れの対象として見られていた時期があるアルドには、簡単に分かる事だった。

アルドの発言に海賊達は呆けているが、もう話す事はない。大砲の上から下り、一番前の海賊に徐に近づいた。

「一つ良い事を教えてやる」

「あ?」

「敵が來たんだ。早く『銃を』構えろ」

溫かなが、アルドの左手を包んだ。

「うひゃあ、最高だぜッ!」

「……ユーヴァン、僕にも見せてよ」

「駄目駄目。こんな刺激的な景はお前には……って泣くなよ!」

「誰も見てないのをいい事におかしな事を言わないでよッ」

二人のいちゃつきに言い知れぬ不快を覚えながら、フェリーテは高速思考回路を展開していた。

「アルド様、一どうしたのかのう」

記憶の限り、アルドは余程の事が無ければこういった戦いにはナイツを向かわせている。理由は単純なので、言うべきことはないが、今回アルドは自らの足であちらへと向かった。

これは何かあるに違いないだろうが、果たして調べてしまって良いモノか……

アルドは先程から何か隠し事をしているようにも見える。自分の能力を知らないアルドではない。だというのに、何故隠そうとするのか。

「……調べぬ方が良いかの」

良妻という者は旦那を一歩引いて見守り、著いていくのだ。多くの人は隠し事は絶対に許さないというが、フェリーテはそう思わない。

隠し事があったっていいではないか。隠し事が在っても尚、夫を信じられるかどうかが、しているかどうかに繋がる。それに、たとえ隠し事を打ち明けるとしても、それは自由意思であるべきだ。

誰に共されなくても良いが、なくともフェリーテはそう思っている。それがフェリーテにとっての、『妻』だからだ。

一人目の男は手刀で心臓を貫いた。あまりにも手ごたえがなくあっさりとしていた。

男が崩れ落ちると同時に、周りがどよめく

「どうした、やらないのか?」

「…………う、撃てえ撃てえッ」

……貫手による殺害に驚いているのもそうなのだが。

どう考えても偽な上に、実戦経験の薄い者ばかりではないか。こんな事態になるなんて余程の人員不足か阿呆なだけなのか。

可哀想な話だが、慈悲を與えるつもりはない。おとなしく死んでもらおう。

直後に弾丸が放たれたが、その弾丸が當たる事は無かった。弾丸すら見えるかどうか怪しいモノだが、見えていた者ならその異常さを察しただろう。本來はアルドに當たる弾丸が、その直前で消えた事を。

やはりこの程度か。

分かり切っていた事なので、大して失はしていない。だが普通に戦うにはあまりにつまらないので、勝手に制限を設ける事にする。

……そう。魔の使えぬ者わたしが、魔師のように振舞えるか。細かく言えば、相手に如何に魔師のように振舞えるか。攻撃も防も回避も、全て魔を使っているように見せる。そういった趣向の制限だ。

「撃て撃てぇッ!」

避けるのは簡単だが、ここは一つ、魅せる技というのをやってみよう。

次の弾幕を全て摑み、素早く後ろに隠す。

「っち、魔師か。野郎共アレだッ!」

一発も當たらないなんて、魔でも無ければ出來ないだろうと言う安直な発想。この程度の蕓當は並の剣士にも出來る。

海賊たちが次に何を出すかは分からないが、もう飽きた。そろそろ終わらせよう。

「『拳閃』」

それらしい名前を呟いた後、アルドが海賊達の間をうように駆け出した―――ように見えるが、実は違う。を流れるようにかし、一切の『きの無駄』を失くして攻撃しているのだ。

傍から見れば強化魔を掛けていたようにしか見えないだろう。海賊達はあっさりその場に倒れ込む。顔面陥沒は必至の為、果たしてこれから先、彼等は表を歩く事が出來るのか。これからの人生に幸運を祈りつつ、アルドは船へと向かう。

床が僅かに軋んだ。殆ど同時に振り返って、アルドが手刀で薙ぐと、大きく曲刀を振り上げた男が、真っ二つに『裂けた』。

あらゆる要素が命を失う要因となる。今回の戦いも、それを証明してしまったようだ。

さて、扉の奧に二人か―――。

「野郎ッ、ぶっ殺してやる!」

「死ねッ」

扉の奧には手斧を持った男が一人、弩を持った男が一人居た。どうやら男が斬りかかって隙を作り、もう一方の男が弩で打ち抜くという戦法のようだ。

男が斧を二回、差する形で薙いだ。アルドはそれをワザと大袈裟に避け、勢を崩したふりをしながら弩の線上に出た。

「我が與るは狩人の槍。『槍矢イミテーションアロー』!」

『槍矢』。闇屬の特殊下位魔。弓矢にのみ使用可能な魔で、視認可能な矢と二次元的縦橫空間軸に同等の威力を持つ『弾』を生。相手が避けようものなら、その不可視の弾に直撃する、という訳だ。

だからと言って避けなければ―――視える矢の部分には『弾』はない。當たり前の事だが、人間のというモノは矢よりも遙かに大きい。つまり、避けようと避けまいと、矢と同等の殺傷能力を持つ『弾』を何発も喰らう結果となってしまうのだ。

しかしやはり下位魔。魔障壁でも張れば簡単に防げてしまうのが難點だが……アルドは魔を使えない。

ならばどうするか。

「降りかかる災厄よ、浄化無き慈悲を賜りて、己を亡ぼせ。『鋼遮シェルドアイ』」

アルドは迫りくる矢に対し、打ち上げるように拳を振りぬいた。その直後の事だ、二人の男の全に、刺し傷のような痕が生まれたのは。

「ア”ッ……ォォ」

「……ッ!」

それは眼、額、首、心臓、太、その他約十六か所に『弾』が直撃。人間を死に至らしめる要因は十分に揃っているので、二人が生きている道理はない。全からを吹き出しながら、二人は倒れた。

さて、これで全てである筈がない。海賊団なのだから船長くらいは居る筈だ。それとも部の気配が船長なのだろうか。

アルドは階段を一歩一歩と確実に歩いて最深部へと降りていく。階段はかなり老朽化が激しく、一歩踏みしめる度に激しい軋みが聞こえる。この階段を音もなく降りる方法は、宙に浮く以外無いだろう。

階段を下り切った時、アルドの視界にぬるりと何かが出てきた。

くな!」

出てきたのは鍔の長い帽子を被った男。長年風に當たってきたからか老けて見えるが、外見から予想する年齢よりかは十歳ほど若いのだと思う。特徴的なモノといえば鼻の筋に沿って逆さ十字を書いている事だが―――

船長の外見まで真似るとは、相當憧れていたらしい。

「あー、えっと『エイン・ランド』で良いのか?」

「へっへー。俺を知っているとはこの海賊団の知名度も相當上がったようだな!」

格まで真似ているのは評価に値するが、私にはとても四十人にも満たない海賊団が、大海賊団とは思えないのだが」

「うるせえッ! それよりお前、こいつを助けに來たんだろ?」

男が銃を突き付けているのは、頭陀袋を被った、的に見て年だろう人だ。

「いや、全く」

場の空気が冷えたような気がした。

偽エインは、慌てたような表を浮かべた。

「え、あれ? こいつ助けに來たんじゃないの?」

「お前達が私達を狙うからだよ。というか、そんな事も把握していないで、良く船長を名乗っていられるな。どうせ偽なら、エインの手腕も丸々真似して見せろよ」

冷たい眼で偽エインを睨むと、偽エインは驚いたような表を浮かべた。

「お、お前……エインは俺だぞッ」

「ほう?」

やはり贋と言われて『はいそうですか』という贋はいない。それもこんなに原初を敬しているならば、尚更だ。

ならばとアルドはし意地悪な質問をする事にした。

「では私の名を覚えているな?」

アルドは騎士だった頃、原初の海賊船に乗り込み、壊滅させた事がある。確か十六回目の接時だった筈だ。

十六回も接するに、アルドはエインとライバルのような関係になった。それからはいつも逃げては追い回し、逃げては追い回しの繰り返し。たった一度だけ酒も酌みわした事があるし、彼が本當のエインならば、覚えている筈なのだ。

―――本當のエインで無い事は知っているのだが、敢えて。

偽エインは冷や汗を流しながら大聲を上げた。

「その手には乗らねえぜ、クソめ」

「その手?」

「そうやって揺をって俺を贋にしようとしたいらしいが、俺は本だ! そうは行かないぜ」

なら揺をうなんて表現すら使わないだろうし、贋にもこだわらないと思うのだが……実際には會ってないのだろうし、仕方ないだろう。

「そうか。お前の中ではそうなるのか。だったらいい事を教えてやる」

「な、何だ?」

「『強者に対し人質を使う手段で対抗する場合、如何なる時も人質から気を逸らすな。逸らした場合』」

偽エインがハッと気づき、人質に目を向けたが遅かった。

人質は既にアルドの隣に立っていた。

「『お前の死は確定する』」

偽エインは呆然としている。

「信じるかはお前次第だが、これは私がかつてエインに言ったセリフだ」

「あっ……あ……」

「さて、お前はどうしようもなく贋だという事がこれで判明してしまった。さあ、お別れの時間だ。言い殘す事はあるか?」

偽エインは震えた手付きで銃を構えた。

「うるせえ! こっちには銃があるんだッ! てめえなんか―――」

照準を両手で抑え、何とかブレを抑えている。そんな神狀態では當たる事は無いだろう。

「最後に教えてやるから―――忘れておけ。こんな距離で銃を使う馬鹿が何処にいる」

アルドが眼前まで迫し手刀を振り下ろすと同時に、偽エインが引き金を引いた。

男のごと消滅させた後、アルドは年の頭陀袋を取った。

「大丈夫か、年」

年は、アルドの姿が視界に映ると同時に、アルドの眼を真っ直ぐ見て、言った。

「お願いします、俺に剣を教えてくれッ」

出し抜けに言われたものだから、流石のアルドも素(騎士の頃)に戻ってしまった。

「は?」

「あ、すみません。俺、ツェート・ロッタって言うんだけど、あんたの名前は?」

「……あ、ああ。アルドだ。」

年―――ツェートは、アルドの名を聞くと、目を輝かせ始めた。

「アルドさんッ、俺を助けてくれてありがとう! さっきの武凄かったぜ―――」

「待て待て待て待て。お前、頭陀袋を被っていなかったか? どうして私のきが視える」

「なーんか知らないけど、俺、眼瞑ってても周りで何が起こってるか分かるんだッ。で、それを大人達に自慢していたら、なんか浚われたんだよ」

當たり前だ。先天の千里眼を持つ者など億人に一人の確率。本來眼を抉られても仕方がない程貴重な質を、堂々と吹聴して回っていれば、浚われもする。むしろ幸運な方だ。

「でさ、頼みがあるんだけど……俺を強くしてほしいんだ。訳は後で話すからさ」

會話のペースを取られたのは久しぶりだ。まさかこんな人がまだ居るとは。じた気配は間違いなくこれだろう。

「分かった。ではまずは、私の船に招待しよう……俺から手を離すなよ」

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