《ワルフラーン ~廃れし神話》対面
十分間程経っただろうか。アルドの全には合計十八本もの槍が突き刺さっていた。そしてそれらは、特殊な質を発揮しているモノ―――即ち異名持ちの武ばかりで、一人に対して行う攻撃にしては、し過剰な気がするが、アルドに対しては過剰という言葉は存在しない。やり過ぎて丁度いい、いや足りないくらいだ。
しかしこの武、驚くべき事に、全ては造られし贋なのだ。本には別の所有者がいる。
例えばこの聖槍『獅辿』の所有者はエリだ―――というように、本の異名持ちの武というのは、なくともこの場には存在していない。
だがこれらの能は全て本。余りにも大差が無い為、本が二本存在すると言ってもいい。それくらいフィージェントの質は異常で異端で、そして強力なのだ。
「いやあこの攻撃で死なない奴は居ないんだけどな……『先生が死ななくなった』ってのは本當みたいだな」
アルドは口に突き刺さっている魔槍『震捩』をゆっくりと引き抜き、顎のかみ合わせを確かめる。問題はないようだ。
「それは違うなフィージェント。私は『死を迎えられない』だけであって、『殺せない』訳ではない。私より強いモノと相対すれば……そうだな、きっと死ぬだろうよ」
「再生時間も一瞬だなんて反則じゃないか先生? あんたより強い奴なんて居るのかよ」
言っているフィージェントの顔はとても愉しそうだった。それはまるで、自分こそその人であると言うように。
それがあまりにも愚かであるようにアルドには見えたので、思わず口元を緩ませてしまう。
次の瞬間、翠槍『凍璃』がアルドの首に突き刺さった。
「表には気を付けた方がいいぜ先生。あんたは今ここで死ぬんだからな」
自分が上であるかのように語るフィージェント。だが幾ら何でも、彼が自分より上とは考えられない。昔口癖のように言ってやった事をとうの昔に忘れたようだ。これがクリヌスならばきっと油斷処か、こうしてゆっくりと思考する暇すら與えてくれないだろう。クリヌスはそういう人だ。
既にクリヌスと差が開いている時點で、アルドが負ける道理はない。それをフィージェントは見事に証明してしまった。
しかし褒められる所はある。
「私がここで死ねるとは思えないがな。お前は一つだけ正しい事をした。それは囮の『鉄人』を使って、私を不意打ちした事では斷じてないぞ? 私に対して―――神が造せし武を、それも『燐祓』を使った事だ」
神槍『燐祓』。あらゆる世界を突き穿ち、滅ぼしたる槍。その特は実に有用。『一度刺されば所有者で無い限り、抜くことは出來ない。刺さっている間は相手の魂を縛り付ける(つまり神にさえ通じる拘束)。また、一定時間が経つと、切り口を起點とした部分が腐食。相手を崩壊させる』という効果で、まともな生ならば一突きで滅ぶだろう。しかしアルドは生処か存在という段階から怪しい為、拘束以外の効果は殆ど通じないと言っていい。
「この槍が刺さっている間は幾ら私でもく事は出來ない。フィージェント、久々に正しい行を取ったな。この槍さえ無ければ、私はお前に反撃を試みただろうな」
「他の槍も中々強いのを選んだつもりなんだけどな……やっぱり先生には通じないか」
フィージェントは、自らのに手を突っ込み、再び武を取り出した。今度はフィージェントの本分である弓のようだ。
「ほう。その弓、まだ持ってたのか」
「あらゆる道を『必中』の矢へと変化させられる弓程使えるモノもないだろう。だからこそ先生、あんたには謝しているよ」
軌弓『想藍』。弟子の旅立ちを祝ってアルドが直々に作った一級品だ。こんな格だから、さっさと捨ててしまったものと思っていたが、未だに持っているとは職人冥利に盡きる。
まあ職人ではないのだが。
「今度こそ俺の最大であんたを殺す。死ぬ用意はいいか?」
「一つ聞かせろ」
その待ったが決して悪あがきでない事はフィージェントも分かっていた。「何だよ」
「私はてっきり立ち合いの日に戦うと思っていたのだが、どうして今、私を襲う? 私が周りへの被害を気にしているのは―――私が死ななくなったと知っている誰かさんから聞いているのではないか?」
アルドの瞳がフィージェントを寫し、貫いた。
しかし意外な事に、フィージェントはむしろ戸っていた。
「あれ、俺の雇主殺しに來たんじゃないのか。俺はてっきりそれをかぎつけたと思って……いや、悪いな」
とんでもない報があっさりと出たが、あえて突っ込まない事にする。突っ込んでしまえば……面倒な事になるのは間違いないからだ。
それにしても、何という間抜けな理由で殺しに來たのか。バレたかもしれないから殺すなど、矜持すら合間見えぬ程酷い行為。興ざめもいい所だ。アルドもいくつか予想していたが、それだけは予想外だ。
頭を掻きながら、「ごめんなー先生」などと笑っている。全くもって困った弟子だ。殺しに來るならばきちんと矜持を持った上で挑みに來てもらいたい。
そうしなければ、アルドを殺す事など到底不可能なのだから。
そんな間抜けな弟子に、非常に不本意ながら心が和んだ気がした。しばかり気分が良いので、親切心に一つ教えようか。
「フィージェント」
「何だ?」
剎那の逡巡の後、決心したようにアルドが言った。
「この神槍をこれからも使いたければ今すぐ抜いたほうがいい」
「その手は喰らわん。そうやって拘束から逃れようと―――」
瞬間、フィージェントは確かにそれを直視した。アルドの全に突き刺さっている槍に、罅がり始めたのだ。
異名持ちの武というものは、その多くがとにかくい。何萬メートル上空から落石が発生(ありえないと思うが)し、落下地點ど真ん中に異名持ちの武を置いたとしても、砕けるのは恐らく巖の方で、武には傷一つ付かない。それくらいいのだ……落下の衝撃で巖が壊れた訳では無い。
そんな武が、それも十六本全てに罅がるなど、あってはならない事態だ。これ以上は刺さらないと見たフィージェントは、直ぐに槍を引き寄せ、自のに突き刺すもとい納めた。
「それはしまわない方が……」
アルドの警告空しく、フィージェントは次々と槍を納め―――そして剛槍『猛嶄』を納めた。
「……というのは遅かったようだな」
「一何を……って―――ッ!」
フィージェントは二、三回喀。両目を充させ、地面に蹲った。
剛槍『猛嶄』の特は、『突き刺さっている間、そのの魔力を所有者に合わせるように変換し、所有者へと譲渡する&如何なる魔にも絶対的な耐がある』という対魔師の武としか思えない特だが、一つ問題がある。
吸い過ぎるのだ。こそぎと言ってもいいくらい。普通に使用する分には問題ない。こそぎ吸い取ってしまえば、相手は死んでしまうからだ。だが……以前述べた通り、アルドの魔力の量は半端なモノではない。に余る魔力を無理に投じればどうなるか……それは火を見るより明らかである。
「ガァアァアアアッ! アアア……」
が耐えきれず、崩壊する。
忘れてはならないが、弟子達は殆ど人間なのだ。魔力を過剰摂取すればが耐えられず滅ぶ。當然の摂理である。
何よりあの槍はきが取れなかったせいでかなりの時間アルドに刺さっていた……つまり、かなり自分の魔力を蓄えているという事である。まあそれでも二割も奪われていないが、あちらには相當量の魔力だろう。
「先生の言う事は良く聞いておくべきだな。急がず、ゆっくりとな。今回はまあ勘違いという事で助けてやるが、お前は一度死んだ。それは覚えておけ」
余談だが、アルドが過剰摂取を起こしたとしてもああはならない。何故なら、『本來の』アルドは魔というものと『接點』が一切ないので、過剰摂取を起こしたとしても『接』している『點』が無いのであれば、幾ら持っていても関係がない。『影人』はこの限りではないが、なる事は大分ない為、殆ど無いモノと考えてよいだろう。
「ア……ア……」
「やれやれ……」
しは変わってるモノかと思ったが、本の間抜けさは一切変わっていない。ため息をつきながら、アルドは懐から寫転紙を取り出し、フィージェントの背中に押し付けた。
「『首椿姫』概念作『無傷無現』。記憶処理上昇値『剣』。作」
勘違いで殺されかけるなどたまったものではない。アルドは殺されないが、それでも心持的には、殺されたような気分だった。
馴染にツェート・ロッタを持つ子、レンリー・エンモルトは、おそらくアジェンタでは王の次にしいのではないかと、周囲の人には囁かれている。そして彼も、その自信があった。
子供と認められる最高齢、十五歳。そこに永遠に君臨する王を除けば、自分が一番しいのだろうと。彼の容姿的には、確かに不足の無いようにも思える。子供とは思えぬスタイル、しい髪、育ちの良さをじる気品。
しかし彼には決定的にあるモノが欠けている。が、彼がそれに気づく事は、本來ならば無かっただろう。
「さあ、ツェータ。私の見立てを裏切ろうとしたんだから當然勝ってよね? フフフ……」
彼の周りに居るは彼に惚れた十人の戦士(奴隷)。彼等は全員、何かしらの大會で績を殘した勇士達だ。
「レンリー様、俺達より強い奴なんていませんよ」勇士の一人がそう言った。
「黙りなさい。ツェータは私の馴染よ。評価くらいは私が直々にしてあげないと」
レンリーは右手側に置いてあったグラスを取り、葡萄酒を口に付けた。その時の表は、妖艶以外の何でもない。
グラスを置いた後、恍惚の表でレンリーは指を眺める。
この指さえあれば、私は―――
その時だった。呼び鈴の音がレンリ―の耳を刺激したのは。一こんな時間に誰が……フィージェントだろうか。
「私はツェートの師匠を務めている者です。今回はしお話を伺いたく思った次第。どうかこの扉を開けてくださると助かるのですが」
かなり大人臭い。レンリーの記憶の限りでは、こんな人は存在しないので、他人と認める事とする。どうやらツェートが勝手に連れてきたようだ。
「勝手に開けなさい!」
大聲で怒鳴りつけた後、周りの者にだけ聞こえるようにレンリーが言った。
「扉が開いたら、そいつを半殺しにして、私の所まで連れてきなさい」
「畏まりました」
「畏まった」
「分かった」
「まりった」
十人はそれぞれ肯定を表した後、武を取り、扉へと音もなく近づいて行った。
「本當によろしいのですか?」
「五月蠅いわね! さっさと開けなさいよ!」
その聲が響き渡って數秒、ゆっくりと扉が開いた。そして予定通り、男の姿が確認できたと同時に男達が一斉に飛び掛かった。
武は様々。斧やら、短剣やら、計六種ほどの武を持った男が突然こちらに襲い掛かってきたものだから、扉は半開きのままだ。そのため、あちらからはおそらく自分しか見えていないだろう。これは飽くまで防衛反応だ。たとえ違おうとも、今はそう思っておく事にする。
しかしながら奧の方―――からは、何かを期待するような目線が窺える。例えば、そう。この男達を蹴散らせといっているような―――
「こうなったらあいつらは手が付けられんぞ。どうするんだ、先生? 俺は三回くらい襲われたぞ」
雇ったのはあちらである筈なのに、不意打ち気味に攻撃を仕掛けるとは々過剰気味な防衛である。というより、この男達、頭數だけ揃えたかのような強さにしか見えない。何十人居ようともフィージェントの足元にも及ばないだろう。
だというのに、未だ頭數が健在とは、殺されても死なないような能力が働いているようだ。ならば
遠慮はいらないか。
「武を借りるぞ」
アルドが出し抜けにフィージェントのに手を突っ込んだ。そして數回虛空を摑んだ後、目當てのモノを見つけたので、扉を全開にし、『短剣』を投擲した。短剣は綺麗に真ん中の男の額に命中―――そして発した。
「ヒュー♪」
綺麗な口笛を吹いた後、フィージェントはズカズカと部屋へ上がり込んでいった。かつて男だったの塊を踏んづけて。
向こうのも大して気にしていないようだし、堅苦しい禮儀はいらないようにもじる。アルドもまた、同様に部屋へと上がり込んでいった。
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