《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第二話
フリアエ王國の上層部から下層部まで、全ての公務に就く者は現在、様々な雑務に忙殺される日々を送っていた。原因はただ一つ、勇者達の召喚にある。
『魔王』という明確な脅威に対してのカウンターとして異世界から召喚された年達であるが、その召喚には多くのコストを払うことになった。的にいってしまえば國家予算の半分以上と言ったところだろうか。その甲斐あってか、呼び出せた人數は四十人ほど、その大半が強大な力を持っていると果は上々である。現在のままでは魔王に太刀打ち出來ないが、この先戦力を強化していけば世界最強の戦力となることは間違いないだろう。
それこそ、現在最強の國家であるラグナール帝國にも。
が、強大な戦力とは持っているだけで様々な問題を引き起こすであり、それは勇者達にも言えることである。フリアエ王國の上層部が悩んでいる事は、まさにその問題である。
先週、勇者の一人である男子生徒が訓練中に走した。実地演習と銘打って、勇者達を森林地帯で魔獣討伐に當てていた最中の話である。護衛につけていた騎士が目を離した隙に、人知れず走したのであろう。その手際の悪さから、突発的に行ってしまったものである事は想像に難くない。実際、調査隊が彼のと思われる痕を発見している。おそらく魔獣辺りに襲われた際の出だろう。
走した男子生徒、古谷薫は力をけ取ることが出來なかった召喚者の一人である。上層部からしてみれば戦力の低下には繋がらない為、そこまで重大な問題としては見ていなかったのであるが、それはあくまで戦力としての問題である。
勇者達は強大な力こそ持っているが、あくまでまだ子供である。生徒一人が行方不明になったという報を耳にしただけで錯する生徒が居たくらいだ。この上彼が死亡したなどと報を流してしまえば、ろくな事にならないということは想像に難くない。その為、現在フリアエ王國は隠蔽工作に走っているのだった。
◆◇◆
フリアエ王國の騎士団団長、および勇者達の統括者として任命されたメリーラン・ハルベルトは、部下からの報告にため息をついた。
「そうか、見つからなかったか……」
「申し訳ありません、団長」
彼が部下に命じていた任務は、走した生徒の捜索、および品の回収だ。萬一にも再び勇者達が森林地帯を探索したとき、走した生徒の死が転がっているという事態にならない為、事前に回収するという役目である。
「いや、いい。第一、魔獣に食われた可能の方が高いしな。念のためといった要素の方が高いのは確かだ」
そう言ってから、自らの発言のドライさに気付く。日々の上層部からの圧力にり切れて、いつからかその生徒の死を疑わなくなってしまっていた自分がそこに居た。全く、なんと言うことだろうか。彼の生存を願うべきだろうに、その彼が死んでいる前提で捜索させていたとは。
「団長?」
「……いや、ご苦労だった。下がっていてくれ。任務を続行させるかは追って伝える」
彼の命令に従って下がる部下。部屋に一人となったメリーランは背もたれに重を預け、天井を見上げてため息をつく。
なぜここまで自分が苦しまなければならないのか。それもこれも全て勇者達が來てから一気に負擔が増えた為だ。彼らが居なければここまで國は混しなかっただろうに。彼らが來なければあの年は―
半ば責任転嫁しがちな自らの思考を、頭を振ることで追い出す。どうやらストレスでどこかおかしくなっているようだ。幸いにして今日はそこまでやらねばならない仕事は溜まっていない。しばかり仮眠を取っても問題ないだろう。
そのまま目を瞑り、いざ夢の世界へと旅立たんとした時、彼の部屋のドアがノックされる。
「……だれだ?」
自らの眠りが妨げられた事に、やや不満げな聲を出すメリーラン。
『その、花谷水樹はなたにみずきです。団長さんにお話があって…』
メリーランは思わず自らの顔を覆った。訪ねてきたのは、なんと先ほどまで話題にしていた勇者の一人ではないか。なんとも面倒な偶然が起こってしまったである、と心の中で思わず悪態をつく。
「…どうぞ」
いつまでも返事をしない訳にはいかない為、その不機嫌な聲を隠そうともせずに返事を返すメリーラン。とても國賓の立場である勇者への態度では無いが、彼の心を考えればこの程度は許されて然るべきだろう。
「失禮します……」
ってきたのはしいだ。肩の辺りまでびた、ウェーブの掛かった茶髪に、パッチリとしたその目。學生服を著ていても分かるそのメリハリの付いたスタイルは、男の視線を摑んで離さないであろう。
召喚された時に強力な能力を授かった事もあり、彼は召喚された者達の中でも上位の立場にいる。そんな彼がメリーランの元に一人で何をしに來たのか。勿論っぽい話では無い。仮にそうであればメリーランももっと上機嫌になっていたであろう。
「あの、古谷君のこと何ですが、その……」
そう、彼はことあるごとに行方不明になった生徒の報をメリーランに聞いてきていたのだ。彼が失蹤したと聞いたときに、一番取りしたのも彼である。なぜ彼がしきりに彼の事を気にかけるのかは分からないが、おそらく男の何かがあるのだろう。メリーランはそう當たりを付けていた。
「殘念ながら、今日も進展はない。何かあれば報告するから、部屋に戻っていなさい」
「……はい……」
このやりとりもほぼ毎日わしている。初めのは哀れに思っていたメリーランも、最近ではもはや呆れすらじるようになっていた。この後は肩を落とした花谷がすごすごと帰って行くのがいつものテンプレートである。彼には最早その姿が幻視出來るようになっていた。
そう、いつも・・・のテンプレートならば。
「だ、だだだ団長!!」
ノックもせずにってきた先ほどの部下が、慌てたような大聲を出す。メリーランも花谷も目を見開いて彼の方を向いた。
「なんだ一。騒々しいぞ」
「す、すいません!! ただ、急の報告だったもので……」
れた呼吸を整え、彼が言葉を発する。
「伝令です!! 捜索対象であったフルヤ・カオルの生存を確認しました!! 冒険者の協力を得て、王國へと帰還した模様です!!」
「なんだと!?」
部下の言葉は、そこに居る者達の目のを変えるには十分すぎるだった。
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