《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第十一話
「宇野とその取り巻きじゃない……なんだってこんなところにいるのよ」
水樹があまり歓迎しているとは言えない表を彼らに向ける。一方の男たちはそれに気づいているのかいないのか、変わらずにやにやとした表を浮かべている。ディーネからしてみれば彼らのにやにやとした表しか見ていないため、もはや実はこの顔がデフォルトなのではないのかと疑い始めているところだ。
先頭の宇野と呼ばれた男が肩を竦め、ねっとりとしたような貓なで聲を上げる。
「まあまあ、そうかっかしないでくれよ水樹。俺とお前の仲じゃないか?」
「いつそんな仲になったって言うのよ、気悪いわね」
自らのを抱きしめながら一歩後ずさる水樹。ここまであからさまな反応をされても、宇野はにやにやとした表を崩さない。
「クク、そう恥ずかしがる必要はないさ。全く、これが流行りのツンデレってやつかな? もっと素直になっても罰はあたらないよ」
「いや、話を聞いてよ……」
全く話を聞かない宇野に対しげんなりとする水樹。古今東西しつこくに言い寄る男は気持ち悪く見えるものだが、この男の場合それにナルシストと思い込みまで加わっているものだから始末に負えない。しだけ絡まれている水樹に同するディーネであるが、特に行に移そうとしない辺り割とどうでもいいと思っている証拠だろう。
「ほら、そんなダセェ男はほっといて俺と遊ぼうぜ? そいつといるより何倍も楽しいって保障するぜ?」
徐々にメッキが剝がれてきたのか、先ほどまでの形式的には禮儀正しい言葉遣いが、ディーネと會った時のような暴な口調に変わってきている。いい加減面倒になってきたのか、水樹も語気をやや強くしながら言い放つ。
「私が誰といるかなんて私の勝手じゃない! なんで時間の使い方まで縛られなきゃいけないのよ?」
「決まってるじゃないか! お前が俺の彼だからだよ!」
「はぁ!? 初耳なんだけどそれ!?」
徐々にヒートアップしていく二人の會話。それを橫で聞いていたメリエルがいいことを思いついたとばかりに自らの手を打つ。ディーネは一抹の不安を覚えながらも、彼を止めることはしなかった。
「彼氏彼さんの関係を邪魔するのも忍びない。ミズキ殿、カオル殿は私に任せてそちらの仁と共にしたらどうだ? 私たちは退散させて貰うことにしようか、カオル殿」
「わかってるじゃねぇか、騎士さ……」
「はぁ!? 何寢ぼけたこと言ってんのよ!! このやり取りをみて本當にそう言えるならあんたの目と耳は節としか言いようがないわね!! だから婚期も逃して薫に執著するのよ!!」
「なっ!?」
宇野が何か言いかけていたようだが、それに覆いかぶさる形で水樹がシャウト。痛いところを突かれたとばかりに後ずさるメリエルであったが、彼もやられっぱなしではいられない。
「ふ、カオル殿を監視するようなストーカーが何を言うか。そちらこそいころからの付き合いだかなんだか知らないが、いつまでも古い絆にしがみつくような重いではないか。これこそ笑止千萬というもの」
「重いで結構!! あなたのようなどころか頭まで軽いような人とは違うので!!」
「なにおう!?」
「やるの!?」
ガルルとお互いに犬歯をむき出しにしてにらみ合う陣。が、『薫』が目の前にいると思い出したのかハッとした表を浮かべると、すぐさま粛々とした態度に戻った。
ディーネからしてみれば「手遅れ」の一言である。
「わ、私としたことが取りしちゃったみたいね。あーやだやだ、婚期逃したと戦うとついヒートアップしちゃうわー」
「オホン、やはり騎士として高潔なままでいないとな。どこぞの重い小娘を相手にしている場合ではなかったか」
「……」
「……」
無言でにらみ合う二人。なぜ一度修正された局面を再燃させようとするのか。ディーネは仕方なく二人の仲裁にろうとする。
「まあ二人とも、落ちつ「うるせぇ!! 雑魚以下のゴミは黙ってろ!!」」
唐突に湧いてきた宇野に発言を邪魔されるディーネ。彼からしてみればお前が黙ってろといいたいところだが、その気持ちをぐっとこらえて仲裁を続けようとする。
だが、その発言に黙っていないのは陣であった。
「……貴様、今カオル殿をゴミと言ったな?」
「へぇ、そういうこと言っちゃうんだ?」
陣二人から向けられる眼に一瞬怯むも、にやにやとした笑みを再度浮かべる宇野。
「だってそうだろ? 大した能力も持たず、戦闘ではお荷。挙句にこの間は逃げ出して國にまで迷をかけた! これがゴミじゃなかったらなんなんだよ?」
「貴様、もう一度言ってみろ!! その時は……」
剣の柄に手をかけるメリエルだが、宇野はその笑みを崩さない。
「その時はなんだよ? 勇者である俺を切るのか? 正當な理由もなく?」
「……く……」
手は剣の柄に止まった狀態のままかない。おそらく彼の言うとおり、彼を切り捨てる正當な理由が無いからであろう。あくまで薫が侮辱されたというのは自分の的な理由に過ぎないからだ。
「なら、私が相手するわよ? 勇者同士の私闘なら問題ないわよね?」
「おいおい、この人數相手に無茶すんなよ。俺たち全員一軍だぜ? いくらなんでも水樹一人じゃなぁ?」
宇野がサッと手を挙げると、背後の全員が自らの能力を見せつけるように構える。さすがにこの人數相手では彼も苦戦するのであろう。表に出ない程度に歯噛みする水樹。
「俺だってその綺麗なに傷はつけたくないが…やるってんなら仕方ないか? でも、無理やりってのもありかもな! 嫌いじゃないぜそういうの」
「……最っ低」
吐き捨てるように呟く水樹。重い空気がディーネ達を包み込む。
心でこの狀況にため息をつくディーネ。もう面倒事になるのは仕方ない、なるようになれと心の中で割り切って、彼は一歩前に出た。
「うん。まあ話を纏めると、僕がゴミかどうかってことだよね?」
「薫……?」
「なんだよ。ゴミに用はねぇんだが?」
「それだよそれ。そのゴミっていう拠がないから水樹もメリエルさんも怒ったんだろ?」
その場にいた全員がいぶかしげな表をディーネに向ける。何を言いたいのかわからないといった表だ。ディーネはそれじゃあ、と言葉を続ける。
「僕がゴミかどうか、宇野君自が証明すればいいんじゃないかな?」
困した表を浮かべる彼に、ディーネは人差し指を突き出す。
「――宇野君。君に決闘を申し込むよ」
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