《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第十四話
観衆は確信していた。ディーネがこの一撃で倒れたことを。
メリエルは嘆いていた。ディーネがボロボロに傷付いていることを。
水樹は祈っていた。ディーネが生きていることを。
宇野は嗤っていた。ディーネに當たった確かな手応えをじた事を。
そしてディーネは――
◆◇◆
「……痛ってぇ」
 若干焼けたを労るようにでながら、ディーネは僅かに毒づく。砂煙に覆われ、クレーターとなった地面の中心に立ちながら、しかし彼は無傷であった。
 彼は避けられた訳ではない。タイミング悪く訪れた寶の不調により、完全に意識の空隙を付かれた形で宇野の魔法をダイレクトに食らってしまっていた。その証拠と言っては難だが、彼のは若干煤けている。
 では、何故彼は今だに立っているのか。
 それは実に簡単な疑問だ。彼が倒れるほど威力がなかった。ただそれだけの話である。
 彼の見立てでは、彼の魔法の威力は魔導師団の一隊長並。そう、たかが・・・一隊長並である。帝國の《五剣》の一人として數えられるディーネからしてみれば、せいぜいが強い日差しに照らされたとしかじない程度。
 別に彼が弱かった訳ではない。ただ、相手が悪かったのである。一介の學生が相手取るには明らかに力不足。いくら勇者としての力を得ても無理のある話であった。
「くっそ、服も汚れちまった。最初ハナっからこのポンコツがいてれば問題なかったって言うのに」
 ディーネがゴツン、とやや強めに寶を叩く。するとどうしたことだろうか、寶の中心が輝き、空中に映像が投影され始めたてはないか。ディーネは思わずをのけ反らせてしまう。
『もー、痛いですよマスター!! 上手く行かないからってに當たるなんて最低です!! DVです!!』
 キャピキャピとしたアニメ聲がディーネの耳に響く。空中に投影されたのは、ディーネの知り合いをデフォルメして小さくしたようなキャラだ。背中に生えた小さな羽は妖でも目指しているのだろうか。別にそれで浮いているわけでもないだろうに、そのキャラは忙しなく羽を羽ばたかせている。
「……は?」
 一瞬呆けた聲を上げたディーネは、事前に聞かされていない機能に頭を抱え、すぐに下手人を特定する。
「あのマッドサイエンティストか……余計なことしやがって」
『むむ! 今度は私の生みの親まで! あんまり調子乗ってると許さないんですからね!』
その生みの親に極度に似ているのはどういうことだと心の中で愚癡を吐くが、その彼には何を言っても無駄と言うことを思い出し、ため息を吐くに留めておく。
この謎のキャラに時間を掛けていても仕方ない為、ディーネは改めて寶の柄を握りしめ引き抜こうとする。
『あ、それ起ワード言わないと抜けないよ?』
「それを早く言いやがれクソッタレ!!」
思わず地面に拳をたたきつけるディーネ。わずかにクレーターが拡大した。
『んもー、短気だなぁ。そんなんだから彼の一人も出來ないんですよぉ』
「おまっ、なんで知って…いや違う、そんなことより早く起ワードを」
『えっとぉ……うーん……さんざん々言われたし……本當のこと教えなくてもいいかな……?』
「おい、聞こえてっぞ」
小聲で呟かれたちみキャラの発言に突っ込むディーネ。
『ちぇー。仕方ないなぁ、呪文は『紋章解放メダリオン・リベレート』だよ。しっかりと大聲でんでね♪』
「誰がそんな恥ずかしいことを……紋章解放」
めんどくさそうに呟いたディーネであるが、相変わらず柄は抜けない。胡げに空中に浮かぶちみキャラのことを見るが、相手はしれっとした顔をしている。
『生みの親が言ってたよ? きっとあいつは恥ずかしがって起ワードを小さめに呟くから一定以上の音量じゃ無いと反応しないようにしたって』
「あの腐れ外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
◆◇◆
「――紋章解放メダリオン・リベレート!!」
土煙で隠された視界の中を、一條のび聲が切り裂いていく。次の瞬間、土煙の中からがれたかと思うと、側から起こった暴風に土煙は吹き飛ばされる。思わずその場にいた全員が顔を覆ってしまうほどの強い風だった。
「い、一何なの!?」
「くっ、カオル殿……!!」
突如巻き起こった砂嵐が収まり、一同はようやく目を開くことが可能となった。そしてその直後、全員が目を剝くような驚きに包まれる。
「……ウソ……」
それは一誰が呟いただっただろうか。どこからともなくれたその聲だったが、その臺詞は如実に彼らの心を表していた。
先ほどまで砂煙の中心だった場所―つまりディーネが立っていた場所。そこには確かに一人の人が立っていた。ただしそれは、ディーネでは無い。
真っ黒なボディに、を包む緑のオーラ。
鋭角的なフォルムに、背中に生えた羽のようなブースター。
そして左腕にはディーネがしていたと同種の盾が接続されており、右手には長めの直剣を攜えている。お伽噺に出てくるような騎士を、更に現代的に改造したかのような風貌だ。
「な……あ……」
宇野は餌を求める金魚の如く口を開閉させている。まさに開いた口が塞がらない、といった様子だ。まあ、それも仕方の無いことだろう。なにせ彼からしてみれば、スキルも持たないと今まで見下していた格下が唐突に自らと同じ土俵へ上ってきたのだから。
『……惚けてる場合じゃないと思うけど』
宇野に向かって若干くぐもった聲を掛けるディーネ。右手に持った直剣を振ると、その軌跡をなぞるように緑の燐が撒き散らされる。
我に返った宇野は慌てて構えるが、時既に遅し。彼のなけなしのガードを突き破り、ディーネの剣撃が炸裂した。
「何っ!?」
 常に魔的なシールドを張っていた宇野であったが、そのガードも叩き割られつつ吹き飛ばされる。ダメージこそ軽減されたが、彼が圧倒されたというのは紛れもない事実だ。
「クソがぁ……」
 格下だと思っていた相手に痛打を與えられた。その事実が彼の怒りを掻き立てていた。
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