《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第四十一話
  暫く山林を進むと、ディーネが鎧を著た狀態で木にもたれかかっている。外側からは表が伺えないが、フィリスの接近に気付いて反応した所を見るにしっかりと外界は見えているのだろう。
「……あん? 本當は寢てた癖にって? バカ、寢てねぇよ。ありゃあ目を瞑って休息してただけだ……本當だぞ」
「何を獨り言呟いてるんですか隊長? 別にやるなとは言いませんが、私が居る前でそんな気の悪い景を見せないで下さい」
「むしろ獨り言ならどんなに良かったことか……」
  フィリスの罵倒にも応じず、がっくりと肩を落とすディーネ。現在、彼は鎧に付屬された妖……もとい余計な機能に頭を悩まされて居る最中であった。
  水樹達にはスキルの賜と説明しているが、実際には帝國で開発された新型の汎用兵の試作品である。それがディーネに引き渡されると決まるや否や、開発局の局長が突貫作業でこの機能を付隨させたのだ。
  一応、彼の言い分としてはナビゲートや魔法のサポートをさせるという目的らしいが……今の所役に立った場面は無い。まあディーネそのもののスペックが高過ぎる為、というのもあるが……。
  だが、そんな事などフィリスは知らず。端から見ればディーネは獨り言を続ける唯の変質者である為仕方は無いが、それでも嫌悪のを向けられるディーネは哀れと言う他ない。
「いや、そんな事はどうでもいい……問題は、これから行く法國についてだ。正直行きたくないぞ俺」
「ここまで來たのですから諦めて下さい。それに、今回は『薫』として行くのですから、例の祭司にもバレませんよ」
「それはそうだが……」
  ディーネはとある一人の祭司を頭に思い浮かべる。彼と最も関わりが深く、また彼が最も苦手とする中の一人であるのだが、何があったかはひとまず置いておこう。問題は、ディーネの事が相手にバレていると言うことだ。
報局の局長という肩書きから、彼の名前だけはし政治に詳しい者にはよく知られているのだが、その顔や格までは知られていない。表に出ることがあっても、それは影武者だ。
だが、一部の因縁がある相手には、その実力と共に報が見しているのだ。仕方が無い狀況ではあったが、ディーネとしても不本意な事実である。
「まあ、あの方がいくら勘が良いと言っても限度はあるでしょう。流石に局長の擬態を見抜けるとは思いませんが……」
「どうかな……弱気になるつもりは無いが、アイツは予測が付かないからな。下手するとバレる」
ため息を付き、自らの將來を憂うディーネ。どうやら彼の心労はまだ続きそうである。
「まあ、いるかも分からない奴の話をしても仕方ないな……配備していた間諜の方はどうだ?」
「……局長。その件なのですが、書を送ったところ使者が期日になっても帰ってこないのです」
「何?」
裏の世界において、約束というのは絶対である。それを破るとは即ち裏切りと言っても過言では無い。もしくは、契約を履行したくとも出來ない狀態にいるか。
「死んだか、裏切ったか……なくとも、不測の事態が起きたのは間違いないみたいだな」
「法國は監視も強く、魔話も扱えません。これまでの任務より、難易度は跳ね上がるでしょう」
「はぁ……問題事には問題事が重なるってか? めんどくせぇ」
ディーネは苛立ちをぶつけるように、剣を引き抜いて振るう。振るった先に存在した豬が、を撒き散らしながら倒れこんだ。
「ま、やることは変わらねぇ。要するに、バレないように立ち回りゃ良いんだろ? なら専門分野だ」
倒れた豬を摑みながら、ディーネはそう言い放つ。
「……それとは別に、舐めた真似をしてくれた奴には報復が必要だがな」
◆◇◆
それから數日後。
「ん~! やっと著いたぁ!」
馬車がアルテリア法國の城門をくぐり抜け、首都であるハルメニアスへと進する。全力でびをしながら、水樹は馬車から降り立った。その後に続き、骸達も続々と降りる。宗教の大本山だけあって、町並みもどこか荘厳な雰囲気を漂わせており、全員珍しそうな表をして辺りを見回している。
「ふう、ここに來るのも久しぶりだな。それでは、私はギルドに馬車を置いてくる。済まないが、しばかり待っていてくれたまえ」
そう言い殘してその場を去って行くフィリス。後に殘された水樹達は、しばかり時間を潰す必要があった。
「……それにしても、王國とはずいぶんと町並みが違うわね」
「確かに、宗教の大本山っていうだけはあるな。なんだかキリスト教を思い出すけど……比較するのも失禮か」
商店が立ち並び、活気に溢れていた王國とはまた違った印象をける。閑散としている訳ではないが、街を行く人々もどこか靜かな雰囲気を纏っているのも特徴か。
「でも、似てるのは確かだと思うわよ。やっぱり、質としては似てるのかしら……骸、貴確か聖書とかに詳しかったわよね。その辺りどう思う?」
「……ぅおぇっぷ」
「あらあら、それどころじゃ無いみたいですわね」
骸は相も変わらず口元を押さえている。いつもならば中二病知識全開で、嬉々として水樹達の宗教談義に加わりそうなものなのだが、今では借りてきた貓よりも大人しい。
「あ-、そうだったわね……しょうが無い、どこかのトイレでも借りましょう」
「ほら、しっかりしてムクロ」
「うごご……三途の川が見える」
ディーネが介抱するも、一向に狀況は良くならない。顔を青くして座り込んだ彼はそのままかなくなってしまった。
「ちょ、こんな所で吐いちゃ駄目だって! ほら、せめて路地裏まで……」
「も、もう無理……」
フルフルと力なく首を振る骸。もはや一歩でもいてしまえばその時點で決壊してしまう、と言わんばかりの様子だ。
「せめて袋でもあれば良いんですが……」
「そんな都合良く空の袋は無いわよ……」
この世界では使い捨てのビニール袋など勿論存在しない。基本的に使い回し前提で作られているので、吐瀉をれてしまうと使いにならなくなってしまうのだ。
全員が頭を抱えた、その時だった。
「あのー、何かお困りでしょうか?」
「へ?」
一同の背後から聞こえた、優しげなの聲。唯一その聲に聞き覚えがあるディーネは、一瞬を固くする。
「宜しければ、私がお力になりますが……」
純白のシスター服にを包んだ一人のが、彼らの背後に立っていた。
そして、そのは先日ディーネが苦手と稱した人の一人。
「あ、申し遅れました。私はスレイ教にて番外祭司を務めております、ドローレン・フェミニウスという者です。以後お見知りおきを」
法國においての一番の『敵』が降臨していた。
(……一発目からラスボスとか)
問題事には問題事が重なる。奇しくもディーネが言ったとおりになったようだ。
【書籍化】雑草聖女の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】
★2022.7.19 書籍化・コミカライズが決まりました★ 【短めのあらすじ】平民の孤児出身という事で能力は高いが馬鹿にされてきた聖女が、討伐遠征の最中により強い能力を持つ貴族出身の聖女に疎まれて殺されかけ、討伐に參加していた傭兵の青年(実は隣國の魔術師)に助けられて夫婦を偽裝して亡命するお話。 【長めのあらすじ】高い治癒能力から第二王子の有力な妃候補と目されているマイアは平民の孤児という出自から陰口を叩かれてきた。また、貴族のマナーや言葉遣いがなかなか身につかないマイアに対する第二王子の視線は冷たい。そんな彼女の狀況は、毎年恒例の魔蟲の遠征討伐に參加中に、より強い治癒能力を持つ大貴族出身の聖女ティアラが現れたことで一変する。第二王子に戀するティアラに疎まれ、彼女の信奉者によって殺されかけたマイアは討伐に參加していた傭兵の青年(実は隣國出身の魔術師で諜報員)に助けられ、彼の祖國である隣國への亡命を決意する。平民出身雑草聖女と身體強化魔術の使い手で物理で戦う魔術師の青年が夫婦と偽り旅をする中でゆっくりと距離を詰めていくお話。舞臺は魔力の源たる月から放たれる魔素により、巨大な蟲が跋扈する中世的な異世界です。
8 195【書籍化】竜王に拾われて魔法を極めた少年、追放を言い渡した家族の前でうっかり無雙してしまう~兄上たちが僕の仲間を攻撃するなら、徹底的にやり返します〜
GA文庫様より書籍化が決定いたしました! 「カル、お前のような魔法の使えない欠陥品は、我が栄光の侯爵家には必要ない。追放だ!」 竜殺しを家業とする名門貴族家に生まれたカルは、魔法の詠唱を封じられる呪いを受けていた。そのため欠陥品とバカにされて育った。 カルは失われた無詠唱魔法を身につけることで、呪いを克服しようと懸命に努力してきた。しかし、14歳になった時、父親に愛想をつかされ、竜が巣くっている無人島に捨てられてしまう。 そこでカルは伝説の冥竜王アルティナに拾われて、その才能が覚醒する。 「聖竜王めが、確か『最強の竜殺しとなるであろう子供に、魔法の詠唱ができなくなる呪いを遺伝させた』などと言っておったが。もしや、おぬしがそうなのか……?」 冥竜王に育てられたカルは竜魔法を極めることで、竜王を超えた史上最強の存在となる。 今さら元の家族から「戻ってこい」と言われても、もう遅い。 カルは冥竜王を殺そうとやってきた父を返り討ちにしてしまうのであった。 こうして実家ヴァルム侯爵家は破滅の道を、カルは栄光の道を歩んでいく… 7/28 日間ハイファン2位 7/23 週間ハイファン3位 8/10 月間ハイファン3位 7/20 カクヨム異世界ファンタジー週間5位 7/28 カクヨム異世界ファンタジー月間7位 7/23 カクヨム総合日間3位 7/24 カクヨム総合週間6位 7/29 カクヨム総合月間10位
8 52迷宮宿屋~空間魔法駆使して迷宮奧地で宿屋を開きます~
迷宮、それは魔物が溢れ出るところ。 冒険者は魔物を間引くが、殘した死體を糧に魔物はさらに強くなった。 それでは意味は無いと、魔物の死體を持ち帰るようにするも……荷物持ちが大変すぎて攻略が進まない。 そんな時、光を浴びたのが『空間魔法使い』だった。 孤児院育ちのマリーロズ。初めは使えない空間魔法に絶望するもコツコツとレベルをあげて夢を見つけ、葉えていくーーー。 Bkブックス様にて一巻発売中!書籍化のタイトルは『迷宮宿屋 ~空間魔法使い少女の細腕繁盛記~』になります。 7/1第三部スタートになります。毎朝8時に投稿致しますのでよろしくお願いします。
8 147戀死の高校生活
普通の高校生だった俺を襲ったのは「死」 戀を守るため、未來を救う! 覚悟を決めて、戦いに挑む! 俺、亀島タクトは、普通に楽しい高校生活を普通に過ごしていた。そんなある日、ずっと好きだった先輩から告白を受けるが、、、無限ループと死の境に巻き込まれて、とんでもない事態に!? 異次元あり、戀愛あり、友情ありの完全新型ファンタジー&戀愛小説!
8 187休止中
ごく普通の一般高校生…でもないか… よくいる學校の地味ーズの[魔壁 勇] 天使より悪魔押しの廚二病… 異世界勇者ライフを満喫!…とおもいきや! とまぁ異世界系の小説です!初心者ですがよかったら! ※二作目で【我輩はモンスターである。名前はまだない。】を投稿中です。そちらもよかったら!
8 107世界一の頭脳を持つ母と世界一力が強い父から生まれた雙子
かつて、世界最強の頭脳を持っていると言われた母 とかつて世界最強の力を持っていると言われた父の 息子の主人公と、その妹 主人公とその妹は、世界最強夫婦の子供(雙子)ということもあり、普通じゃないくらいに強かった。 主人公が強いのは力ではなく頭脳。 そして、殘念なことにその妹が強いのは當然頭脳ではなく、力。 両親は、それを僕達が14の時にやっと気づいた そして、15になったその瞬間、僕達は異世界にいた... 最後までお付き合いいただけると嬉しいです!!
8 116