《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第四十二話
「すみません、本當にありがとうございます」
「……お禮を言う。ありがとう」
「いえいえ、困っているお方を助けるのは當然の事で座いますので」
  彼が骸に狀態異常の回復魔法を掛けた所、みるみると顔が戻り仕舞いにはいつもの調子を完全に取り戻していた。
  ディーネからしてみれば煩い奴が靜かだったのに余計な事をしてくれた、という想だったが、よくよく考えればこのは単なる『人助け』という理由だけで散々彼の邪魔をして來ていたのだ。これも運命か、とディーネは心で肩を落とす。
「本當に助かりました。私達では……その、魔法で回復するというアイデアが浮かばなくて」
「狀態異常の魔法で調が良くなるというのはあまり知られてる事では無いので、それも仕方ありませんよ。気を落とすことはありません」
  そう。吐き気や熱といった癥狀は狀態異常の一種として數えられるので、対処療法としては良く効くのだ。
  但し、あくまで対処療法である。本の原因が病気だった場合は、また別の魔法で病気を取り除く必要があるのだ。安易に使って、肝心の病気に気付かないとなれば大問題である為、この報は市井には余り広まっていない。
  最も、ディーネにとっては既知の報であるが。
「話は変わりますが……その格好からして、皆さん旅のお方で座いますね? ようこそ、アルテリア法國へ。宜しければ、私がこの國の案を致しましょうか?」
「え、本當ですか?」
「勿論。私としても困っているお方達を放り出すことは出來ませんし、それにこの國の事をよく知っていただきたいですから」
  ……まあここまで都合の良い話になると、何か裏があるのでは無いかと疑ってしまうのが人間の心理である。だが驚く事無かれ、このシスターの場合、全ての臺詞が本心からの言葉なのである。
  ドローレン・フェミニウス。スレイ教において《番外司祭》という特殊な地位を與えられた、清貧をモットーとする。
  その神は高潔であり、他者への配慮や弱者への救済を欠かすことが無い。自を投げ打ってまで何かを救おうとするその姿はまさに《聖》であり、実際にスレイ教においては《聖》の二つ名を頂いているのだ。
  そんな彼が、ディーネはどうにも苦手なのである。自の邪魔をしたかと思えば、ある時には手助けをしてくることすらある。一どちらに付くのかわからない、ある種ダークホース的な存在だからだ。
  何より、彼の生き方が人間らしく無い、ということの方が苦手だったりもする。
「でもミズキ。アメリアさんを待たないといけないんじゃない? 勝手にみんな居なくなったら問題だと思うけど」
「あっ……そうだったわね」
「あら、既に先約が……それでしたら、私はこの國について簡単な解説をさせて頂きますわ」
  フィリスが居れば道案に彼が付いてくることはない。そう考えてディーネは口を挾んだが、それでもドローレンがこの場を離れる事はない。こうなったら彼は梃子でもかないだろうと察した彼は、溜息をついて一歩後ろに下がった。
「有難うございます! なら聞きたいことがニ、三あって……」
「あ、俺も聞きたいことが……」
「……サブクエストは町の人に話し掛けるのが鉄板」
  水樹、春斗、骸の三名は彼への質問に向かっていく。いや、若干一名何か違う気もするが。
  一歩下がっていたディーネの隣に、何故か殘っていた奏が寄ってくる。ディーネは怪訝な顔をして彼に問いかけた。
「行かないの?」
「ええ。水樹達から後で聞けばいい事ですし……それに、何故か敬語キャラが被っているような気がして」
  知らねぇよ、という言葉は元で辛うじて飲み込んだ。
◆◇◆
「お待たせしました皆さん。々時間が……む?」
  暫く水樹達が雑談をしていると、フィリスがギルドから戻ってくる。彼は水樹らのの中に見慣れないシスター服を見つけると、怪訝な顔をして覗き込んだ。
「……あら? あらあらあら?」
「げ」
  その見慣れないシスター服の主が、見慣れた知人だった事を知ると、おおよそが出してはいけない聲を出しながら一歩後ずさる。
  だが、フィリスが不味いと思ってもドローレンはそう考えない。それが博主義というものである。多分。
「あら! 本當に久しぶりですねフィリス・・・・さん! また會えて嬉しゅう座いますわ!」
「ーーッ!?」
  何食わぬ顔で特大の弾を投下していくドローレン。ディーネとフィリスは、思わず呼吸を一瞬止めてしまう。
「……え、フィリス?」
「……アメリアじゃなくて?」
  戸いつつ怪訝な顔をする水樹達。ここで対応を間違えて仕舞えば、彼らからの信用はガタ落ちだ。なくとも、人違いという単純な言い訳では納得しないだろう。
  意を決したフィリスは、腰の剣を鞘ごと彼に押し付ける。
「……その名で私を呼ぶなと言ったはずだぞ」
  鞘からチラリと覗く白刃。いつでも斬れると言うメッセージを殺気のオマケ付きで伝えるが、ドローレンには効いた様子もない。
「……ふふ、申し訳ありません。今のあなたは『アメリア』でしたね。私すっかり忘れていましたわ」
「……チッ」
  これだからお前は苦手だ、と本心を呟きつつ剣を収める。何をやらかすかわからない意外に、この飄々とした態度。ただ強いだけの奴より數倍面倒臭いとフィリスは実していた。
「……彼との話があるなら早めに済ませてくれ。私は適當なところで待っている」
「あ、アメリアさん……」
  フィリスは彼らに背を向け、何処かへと立ち去っていく。
「ふぅ、嫌われてしまいましたね……私がミスをしたばっかりに」
  がっくりと肩を落とすドローレン。この態度も、先程の発言も恐らく本心からの行である。それがディーネにとっては、とんでもなく恐ろしい。
「……アメリアさんってやっぱり昔に何か……」
「……それを勝手にお答えするわけには行きませんわね。既に嫌われてるとは言え、これ以上恨まれたくはありませんし」
「ちょっと、悪趣味よ骸……すみません、こちらの方が不躾でした」
「お気になさらず。ただ、人には誰しも知られたくない事というものがあります。どうか彼の行為を責めないであげて下さい。悪いのはあくまで私ですので」
  そう言うと彼は一禮して、街に高くそびえ立つ鐘樓の方角を向く。
「あら、もうこんな時間ですか……申し訳ありませんが、私は行かなければなりません。もうしお話ししたかったのですが……」
「いえ、こちらこそ貴重なお時間ありがとう座いました!」
「……ありがと」
「有難う座いました」
「ふふ、皆さん禮儀正しいのですね。何か困ったことがあれば、本堂に來て下さい。きっとお力になれます」
  ドローレンに対し禮を返す一同。いや、奏は未だキャラ被りを気にしているのか発言していないが……。
  またご縁があれば、とドローレンはその場を立ち去っていく。また面倒が増えた、とその背中を見ながらディーネ達は改めて実した。
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