《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第四十五話
お約束の如く魔の討伐に來た一同。春斗は既に剣を攜え、ディーネも鎧を展開している。いつ魔獣が出て來ても良いように、各々が戦闘準備を萬端にしていた。
  魔の出現地域に設定されていたのは、アルテリア法國の首都からやや離れた、こじんまりとした村の郊外。辺り一面には草原が広がっており、いかにも長閑な田舎といった雰囲気を醸し出している。
  辺りに群がる魔獣達の姿さえ無ければ、だが。
「なんだこの絵面は……」
  魔獣から見つからない為、腰を落として草原の丘陵に隠れながらディーネ達は相手を観察する。
  牧歌的な風景に突如現れる、禍々しい魔の姿。これが見境なく暴れているといった雰囲気であれば納得行くが、やっていることはただ草を食む事だけだ。これでは危険かどうかすら判斷出來ない。
「あれは……山羊をベースとした魔か? 隨分と呑気に草を食んでいるな」
「見た目は凄く禍々しいですけどね」
  確かに、水樹の言う通り見た目からして草を食べるような存在には思えない。山羊としての原型を留めている部分はなく、酷く捻じ曲がった角が元々は山羊だったのだと辛うじて主張している。
  かつて蹄であっただろう部位には鋭い爪が生え、口の端からは草を食べるのには必要無いであろう鋭い牙がはみ出している。真っ黒な表には所々赤のラインがっており、ドクンドクンと管のように脈するそれが、より一層禍々しさを主張しているようだ。
  だというのに食べているものは草。小でも捕らえて食いそうな見た目なのに、食べているのは草。
  何とも言えないギャップに、一同は複雑な顔をする。例えるなら犬が「ニャー」と鳴いてるのを見てしまったような、そんなじだ。
「……まあ、何はともあれ討伐対象なら倒さなきゃね。魔である事には変わりないんだし……」
「あ、ウサギ」
  ディーネが腰を上げて剣を抜こうとした時、骸の呟きが皆の耳にる。
  そう、ウサギだ。彼の見ている方を向くと、真っ白なと長い耳を持った紛う事なきウサギが跳ねていた。
  ぴょんぴょん、と軽快に跳ねるウサギは徐々に魔達へと近づいて行く。ディーネ達がそれを呆然と見送っていると、やがてウサギは魔獣の口元まで接近し……
  パクリ、と目にも留まらぬ速度で食われた。
「……食われたな」
「……食われましたね」
  まさに一瞬の早業である。完璧に丸呑みにしたのか、後にはの一片すら殘されていない。そんな事をしておきながら、魔獣達は素知らぬ顔でその後もひたすらに草を食み続けている。大した演技力だと言えよう。
「無害な草食のフリをして、隙あらば他のを襲う……隨分とけったいな生態をしていますね」
「まあ魔獣である以上仕方ないとも言えるな。さ、早速討伐に移るとしよう」
  そう言ってフィリスは腰を上げ、背中のバスターソードに手を掛ける……が、ついぞその剣がヤギ型魔獣に振るわれることは無かった。
  何故なら、その前に魔獣達が殲滅される事になるからだ。
「あら皆さん、こんな所で奇遇ですわね」
  またもや掛けられた、聞き覚えのある聲。良い加減うんざりとしながら、フィリスは彼へと振り向く。
「……お前ならもうどこに居ても不思議には思わんぞドローレン。もう慣れた」
「あらあら、つれませんわね。以前は良く驚いてくれましたのに」
  クスクスと笑うドローレン。彼の神出鬼沒さに幾度も悩まされていたフィリスとディーネは特に驚くことも無かったが、慣れていない水樹達はそうもいかない。先程別れたはずの彼がここにいる事に対し、驚愕の表をわにする。
「え、ドローレンさん!? なんでこんな所に……」
「ふふふ、とても新鮮な反応ですわね。こんな良い反応をしてくれるお方は、もう私の周りにはなくなってしまいましたから」
  ドローレンは頰に手を當て笑みを浮かべる。彼が余りに神出鬼沒過ぎるため、周りの人はすっかり彼の特に慣れてしまっていたのだ。そんな中で新鮮な反応を返してくれる年達、彼らの存在に嬉しくなるのも無理はない。
  だが、一方のフィリスは慣れているとはいえストレスが溜まるのは避けられないようで、若干イライラしながら彼へとここにいる理由を問いただす。
「それで、貴様は何故こんな所にいるのだ?  ここは魔獣の集まる危険地帯、そして私達は依頼をけとって此奴らを討伐する為に來ているのだぞ」
「あら、それはまた奇遇ですわね。私も村の教會に訪れた所、近くで魔獣が頻出していると聞いて伺ったまでですわ。せっかくなので、そのまま退治しておこうかと」
「……ほう?  それは冒険者の仕事を奪いに來たという認識でいいのか?」
「いえいえ、とんでもございません。私は純粋に魔獣を討伐しようとしているだけですわ。本當ですわよ?」
  ドローレンはしばし考え込んだ後、名案を思いついたと言うように手を打ち鳴らす。
「そうだ!  それならば討伐証明の素材は全てそちらにお渡しする、というのは如何でしょう?」
「……何?」
  冒険者が魔獣討伐の依頼を請け負った際、証明となるのは魔獣から出るである。だが、そこらの商店に売ってもそれなりに高く買い取られる一品でもあり、彼はそれを全てディーネ達に引き渡すというのだ。
  つまる所、『自分の利益はいらないから魔獣を倒させろ』と言っているに等しい。言葉だけ見れば破格の提案ではあるが、同時に余りにも利益を省みない彼のその姿勢は違和を覚えさせる。
  ドローレンは『聖』と呼ばれる存在である故、それに相応しい神を所持している。が、この場合ならば普通は引き下がって討伐そのものを此方に譲ってくるであろう。無私をモットーとしていたとしても、効率を捨てる程彼は愚かではない。
  そこへ見ると、今回の提案は明らかに二度手間であり、見るからに不自然である。何か裏があるのではないか、とフィリスが疑うのも仕方の無い事であった。
「……貴様、一何を企んでいる?」
「それはいくらアメリア様と言えどもですわ。ただ、貴方達に害を及ぼすものでは無いとこの場で誓っておきましょう」
  眼鋭くしドローレンを睨み付けるフィリス。語尾も厳しく問い詰めるが、當の本人はどこ吹く風とニコニコしている。
  やがてこれでは埒があかないと判斷したのか、フィリスは舌打ちをしながらいつでも抜けるようにと構えていたバスターソードから手を離す。先程までの剣呑な雰囲気は霧散し、代わりに気怠げな表が彼の顔に現れた。
「……わかった、譲ってやろう。素材も要らん。ギルドには教會のシスターに橫取りされたと伝えておくよ」
  顎をしゃくってドローレンを魔獣達へと促す。言葉に若干の嫌味は混じっているが、結局は彼へ譲る事に決定したようだ。
  最も、これはドローレンの主張とぶつかり合うと大抵ろくな事にはならないという経験則から判斷されている。彼は主張が噛み合わなかった場合、のほほんとしつつも絶対に自らの主張を曲げることは無い。反対にじわじわと相手の主張を曲げていく為、結果んだ通りの結末が得られないという事が以前にもあったからだ。
  彼のそういった言には幾度も煮え湯を飲まされており、フィリスとディーネにとっては既に思い出したくない記憶となっている。とはいえ、彼を見るたび否応無く思い出す訳だが。
「あらあら、良いのですか?  私は素材を必要とはしていないのですから、持っていかれても構いませんのに」
「棚ぼたは趣味じゃ無い。自の食い扶持くらい自分達で稼がせてもらう」
「え、棚ぼたしい……ムグムグ」
「おっと、骸は話がややこしくなるから黙ってましょうねー」
  何か言いかけた骸の口を塞ぐ水樹。まぁ実際にろくな事を言おうとはしていなかった為、正しい判斷である。
「そうですか……それではしお待ちいただけますか?  今すぐ片付けますので」
「別に待つ必要は無いだろう?  それとも私たちに何かさせる気か?」
「そんなことはございませんわ。ただ、しばかりお禮をと思いまして。軽いお食事くらいならば私が持ちましょうかと」
「……私の食費は高いぞ」
「あらあら、仕方ありませんわね」
  そう言うとドローレンはシスター服の何処から取り出したのか、白銀の戦場槌メイスを手に魔獣達へと向かう。
「十秒、待っていて下さい。その間にお掃除・・・を済ませますから」
  何者かが接近している事に気付いたのか、それまで草を食んでいた顔を一斉に上げる魔獣の群れ。その近付く人が自分達に害をそうとわかっているのか、明らかな敵意をもってドローレンを迎える。
  だが、ドローレンはその微笑みを崩さない。くるりとメイスを手の中で回転させると、先の部分を地へと突き刺す。確かな重量を以って、メイスはい地面へとめり込んだ。
「『ああ神よ。その大いなる威を持って、侵されし者達に救いの手を差しべ給え』ーー」
  顔の前で手を組み、神への聖句を唱える。彼の周囲は白いに包まれ、聖なる力を彼へと與える。
  魔の力を人間に扱える程度に落とし込んだが『詠唱』ならば、これは確かな神への信仰を持つ者だけが扱える『聖句詠唱』。魔には頼らない、神から授けられた強大な力。
「『聖句詠唱:絶対輝ドミニオン・メタトロン』」
  魔獣達は聖なる波に怯え、慌てて逃げ出そうとするがもう遅い。完した式は起點となったメイスから発され一気に四方へ拡散し、魔獣達を容赦なく飲み込む。
  聖なる力は、魔の力に対して絶対の効力を発揮する。ドローレンが発したのは『聖句詠唱』の中でも中位に位置するであるが、それでも魔の塊である魔獣達には絶大な効力を発揮する。聖なる波を直にけた魔獣は、個の差はあれど結末は皆同じ。
  つまり、消滅だ。
  後にだけを殘しつつ、無數にいた山羊型の魔獣達は全て、例外なくドローレンに消滅させられる事となった。
【書籍化&コミカライズ】追放悪役令嬢、只今監視中!【WEB版】
【12/15にコミックス第1巻が発売。詳細は活動報告にて】 聖女モモを虐めたとして、婚約者の公爵令嬢クロエ=セレナイトを追放した王子レッドリオ。 だが陰濕なクロエが大人しく諦めるとは思えず、愛するモモへの復讐を警戒してスパイを付け監視する事に。 ところが王都を出た途端、本性を表す『悪役令嬢』に、監視者たちは戸惑いの嵐。 ※本編完結しました。現在、不定期で番外編を連載。 ※ツギクルブックス様より書籍版、電子書籍版が発売中。 ※「がうがうモンスター」「マンガがうがう」でコミカライズ版が読めます。 ※世界観はファンタジーですが戀愛メイン。よく見かける話の別視點と言った感じ。 ※いつも誤字報告ありがとうございます。
8 83【書籍化】「お前を追放する」追放されたのは俺ではなく無口な魔法少女でした【コミカライズ】
【書籍化・コミカライズ】決定しました。 情報開示可能になり次第公開致します。 「お前を追放する!」 突然、そう宣告を受けたのは俺ではなく、後ろにいた魔法使いの少女だった。 追放の理由は明白で、彼女が無口で戦闘の連攜がとれないこと、リーダーと戀人になるのを拒んだことだった。 俯き立ち去ろうとする少女を見た俺は、リーダーが魔法使いの少女に言い寄っていたことを暴露して彼女の後を追いかけた。 6/17 日間ハイファン2位総合9位 6/19 日間ハイファン1位総合3位 6/22 週間ハイファン1位 6/24 週間総合5位 6/25 週間総合1位 7/5 月間ハイファン1位月間総合5位
8 147ドーナツ穴から蟲食い穴を通って魔人はやってくる
チェンジ・ザ・ワールド。 世界を変えたい! 若者達の強い想いが國を変えていく。虐げられていた亜人種が國を取り戻すために立ち上がる物語。 物語の舞臺は世界の最果てに浮かぶ大陸アニュラス。人間と亜人種が暮らす大陸である。 闇の集合體──突如、現れた時間の壁により大陸は分斷される。黒い壁は人々の運命まで変えてしまった。 ディアナ王女もその一人。他國王子と婚約儀の後、帰國できなくなる。 宿営中、盜賊に襲われ、従者のユゼフは王女だけ連れて逃げることに。同時に壁の向こうで勃発するクーデター。王女は魔物にさらわれて…… 成り行きで同行することになった元貴族だが、今は浮浪者のおじさんと共にユゼフは王女を助けに行く。
8 92継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》
☆TOブックス様にて書籍版が発売されてます☆ ☆ニコニコ靜畫にて漫畫版が公開されています☆ ☆四巻12/10発売☆ 「この世界には魔法がある。しかし、魔法を使うためには何かしらの適性魔法と魔法が使えるだけの魔力が必要だ」 これを俺は、転生して數ヶ月で知った。しかし、まだ赤ん坊の俺は適性魔法を知ることは出來ない.... 「なら、知ることが出來るまで魔力を鍛えればいいじゃん」 それから毎日、魔力を黙々と鍛え続けた。そして時が経ち、適性魔法が『創造魔法』である事を知る。俺は、創造魔法と知ると「これは當たりだ」と思い、喜んだ。しかし、周りの大人は創造魔法と知ると喜ぶどころか悲しんでいた...「創造魔法は珍しいが、簡単な物も作ることの出來ない無能魔法なんだよ」これが、悲しむ理由だった。その後、実際に創造魔法を使ってみるが、本當に何も造ることは出來なかった。「これは無能魔法と言われても仕方ないか...」しかし、俺はある創造魔法の秘密を見つけた。そして、今まで鍛えてきた魔力のおかげで無能魔法が便利魔法に変わっていく.... ※小説家になろうで投稿してから修正が終わった話を載せています。
8 88チート特典スキルは神より強い?
とある王國の森の子供に転生したアウル・シフォンズ。転生時に得たチート過ぎるスキルを使い、異世界にて歴史、文明、そして世界一の理すらも変えてしまう? これはとある男が10萬回、地球への転生を繰り返し集めた一億もの特典ポイントを使い、チートスキルを得て異世界にて無雙&地球には無かった楽しみを十分に満喫するお話。
8 147何もできない貴方が大好き。
なーんにもできなくていい。 すごく弱蟲でいい。 何も守れなくていい。 私の前では隠さなくていいんだよ? そのままの君でいいの。 何もできない貴方のことが好き。 こうしていつまでも閉じ込めておきたい。 私だけは、貴方を愛するから。 『…ふふっ 寢顔かーわい』 純粋な愛のはずだった。 しかしある日を境に、少女の愛は狂気へと変わっていく。
8 173