《家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら》すれ違い(重版お禮)

この度書籍2巻・3巻の重版が決定です!ご購して下さった皆さま、ありがとうございます;;

こちらはうきうきで書いたお禮のSSです!(2巻と3巻の間くらいのイメージです)

「このキャンディ、誰のなんだろう」

「さあ? 食べていいんじゃない」

ある日の晝下がり、神殿にてシャノンさんとお茶をしていたわたしは、テーブルの上にひとつだけ不自然に置かれているキャンディを手に取ってみる。

実は今朝からの調子が良くないため、何かを潤すようなものがしかった。

「ここでそんなのを食べるのはエルヴィスくらいだし。それじゃ、私はそろそろ仕事に戻るわね」

「はい! 頑張ってくださいね」

治療院へと戻って行くシャノンさんを見送り、ひとり自室へと向かう。

今日はエルも仕事が早く終わると言っていたし、一緒にゆっくり過ごせそうだと思うと、が弾んだ。

自室のソファに腰掛けると、早速先ほどもらってきたキャンディの包み紙を剝がした。

「な、なんだか不思議な味……」

エルには後で別のキャンディを贈ろうと決め、口に放り込むとなんとも言えない味がした。今まで食べたことのない味で、やけに甘い。

とにかくは潤せそうだし、このまま部屋の掃除でもしながらエルを待とうと思っていたのに。

「何しに來たの?」

「…………は?」

エルが部屋へやってきて、いつものように笑顔で出迎えようとしたところ、わたしの口が紡いだのは低く冷たい聲と、突き放すような言葉だった。

勝手に口がき、驚いたわたしは慌ててを手で押さえる。一方のエルは信じられないという表を浮かべ、アイスブルーの目を見開いた。

「お前、どうしたわけ? なんか怒ってんの?」

「放っておいて」

違うよ、今のは何かの間違いだと伝えたくても、が勝手にき、ぷいと顔を背けてしまう。

「ジゼル」

「エルなんて知らない」

突然のことに頭の中が真っ白になり、どうしたらいいのだろうとパニックになり始めた時だった。

「──悪かった」

「……え?」

エルはそう言うとわたしの手を取り、そっと握った。アイスブルーの瞳が、悲しげに揺れる。

「ごめんな」

どうして、エルが謝るんだろう。勝手な態度を取ってしまっているのはわたしで、エルは何ひとつ悪いことなんてしていないのに。

悲しくて、訳も分からず怖くて、頭の中はもうぐちゃぐちゃで、視界がぼやけ始めた時だった。

「──ど、どうしようこのままエルに好きだって伝えられなくなって、嫌われちゃったら、わ、わたし……」

「は?」

「あ、あれ? も、戻った……?」

突然いつも通り喋れるようになり、顔を上げれば、訳が分からないという顔をしたエルと視線が絡んだ。

◇◇◇

「──で、その訳の分からない菓子を食べたら、が意志に反する言をしたと」

「う、うん……」

「どうせユーインが作った失敗作だろ。殺してくる」

エルは舌打ちをして立ち上がると、そのまま出て行こうとするものだから、慌てて腕を摑んで引き留めた。本當に殺してしまいそうな勢いで、冷や汗が出てくる。

「わ、わたしが勝手に食べたから悪いの!」

「あいつが悪い」

エルは本気で怒っている様子を見せており、必死に引き留め続けた結果、やがて大きな溜め息を吐いた。

「本當、最悪すぎ」

「ごめんね。でも、どうしてエルが謝ったの?」

「……お前は理由もなくあんな態度を取るような奴じゃないだろ。だから、俺がなんかしたんだと思った」

エルの言葉に、がぎゅっと締め付けられる。

わたしをそんな風に思ってくれているのが嬉しくて、エルの変化にもを打たれて、目頭が熱くなった。

「エル、ごめんね、大好き……う、うわあん……」

「泣くなって。泣きたいのは俺の方なんだけど」

「ご、ごめん……うう……」

そう言いながらもエルはわたしを抱きしめると、子供をあやすように優しく頭をでてくれる。

やがてきつく抱きしめられたかと思うと、エルはわたしの肩に顔を埋めた。

「……壽命がまるかと思った」

「えっ?」

「お前に冷たくされんの、本気できつい」

「エル……」

もしもエルに冷たい態度を取られれば、わたしだって立ち直れなくなるくらい傷つくし、泣いてしまうはず。

エルを抱きしめ返すと、大丈夫だよと聲をかけた。

「わたし、ずっとずっとエルが大好きだもん」

「…………」

「次にまたこんなことがあったとしても、絶対にわたしの本心じゃないから。エルはいつだってわたしにされてるって安心して、一生偉そうにしてて!」

「は、なんだよそれ」

エルは小さく笑うと、顔を上げる。

鼻先がれ合いそうな至近距離で見つめられ、心臓が大きく跳ねた。真剣な表のまま何も言わないエルに、落ち著かなくなってしまう。

「ど、どうかした?」

「……別に。やっぱりお前が好きだと思っただけ」

「えっ」

予想もしていなかった告白に、顔が熱くなっていく。普段エルは好意をあまり言葉にしないため、余計に嬉しくて恥ずかしくて、幸せな笑みがこぼれる。

「ねえ、今のもう一回言って」

「言わない」

「お願い! 聞きたい!」

「無理。二度と変なもん食うな、バカ」

──もうこんなことは起きないでほしいものの、エルに「大好き」だと伝えられる大切さを、幸せを改めて実した日になった。

結局、あのキャンディはユーインさんが惚れ薬を作ろうとした過程で生まれた失敗作だったようで、30分間他人を拒否してしまう効果があったらしい。

その話を聞いた時、エルが來る前に食べておいて良かったと心の底から安堵した。30分あの狀態で一緒にいたら、間違いなく大変なことになっていただろう。

そして「二度とあんなゴミ作んな」とキレたエルがユーインさんの研究室を半壊させたのは、また別の話。

すれ違いって相手の大切さを改めて実するきっかけになるので好き&エルとジゼルがすれ違うことはほとんどなかったので書いてみたかったのですが、心が痛みすぎて一瞬だけになりました。二人にはずっとずっと仲良くしていてほしいです。

改めて重版、ありがとうございます!

2巻は加筆部分や巻末書き下ろしがあり、3巻はまるごと書き下ろしです。ぜひぜひ皆さまこの機會に紙書籍をご購いただけると嬉しいです(重版分が流通するのは來月以降です)

そしてそして!!!!!!超絶神コミカライズも絶対絶対読んでくださいね!!!!!!

いまは夏休みのあたりで、そろそろジゼルとクラレンスの潛捜査が始まります。私はエルの眼帯とクラレンスを楽しみに生きています。

今後とも家逃げをよろしくお願いします!

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