《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》門に立つ年 Ⅱ
「石神さん、こんなことですみません」
「いいよ! 何かあったら連絡しろって言ったのは俺の方じゃないか」
石神さんは優しい聲でそう言ってくれた。
私は事故のことから今日までのことを全部石神さんに話した。
「なるほど、分かったよ。風花の所へ行ったのが公安の刑事ってことは、早乙の「アドヴェロス」の人間なんだろうな。公安の中でも特殊組織だからなぁ。俺のこともある程度知っているのは、「アドヴェロス」に関わっている人間なんだろうよ」
「そうですか」
「風花のことも、以前から知っていたんだろう。大阪で「業」に対抗する人間として、報を持っていたんだろうな。だからお前が事故に遭ったと聞いて、會いに行ったんだと思う」
「はい。石神さんのことを尊敬してるって言ってました」
「そうか。それで俊雄君のことだけどな。風花のことを大切に思っているのは確かだ」
「はい、そう思います」
「風花に助けてもらった。事故でのことじゃない。地獄から救ってくれたんだ、お前が」
「え、いえ。私なんて何も」
「そうじゃないよ。あの年齢の子が、死にたくなるくらい辛い思いをしていたんだ。それを風花が助けたんだよ」
「でも、私は何もしてないですよ」
「まあな。でもそれは風花の考えであって、俊雄君は違う。そうだろ?」
「はい、まあ」
石神さんが言っていることは分かる。
「とにかく、風花に謝して、禮がしたいんだろう。好きにさせてやれよ」
「そうですか」
「時々家の中にれてやれよ。何か甘いでも喰わせてやれ」
「いいんですか!」
「いいよ。悪い人間じゃないのは分かった。俺が許可する」
「分かりました!」
「おい、前に言ったよな。味いは相手を喜ばすんだって」
「はい! 覚えてます!」
「そうか。じゃあ、また何かあったら言ってくれな!」
「はい! ありがとうございました!」
やっぱり石神さんに相談して良かった。
何か心の中の霧が晴れた気がした。
翌週の水曜日。
前にお姉ちゃんから聞いた「グラマシー・ニューヨーク」で杏仁豆腐を買った。
梅田阪急にもっていたので、よく野薔薇ちゃんとも食べている。
私は三つ買って俊雄君を待っていた。
「風花ちゃん、來ましたよ」
「そう!」
私は玄関を出て、門に走った。
俊雄君が私に振り返った。
今日も通りを見ていた。
「俊雄君!」
「すいません!」
「ねぇ、中へって」
「え?」
「ほら!」
門脇の通用口を開けて、俊雄君を中へれた。
「あ、あの……」
「來て! 味しいを買って來たの」
「え、僕は……」
「いいから!」
手を引いて玄関へ連れて行った。
最初に會った時よりも、がついている。
良かった、ちゃんと食べているんだ。
1階のホールを、俊雄君は驚いて見ながら歩いた。
エレベーターで上に上がって、ホールに面した回廊のテーブルに座らせた。
野薔薇ちゃんと一緒に、杏仁豆腐と紅茶を持って行った。
「これ食べてみて! 味しいから!」
「あの、僕は……」
「いいから遠慮しないで!」
俊雄君は小さな聲で「いただきます」と言った。
一口杏仁豆腐を口にれて、びっくりした顔をした。
「ね! 味しいよね!」
「はい!」
「私も野薔薇ちゃんも大好きなの」
「はい!」
俊雄君はどんどん食べてくれた。
私も野薔薇ちゃんも一緒に笑顔で食べる。
俊雄君の紅茶に、砂糖とミルクを沢山れてあげた。
紅茶を飲みながら話した。
「あのさ、俊雄君はどうしていつも門の前に立っているの?」
「……」
「あんまり話したくないのかな?」
「すいません。僕は何にも出來なくて」
「ん?」
「あの! すいませんが、これからもあそこにいてもいいですか!」
俊雄君が大きな聲で言った。
「うん。それは構わないんだけど」
「ありがとうございます!」
「でも……まあ、いいや。でも、あそこにいてもいいから、時々私がったら、中にって一緒にお茶を飲んでくれるかな?」
「はい! いいんですか?」
「うん。ここはね、ちょっと特別な場所なの。だからこれまでなかなかえなくてごめんね?」
「いいです! そういうの、聞いてますから!」
「え、そうなんだ?」
よく分からなかったが、これからは俊雄君も中にれてあげられる。
そのうちに、訳も話してくれるだろう。
俊雄君は「ごちそうさまでした」と言い、またしばらく門の前に立ってから帰って行った。
それ以降、門の前で俊雄君を見つけると、中にれて一緒にお茶を飲んだ。
最初は遠慮していたが、そのうちに慣れてくれ、笑顔でって來るようになった。
新しい生活のことも、しずつ話してくれるようになり、今は祖父さんと祖母さんと一緒に幸せに暮らしているようだ。
石神さんが野薔薇ちゃんを護衛に付けてくれるようになってしばらく後。
こちらにも時々妖魔の攻撃が來るようになった。
野薔薇ちゃんに言わせると、こちらの防衛システムを推し量っているようだとのことだった。
「あくまでも主様への攻撃がメインですから、こちらは小手調べ以下ですね」
「そうなの。でも、野薔薇ちゃんがいるから安心ね」
「はい! 風花ちゃんは絶対に守りますよ!」
「よろしくね!」
ほとんどは野薔薇ちゃんが斃しているらしい。
防衛システムがくことも稀だそうだ。
それに、多くの場合はこの家の周辺まで來て引き返していると野薔薇ちゃんが言っていた。
「れば死にますからね」
「なるほど!」
私も安心していた。
9月中旬の水曜日。
また俊雄君が來ていたので、中にってもらって一緒にアイスミルクティーを飲んだ。
し話をしてから、俊雄君が帰った。
しばらく門の前でまた立っていたようだ。
「風花さん! 逃げて!」
突然、俊雄君のび聲が聞こえた。
慌てて門の方を見ると、俊雄君が倒れていた。
すぐにベランダから飛んで行った。
野薔薇ちゃんも一緒だ。
「俊雄君!」
俊雄君の服のが裂かれ、が出ている。
「風花さん! 逃げて! 來た!」
野薔薇ちゃんが消えた。
すぐに戻って來る。
多分、俊雄君を襲った妖魔を斃して來たのだろう。
私は救急車を呼んだ。
一緒に病院まで付き添った。
命に別狀は無さそうだった。
俊雄君の傷は、を30センチも斬られていた。
幸い臓には屆いておらす、傷口をうだけで済んだ。
ただ、大きな傷なので數日は院だ。
「俊雄君、大丈夫?」
「はい!」
「うちの周辺は危ないの。だから、もうあそこに立っているのはやめてね」
もっと早くそうするべきだった。
自分の甘さが許せなかった。
「はい。危ないと思っていたので、あそこにいたんです」
「え?」
俊雄君が思いがけないことを言った。
「禮を言いに來た時に、良くないものがいたのを見たんです。だから僕が見張ろうと」
「なんなの! どういうことなの?」
「刑事さんからも聞いたんです。僕を助けてくれた風花さんは、大阪を危険な敵から守ってくれるありがたい人なんだって。本當にそうだった。だから僕も風花さんを護ろうって」
「なんで俊雄君が! 危ないじゃないの!」
「僕、普通の人が見えないものが見えるんです。風花さんの家には時々良くないものが來てるって分かったから。風花さんみたいに綺麗で優しい人を護らなきゃって」
俊雄君が、こんなに小さな俊雄君が、私を命懸けで守ろうとしていた。
ショックをけた。
「なんでよ! 私は俊雄君になんにもしてないのに!」
俊雄君はしばらく黙っていた。
泣き出した私を見ていた。
「僕を車から抱き締めて助けてくれました」
「あんなの! 私はあんなこと何でもないの!」
「はい、知ってます。風花さんは大阪を護れるくらい強い人だから。でも、あの時お母さんに抱き締められた気がした……」
「え?」
「昔、優しかった頃のお母さんが僕を抱き締めてくれた。それを思い出したんです」
「俊雄君……」
「嬉しかった。お母さんはあんなになっちゃったけど、僕を抱き締めてくれたんですよ」
「俊雄君!」
ますます涙が出た。
小學四年生の俊雄君が、どんなに悲しかったのかを思った。
大好きだったお母さんに酷いことをされ、それでも離れることが出來ずに苦しんでいた。
死のうとまで思ったその時に、俊雄君はそんなことを考えていた。
泣いて俊雄君を抱き締めた。
俊雄君の気持ちを知って、わんわん泣いた。
俊雄君は私の腕の中で靜かに泣いていた。
俊雄君は今もよくうちに來る。
でも、もう門の前に立たせてはいない。
うちの庭で「絶怒」の人たちと一緒に「花岡」の訓練をしている。
「絶怒」のみなさんに、俊雄君のことを話した。
みんな、絶対に強くしてやると言ってくれた。
俊雄君を大好きな人たちが増えた。
俊雄君が笑顔で庭にいる。
嬉しそうに笑っている。
お悩み相談部!
たまに來る相談者の悩み相談に乗り、その解決や手助けをするのが主な活動のお悩み相談部。そこに在籍している俺、|在原《ありはら》は今日も部室の連中と何気ないことを話し合ったり、一緒に紅茶を飲んだりしながら、なに変わらぬ代わり映えのない日常を過ごすはずだった……。 だが、生徒會から舞い込んだ一つの相談がそんな俺の日常を小説のような青春ラブコメへと変貌させる。 ●キャラクター紹介 |在原《ありはら》、今作の主人公。言葉は少しばかり強めだが、仲間思いのいい奴。でも、本人はそれを認めようとはしない。 |晝間夜《ひかんや》、在原の後輩でことあるごとに在原をこき使おうとする。でも、そんな意地悪な表裏にあるのは密かな戀心? 本人はまだ、それに気付いていない。 本編では語られていないが、在原にお弁當のおかずをご馳走したこともある。 |緋野靜流《ひのしずる》、在原の同級生。面倒見がよくいつも部室では紅茶を注いでいる。みんなからは密かに紅茶係に任命されている。 家はお金持ちだとか……。 |姫熊夢和《ひめぐまゆあ》、三年生。いつも優しそうにしているが、怒るとじつは怖い。 學內では高嶺の花らしく彼氏はいないらしい。みんなから愛されている分愛されるより愛したいタイプ。 じつはちょっと胸がコンプレックス。 |海道義明《かいどうよしあき》、在原の中學からの幼馴染。この中では唯一の彼女持ちだが、その彼女からは殘念イケメンと稱されている。仲間とつるむことを何よりの楽しみとしている。どちらかもいうとM。 |雙葉若菜《ふたばわかな》、海道と同じく在原とは幼馴染。在原のことを母親のように心配している。本人は身長なことを気にしているが、胸はどうでもいいらしい。じつは彼氏がいるとかいないとか……。
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8 963分小説
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