《7 Start》
信仰
高垣花蓮たかがきかれん
…
…20時03分
初バイトを終えた私は、家に帰宅した
家には母や姉の姿はなく
凄く靜かにじる
姉に今日のバイトの事を報告しようと思っていたのだが
何処かに出かけているようだ
調はもう良くなったのだろうか?
そんな事を考えながら、冷蔵庫からミネラルウォーターを一本取り出した
母は多分、アレだろうな…
私はミネラルウォーターを一口ひとくち飲んでから、ため息をついた
うちの母は、時折家から居なくなり
何処かに出かけている
私達がそれについて尋ねても、母はしっかりとは答えてくれない
いつも怪しげな笑顔を浮かべながら話を別のに逸らそうとするのだ
家族に隠れて浮気をしてるのではないかと疑った私達は
前に一度、母が寢ている隙を見計らって、攜帯の中を調べた事があった
しかし攜帯の中からは浮気の証拠らしきは見つからず、怪しげな迷メールが見つかるだけだった
母は普段アホなフリをしているが実は警戒心が強いのかもしれないと勘繰った私達は、母の攜帯のGPSじーぴーえす機能をオンにして、一度だけ尾行をした事がある
GPSじーぴーえすの點滅が示していた場所は
なんの変哲もないコンクリートの一軒家で
私達はついに浮気相手の住所を特定したと焦ったりもした
私達は証拠を押さえる為に、近くの木のに隠れながら雙眼鏡なんかで中の様子を伺ったりもしたけど
外から覗くのは難易度が高くて、すぐに諦めた
その後なんとか報を探れないかと
姉とあれこれ考えていたが
母が昔から書いていた日記の事を思い出して
夜中よなかに二人でこっそりと日記を読んだりもした
日記の中には、知らない子供達の面倒を見た事や、世界勢について真剣に書かれたものや、凄く象的なポエムみたいなものが書かれていたりした
私達は浮気どころか別の家族が存在するのではないかと、當時は戦々恐々としたものだが、今となってはだいたいの推測は出來ている
母の日記を細かく読んでいくと
所々で「蘭子様」と言う名前や
「ヘブンリターン」などの謎の文字が見つかった
「蘭子様」が何者なのかインターネットで検索をかけたが、アニメだか漫畫だかのキャラが沢山ヒットしたせいで、全く誰なのか分からなかった
「ヘブンリターン」もアニメか何かの用語だろうかと思ったが、ダメ元で検索をかけると、とある宗教団がヒットした
宗教団の名前は「天獄幸福生命教會」
活拠點カツドウキョテンは不明、信者の數も不明、活容も不明で外部からは実態の摑めない組織だ
もちろん公式ホームページなどは存在しない
「真実の報を載せると削除されるけど、これだけは伝えたい!」って趣旨のブログやら「世界が今危ない!みんな騙されてるよ!」等などと個人が発信しているSNSを見かけたが
そのほとんどが「詳細を知りたい方はコチラから登録してください」とクローズドな報に導するものだった
インターネット掲示板の書き込みでは「信者が食いにされてる」だとか「怪しいを売りつけてくる」だとか「X教と違って素晴らしい組織」だとか「みんなでヘブンリターン!」等など様々な書き込みがされている
インターネットはとてもカオスな狀況で何を參考にしたら良いのか、もはや分からない
私達は母のカバンにボイスレコーダーを忍ばせて、狀況を探った
何も知らない呑気な母の目を盜んで
カバンからボイスレコーダーを回収した私達は
SDカードでパソコンにデータを読み込んでから
編集ソフトを使い
ひたすらボリュームを上げまくった
ボワボワとした雑音の中で
母達の會話をなんとか聞き取る事が出來た私達は
この宗教団の活容を、ある程度把握する事に功したのだ
音聲の容から察するに
活容はとても平和的だ
信者達で集まって雑談をしたり、歌を歌ったりしている
朝は決まったルールが存在しているのか、皆みなが聲を揃えて、何か訳の分からない言葉を口にすると言う時間がある
その言葉が終わると、しばらくは無音になるのだが15分後には必ず皆みんなの聲が戻ってくる
これは推測だが、15分間はお祈りか瞑想のようなものでもしているのかもしれない
教壇があるのかビデオなのかは分からないが
たまに講義が開かれているようで
宗教の歴史について喋っていたり、神論を説いていたりする
母は信者の子供達の面倒を見る事が多いようで、子供達と楽しそうにお喋りをしたり、何かのゲームで遊んでるような聲が頻繁に聞こえる
信者同士のシリアスな會話が録音される日もあって
なかなか興味深い
「信仰心が薄くなった人は、悪に染まってるから、助けてあげないと」とか「蘭子様を喜ばせる為に皆みんなで頑張ろう」とか「優良支部は聖地のパーティーに參加できる」とか「今息子が問題を抱えていて」など、様々な報を知る事が出來た
音聲を聞く限りでは、そんなに悪い組織だとは思えないが
実際の所どうなのかはハッキリと分からない
支部と言う言葉から察するに
母が通ってかよっているコンクリートの一軒家も
組織の中の一部にすぎないのだろう
団を立ち上げたのだから、そこには多かれなかれ
目的が存在しているはずだ
世界平和の為、個人救済の為と言えば聞こえは良いが
上うえには別の目的があるようにじてならない
信者達は純粋な気持ちで信仰をしているのだろうが
上の者達は違うのではないか?
蘭子様とか言う存在も
話を聞いてる限りでは、胡散臭いとじる
蘭子様は謀論で人々を扇してから
何をしようと企んでいるのだろう?
聖地でのパーティーってなんだろう?
そもそも優良支部とは言うが、何をどうしたら評価が上がるシステムなんだ?
私は真剣に考えていたが
頭を左右に振って思考を飛ばした
謀論を疑う事も、また新たな謀論だ
ミイラ取りがミイラになるとは
まさにこの事ではないか
母の事は心配ではあるが
今は気にしても仕方がないだろう
引き続き報ジョウホウ収集を続けようと、心に決めてから、自室へと向かった
20時27分
部屋に置いてあるデスクトップ型パソコンの電源をれてから、空いてあいているポートにUSBメモリを挿した
USBメモリの中には、數件のフォルダがあり「防犯カメラキャプチャ」と書かれたフォルダの他に
「daizi」やら
「111111」など
適當な名前のフォルダが並んでいた
私はし気になったので「daizi」と書かれたフォルダを開いてみた
すると中には
見てはいけないであろう畫像や、畫などが大量にっていた…
なによこれ?
あの店長…花も恥じらう子高生相手に
なんてUSBを渡してるのよ?
多分セクハラで訴えたら勝てるかもしれない
と言うかトユウカこんなUSBを職場に持ってくるのは、社會人としてどうかと思うわ
私が興味本位で畫を再生すると、そこには恐ろしい世界が広がっていた
私はしばらく鑑賞してから、畫ファイルをそっと閉じた
あのような店長が居るコンビニで、本當に大丈夫なの?
姉の今後が急に心配になってきた
まぁ姉とれ替わってバイトをしたり、客の顔を特定する為に防犯カメラの映像を貰っている私も、結構悪質ではあるのだけど
とりあえずコレは見なかった事にしておこうと「daizi」フォルダから「防犯カメラキャプチャ」のフォルダに移する
キャプチャされたMP4の畫ファイルを
デスクトップにコピーしてから
USBを抜いた
畫ファイルを再生した私は盜撮魔の顔が比較的見えやすいタイミングで畫を止めてから
スクリーショットで彼が映ってる部分を切り取り
畫像を保存した
私はブラウザを立ち上げてから「類似畫像検索エンジン」で検索をかけた
お目當てのページがすぐに表示されたので
迷わずにアクセスする
このサイトは送った畫像を認識してから、インターネットの海に、類似畫像が存在しているかどうかを調べてくれると言う、とても便利なサービスだ
これを使えば、この男に似た人の畫像を表示できるし、上手くいけばSNSのアカウントなんかにも辿り著けるかもしれない
早速畫像を送ってみたが、検索結果は芳しくない
やっぱり畫像が荒すぎるの?
引っかかる畫像はどれもこれも微妙で
私はため息をついた
他の畫像検索エンジンはないかと
インターネットで調べていたが良さそうなものが見つからない
私はだんだんとイライラしてきた
なんで盜撮された側である被害者の私が
盜撮魔を探す為にこんなに必死に時間を使っているのか
去り際に見せた盜撮魔の笑顔を思い出すと
むかっ腹ぱらが立ってきた
必死に検索をしていると
一つのSNSアカウントが目に止まった
プロフィールの自己紹介文には「會社員」と言う文字だけが書かれている
過去の投稿で「類似畫像検索アプリケーションの度をまた上げてしまった…」と
書いてあったので
このワードが検索に引っかかったのだろう
會社員と書いているが、この人はITエンジニアか何かだろうか?だとしたら
そのアプリケーションを使わせてもらえたら、このクソ盜撮魔を特定出來るかも?
ただ見知らぬ人が急に話しかけて協力をしてもらえるだろうか?
多分難しいだろう、何処の誰とも分からない人にお願いをされて、簡単に引きけてくれるはずがない
私は開いていたSNSのページを閉じようとして、ある事に気づいた
この人よく見たら…私のSNSと繋がってるじゃない!
SNSで繋がってると言う事は
お願いしたらもしかしたらやってくれるかもしれない?
とりあえず話だけでも聞いてもらおうと、私は勢いに任せてメッセージを送った
22時09分
姉の花鈴かりんが帰宅してきた
「ただいま〜」
元気の良さそうな姉の姿を見た私は、聲をかける
「おかえりー、調は良くなったの?」
すると姉は両方の手でガッツポーズをしながら喋る
「良くなったよ〜!いや〜これも花蓮かれんちゃんのおかげですね?」
「そう、それは良かったわね、所で何処に出かけてたのよ?」私が訪ねると姉は一瞬ジャーキングみたいにビクッとしてから答える
「アハハ〜、ちょっと栄養補給をね〜」
「ふーん」
なんだか怪しい
私が疑いの眼差しを向けていると
姉は何かを思い出したように喋り出した
「そうそう、そう言えばさっき直子ちゃんに會ったよ〜」
私はその名前を聞いて一瞬取りしそうになったが平靜を裝いながら喋る
「そうなんだ?なんか言ってた?」
「花蓮かれんと喧嘩した〜ってさ」
「そう」
「何があったのよ?」
「お姉ちゃんには関係ないわ」
「なによそれー、心配してあげてるのに、直子ちゃん反省してるみたいだったよ?」
「そう」
私が素気そっけなく答えると姉は更に追撃してきた
「直子ちゃん良いいい子じゃない?素直でまっすぐだし〜」
「そんな事知ってるわよ」
そう、姉に言われずとも、直子ちゃんの良いいい所ぐらい私はちゃんと把握していた
ただ直子ちゃんが良いいい人であっても
今までどれだけ一緒に楽しい時間を共有してきたとしても
世の中には言って良いいい事と悪い事があるのだ
それがたとえ正論だったとしても、人には踏み込んではいけない領域がある
宗教や詐欺に騙される母を私はしょうがないとじているし、悪く言えば諦めてもいる
ただ直子ちゃんはその事に対してこう言ったのだ
「父親が必死に稼いだお金かねを使って、何回も騙されてるのは、ちょっとひどいよね」と
言いたい事は分かるし、學習しない母が悪いのは事実だし、私が頻繁に愚癡ってたからそう言ってしまうのも理解はできる
この言葉に導してしまったのはある意味私だ
それでも
私は我慢が出來なかった
「直子ちゃんに私の母の何が分かるの?」と強めに言ってしまったのだ
そしたら直子ちゃんは
「いつも話聞かせてもらってるから分かるよ」と返してきた
お互い的になっていたから
聲が凄く震えてたのを今でも覚えてる
私は怒って「直子ちゃんには分からないよ!私の母は良いいい親なの!」とんでいた
そんな私を見た直子ちゃんは、顔を俯かせながら小聲で喋ってた
「いつも私に愚癡ってくるのは花蓮かれんちゃんじゃない?…ずるいよ…家に帰ったらお母さんがいるのにさ…なんで私が…ほんとずるい…花蓮かれんちゃんはお母さんの愚癡ばっかり言ってるのにさ…私なんて顔すら分からないのに…」
そこまで言ってから、直子ちゃんは私の前から走り去った
あれは本當に良くなかった
私は母の事を散々さんざん愚癡っていたが
それを他人に言われるのは本當に嫌だったのだ
直子ちゃんの立場からしたら、逆ギレもいいとこだ
本當に筋が通っていなかったと思う
反省するべきなのは私自じしんなのだ
ただ、どうしても引っかかりは取れない
直子ちゃんが母を侮辱した原因が
私にあったとしても
それでも、あの時の直子ちゃんの発言を許せないでいる
だから私達は和解ができない、和解しようと歩み寄っても
心の何処かでは
「あの時、ああ言ってた」と言う思いが、湧き出してしまうだろう
そんな思いを抱えながら友達の顔をするのは嫌だし、直子ちゃんにも失禮と言うものだろう
吐いた言葉は戻らない
溢れたも、水と同じで盆に戻ることはないのだ
言葉には責任が伴う、正しい事と、好き嫌いは別にある
私が真剣な顔をしてたのが気に食わなかったのか
姉が、突然をんできた
私はキレ気味で喋る
「ちょっと何してんのよ?」
「いや〜、のを探りたくて〜」
私は姉にゲンコツを浴びせた
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