《【書籍化】俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」》番外編 新米ギルマス闘記
【★おしらせ】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
天與の原石をついだ、アクトの娘ヘンリエッタ。
彼は屋敷を出て、ギルド會館へと向かう。
「あ、ギルマスー! おはようございます!」
「うむ、ニィナよ。おはよう」
新米付嬢、ニィナ・インヴォーク。このギルドに所屬する、Sランク冒険者の妹……。
であるのだが、本人はそのことを知らない。
明るい笑顔。満なから、ギルメン達の人気は高い。
(あたしもこれくらいバインボインな大人のレディだったら、なめられないだろうか……)
「どうしたんですかギルマス?」
ニィナはきょとんと首をかしげる。
「なんでもない。【キルト】のやつはどこじゃ?」
「お兄ちゃんは有給取って……あ、お兄ちゃん!」
振り返ると、そこにはぬぼーっとした表の、黒髪の男が立っていた。
彼の名前はキルト・インヴォーク。
この天與の原石で働く、ギルド職員だ。
「……ニィナ。はよ。早いね」
ぼそぼそと話すキルト。……まさか彼が、Sランク冒険者の正であるとは、ニィナを含めてギルメン達は知らない。
「キルトよ。ちょっとよいかの? 打ち合わせしたいことがあるのじゃが」
彼には、彼にしか任せられない仕事がある。
その話をしたかった。しかし……。
「……いや、です」
「なにぃ!?」
「……まだ、始業時間前……だから」
たしかに、そうだ。ギルドがまだ開いてない時間帯である。
いやでも、早く來てるならいいではないか。
「……時間外で仕事、したくない」
「ふぬぅうう……」
泣きそう。なんでこうも、Sランク冒険者は、変な奴らばかりなのだろうか。
ヘンリエッタはへこたれそうだった。表には出さないが、結構打たれ弱いのである。
「もー! お兄ちゃん! けちけちしない!」
妹のニィナがぷんすか怒って兄の肩を叩く。
「まだ始業前っていったって、もうあと15分で開店でしょ? いいじゃないの、15分くらい」
「……わかった。ニィナが、そいうなら」
ほっ、と心で安堵の息をつくヘンリエッタ。もう一回お願いして、また斷られたらギャン泣きしたところだった。
「では、キルトよ。ついてまいれ」
「……はい」
ニィナに心の中で謝しながら、ヘンリエッタはキルトを連れてギルマスの部屋へ。
テーブルの前に座ると、うぉっほん、と咳払いをする。
「キルト・インヴォーク。……いや、黒銀の召喚士よ」
この天與の原石には、現在數名のSランク冒険者がいる。
その中のひとりが、このキルトだった。普段はギルド職員、しかしその実態は、Sランク冒険者という、二つの顔を持つ男。
「実は隣國で、魔族の殘黨が騒ぎを起こしてるらしい。そこで、黒銀よ。そこへ行き、トラブルを解決してくるのじゃ!」
きまった。父のように、かっこよくできただろう。
しかし……。
「……いやです」
「んなぁ!? い、いやぁ! な、なんで!?」
思わず素が出てしまうヘンリエッタ。そんな彼にキルトが答える。
「……出張なんてしたら、ニィナ……ひとりになっちゃう。だから、いやです」
この黒銀の召喚士とうやつは、重度のブラコンだ。
妹との時間を何よりも大切にしてる。
それゆえ、彼は殘業をいっさいしない。また、出張もしてくれない。
妹と會えなくなるから。
「た、頼むよキルトぉ。エリアルもリーフも、今出払ってて、おぬしにしか頼めないのじゃよ~」
エリアルもリーフも、ともにSランク冒険者だ。
どちらも桁違いに強いものの、どちらもが現在別の任務にいってる。
「……いやです」
「そんなぁ~……」
「……できないなら、斷れば?」
「無理じゃ。ここは世界最高の冒険者ギルド、天與の原石。不可能な仕事もすぱーん! と解決するちょーすごいギルドってメンツを……あ、待って! キルト! お願い待ってよぉう!」
ヘンリエッタはキルトの足にしがみつく。
周りに人がいないため、ヘンリエッタは素を出してしまう。
特にこの黒銀は、正を隠してる+寡黙な男(というか他者に興味ない)ため、彼に対してはとりつくろわないのだ。
「おねがいじゃ! たのむ! 手當はたんまり出すから! ね!」
「…………手當」
よし! 彼の中で揺れている。お金がれば、その分妹を喜ばせられるぞ、と。
「そうじゃ! どうだ!」
「……わかりました」
よっしゃ! とヘンリエッタは心のなかでガッツポーズを取る。
「では詳細はこれじゃ」
スクロールをキルトに手渡す。
そのときだ。
「ギルマス~。お茶をお持ちしました……って、ああー! 黒銀の召喚士さん!」
部屋にってきたのはニィナだった。
彼がってくるのを察知したキルトは、一瞬で、黒いコートに、銀の仮面をにつけたのだ。
こんな人間離れした早業ができるのも、彼に特別な力があるからこそ。
「ひさしぶりですね、黒銀さん。どうしたんですか?」
「……仕事」
「そうなんですね! がんばってくださーい!」
ぶんぶんぶん! とニィナが手を振る。その目には、憧れのがありありと浮かんでいる。
何を隠そうニィナは、黒銀のファンなのだ。……それが実は、実の兄であることを、ニィナは知らない。
「黒銀さんどこいったんですか?」
「隣國じゃ」
「へー! あの人海外出張全部斷ってるのに、よく引きけてもらえましたね」
「ふふ、まあほかでもない、ギルマスであるわしの頼みじゃからな」
「わー! すごい。でもほんと、なんで黒銀さん、出張斷るんだろ」
まあ海外出張斷ってるの、君がここにいるからだよ、という言葉は飲み込む。
まあ、いろいろ苦労はあるけれども、ヘンリエッタは頑張っているのだった。
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