《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》駆け引きポイント
軌道エレベーターから打ち上がり、宇宙を突き進む【ターミガン】。
「すでに【塔】は放たれていますね。バルバロイもさぞ驚愕したでしょう。稼働していたら、ですがね」
軌道エレベーターを上昇中に、資材搬ステーションが二つとも存在しないことを確認したアベルは満足げだ。
材質生こそソピアーだが、噴ロケットはかのテュポーンが設計してアシアに託されたもの。クーゲルブリッツエンジンを搭載している資材搬ステーションは無限ともいえる電力を供給可能だ。
現行技で製造可能な超々プラズマスラスターともいうべき推進ロケットは、パンジャンドラム同様無數に裝備してある。いかなる速度域でも軌道変更も可能であった。
「コウのいる宙域までどれぐらいだ」
ヴォイが苛立ちを隠さず確認する。一刻も早く到著したい。
「我々が出されて二時間経過しました。赤矮星ネメシスの重力圏を突っ切ってブリタニオンまで直進します。殘り一時間ももかからないでしょう」
「速度がないなあ。最大秒速何キロだ」
戦闘機乗りであるハイノが不安になる。加圧がまったくなく、蒼暗い宇宙を漂っているのだ。
「宇宙になってGがかからなくなった狀態で、アシアがレールガンランチャーの電力を最大出力にしてターミガンを打ち上げましたからね。初速の時點で秒速100キロ超え。加えて金屬水素を最大限に加速していますのて秒速200キロを超えています」
「地表ならミンチだな……」
「アシアが超AIだって今更ながら実したぜ」
人間ののようにか弱く、護らねばならないと思わせる超AIアシアだが、【星】といいターミガン出といい、やはり権能が超越している。
しかしそれはコウを守るために発揮されているのだ。
「所詮マスドライバーシステムは作業用。心優しい神アシアが応用可能な範囲です。日常の平和を守る神をモチーフにしたヘスティアはなおさら戦闘力を持つことはないでしょう」
厳しい分析をするアベル。リュビアも同様だ。
「しかし超AIエウロパは違います。ミノスの雄牛に拐された彼は様々なギフトがありました。その名をモチーフにした彼もゼウスにされた。アルゴスがアシアにあって今なお稼働さえすれば、ストーンズの侵攻など容易く蹴散らせたかもしれない。――いかに三星は不公平であるか、今なら私にもわかります。だからこそ、アシアもヘスティアも守らねばならないのです」
「コウもな!」
「もちろんですとも。これ以上の加速は宙域を飛び越える危険があります。これが限界ですね」
一秒で200キロ移するのだ。減速の加減も並大抵ではない。
『私がやるよ』
アシアが三人それぞれのMCSの畫面に出現した。
「お願いします。アシア」
『あなたたちがもっとも危険な任務なのです。當然です。ですが宙域での行はあなたたちの判斷に委ねることになります』
「ええ。當然そうなりましょう!」
不敵に笑うアベルに、苦笑するアシア。
『あなたたちを信頼しないわけではありません。しかし萬が一に備えて、第二第三の手は打ちます』
申し訳なさそうに告げるアシアに笑い返すアベル。
「當然です。そうでなければいけません」
「そうだぜ! 功率が高いとはいえない任務なんだ。保険の一つもあれば俺たちも安心できるって」
ハイノもアベルに同調し、ヴォイも頷く。それこそ無問題というものだ。
『三人とも。ありがとう』
狀況はいまだ切迫している。肝心のヘスティアが――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「希者が多すぎだ!」
アリステイデス艦長のロバートがぼやく。現在はR001要塞エリアの港にいる。宇宙に上がるためには赤道直下が最善だからだ。
第二の策。それは宇宙強襲揚陸艦アリステイデスで現地に向かう。
本來なら巨大艦であり出力が大きいアリステイデスが有利なのだが、アルゴスの程はほぼ無限ともいえる。宇宙にでた瞬間即座に撃破されかねないのだ。
「アルゴスは封じたんだろう? 俺たちも出たいんだ。アシア!」
焦燥を募らせているものはロバートだけではない。命の保証はないという條件で募集したクルーは創造意識はもとより、人間たちからも殺到している。
仕方ないので有力候補はアストライアが絞ることになった。選別作業をアシアにやらせるわけにはいかないのだ。
『敵シルエットの當たりだけでアリステイデスは破壊されます。多くの死傷者を出すわけにはいきません。それでも――アベルたちに萬が一が起きた場合、あなたたちに賭けるしかない。そんな狀況です』
「むところだ」
この役割はロバートしか不可能だ。彼を除いて宇宙艦での戦闘経験があるものはトライレームにはいない。
ホーラ級やキモン級では艦が大きすぎる。小回りが利くアリステイデスこそが可能な任務なのだ。
『その時は必ず貴方に聲をかけます。どうか信じて見守っていて』
「わかったよ。アシア。こちらこそ済まない」
コウを救出したい気持ちはアシアも同様だろう。
「総員に告ぐ。いざとなったら宇宙へ出る。各戦闘機、シルエット。宇宙戦を想定し準備せよ!」
R001要塞エリアの工廠から急造された宇宙戦用裝備が続々と搬される。
彼らもまた時間との闘いだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まだか!」
どう足掻いても聖櫃を開けることができないアレクサンドロスⅠが耐えきれずに絶した。
「機械のくせに時間覚がありすぎるよ。あなた。いいえ? 機械ゆえですかね」
呆れたように溜息をついてみせるヘスティア。
「二時間経過したはずだ!」
「ルールが決まったわ。オリンピックらしく短距離走と格闘技でいきましょうか」
ヘスティアがアレクサンドロスⅠににっこりと笑い返して提案する。
「短距離走?」
「聖櫃をそこの三機と一緒に宇宙に放り出す。あなたは三分待機。その後は好きにしなさい。追って聖櫃を奪えばいい。三機はあなたを妨害する。能差がありすぎると賭けにならないからね。彼らがブリタニオンに中を持ち帰ったらあなたの負け。ルールはなんでもあり、ですよ。妨害する三人を撃ち殺してもいいし、斬り殺してもいい」
「良かろう。そんな簡単なルールならば最初からそういえ!」
アレクサンドロスⅠが憤慨した。始まるから結果がわかっている。
「ただし!」
「ん?」
「構築技士にしか聖櫃は解放できない。あなたもヘルメスから聞いた事はあるでしょう? 彼らはオデュッセウス――構築技士。アシア側にいる構築技士のみ、聖櫃の封印を解けることが可能なのです」
「なんだと?」
顔が引き締まる三人。バルドは兵衛と視線を合わせ首を振る。
ヘスティアは噓をついていない。コウならおそらく聖櫃の復號も可能だ。バルドはコウと対決して敗れアシア解放が為された。兵衛はコウと一緒にR001要塞エリアのアシア救出を行っている。
構築技士のみあの封印は解ける。――ヘスティアは噓をついてはいない。
「恐ろしいだぜ」
バルドが聞こえないような小聲でヘスティアを評する。
明らかにこのアレクサンドロスⅠは會話や駆け引きが不得手だ。疑問が生じたらすぐに問いただし、正解を教えろとわめき立てる。
つまり疑問が解消されないという事態に直面したことがないのだ。人間だった以前なら思考しただろう。しかしバルバロイ同士ならすぐさま誰かからの回答がある。一種のクラウドと集合知の融合狀態だったとみていい。
「何故アシア勢力の構築技士限定なのだ!」
構築技士ならストーンズ側の半神半人がいる。アレクサンドロスⅠにとっては理不盡で不可解な條件だ。
「馬鹿ね。しは自分で考えなさい。アシアが管理していたからに決まっているじゃない。ストーンズ勢力なんか、今の中にとっては敵よ」
噓は言っていないヘスティア。説明が足りないだけだ。
――ヘルメスに解析されたアシアが作った中ならば、あの子はストーンズ側の構築技士は拒否するかもしれない。
コウがヘスティアの先を読む。いつの間にアシアの報を手にれたのか。明らかに二人は報を共有している。
そして噓を言わないよう、言葉を駆使して駆け引きをしている。事を知っている人間なら含みに気が付くこともあるだろうが、機械脳のアレクサンドロスⅠは気付いていない。
――手を繋いで宣誓したときか! アシアとヘスティアはあの時同期をした!
彼たちはとにかくバルバロイには理解不可能な手を打ち続けている。
アレクサンドロスⅠでは到底想像がつかないだろう。疑問が生じても応えてくれる同胞はいない。今頃【塔】がアルゴスを襲っているはずだ。
「ここが駆け引きポイントね。復號を諦めて後生大事に箱に過ぎない聖櫃だけを持って帰るか。彼らに封印解除をさせて中を奪還するか。――好きな方を選びなさい。彼らが聖櫃の中を持ち帰って勝利した場合、聖域への侵は許さない。諦めてアルゴスなりエウロパになりとっとと帰りなさい」
「よかろう。俺にとっても都合がいい」
アレクサンドロスⅠでは何をどうやっても解除できないのだ。人間が復號可能ならそれに超したことはない。蹴散らして中である制中樞を奪えばいいだけだ。
「中(・・)を持ち帰ればいいのか」
アシアに向けて問うた。
アシアは無言で、ゆっくりと首を縦に振る。
「――わかった」
コウがいつものように薄く微笑んだ。
ヘスティアは中としか言っていない。
その事実がすべてなのだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
バルバロイ、とくにアレクサンドロスⅠは短絡的過ぎないかという想が多かったのですが、ようやく本文に記載できました。
クラウド化による集合知狀態の彼らは疑問があれば誰かが答えてくれるのです。機械脳になったことにより、時間が苦痛にもなっています。
何せ高クロック狀態の脳です。時間はびましたが、覚時間がさらに延びてしまっている狀態で、こらえがありません。半分人間のアレクサンドロスⅠはとくにそうでしょう。
そして小技で戦い続けるアシアとヘスティア。敘述トリックとまではいきませんが、アレクサンドロスⅠにひたすら誤認させる言い回しを行っています。
瞞著(まんちゃく)手段――アイコンタクト、阿吽の呼吸、言葉のマジックすべてを駆使して戦っているのです。これは遠い昔、人間を捨てたバルバロイには判別し辛いのです。
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