《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》アシアの獨り言

『エンプティたちは中央へ。聖櫃と同時に打ち上げます。バルバロイ。あなたは待機よ』

「わかった」

かの【ゴルディアス】の制裝置を手にれるまたとない機會。

ここで下手な真似をするバルバロイではない。その行は合理的ではないからだ。

エンプティという名で呼ばれたコウと五番機は中央の聖櫃に歩み寄り、兵衛のラニウスとバルドのボガティーリ・コロヴァトが続く。

『準備は整いましたね。カウントを開始します。無駄でしょうがカラヌスにはトラクタービームによる拘束をかけさせてもらいます。解除されたら自由です』

ブリタニオンの天蓋が開き、頭上には宇宙が見える。闘技場のある中央空間は無重力狀態となった。

「よかろう」

トラクタービームとはわかりやすい拘束だ。解除された瞬間、即座に行が可能となる。

出!」

聖櫃と三機のシルエットが、凄まじい速度で宇宙空間に打ち出される。

アレクサンドロスⅠはにやりと笑う。この程度なら簡単に追いつける。彼にブリタニオンの補助はないが二分もかからないだろう。

何より彼らには聖櫃を開封してもらわなければならない。慌てて駆けつける必要もないのだ。アシアの力だろうか。三機への傍が遮斷されていることのみが若干の不安材料だ。

「三分しか猶予はないか」

張する三人。この三機のシルエットは地上用だ。宇宙戦仕様ではない。満足に移することも困難だろう。

聖櫃と共に宇宙空間に出された三人にアシアから通信がった。

『兵衛。私の獨り言。聞かなかったことにしてもいい。結び目を解いたら――』

アシアは泣きそうな顔で言いよどんだ。

「なんでえ。改まって。怒らないからはっきいってくれ」

『勝つために。――あなたの命をください』

「おうとも」

意外なアシアの願いに、心底嬉しそうに兵衛が笑う。

『ある意味、死んでといっているのに。何故笑えるの。ヒョウエ』

アシアが訝しんだ。怒ってもいいはずだ。

「十年以上の付き合いじゃねえか。コウ君のためじゃねえ。勝つためってのが、俺のことをよくわかってくれていると思ってな。そりゃ嬉しくなるってもんよ。結月が使ったあれのことだな」

『うん……』

兵衛にとってアシアの願いは清々しくさえあった。

勝つために。――二天一流が最も重視する価値観。

『ヘスティアもあなたたち同様、困難に挑む。極めて功率が低い挑戦よ。功しても失敗してもヘスティアは消滅する可能が高い、魂を代償にした賭け。功したらネメシス星系全域に恩恵が生じるし、ヒョウエは死なずに済むかも知れない。何も起こらず失敗したら必ず死ぬ。そんな試練なの』

「ヘスティアまで命賭けって事かよ。そうかそうか。かの大神がそこまでするってことはよっぽどの事なんだな」

超AIまでが魂を賭して挑もうとしているアナザーレベル・シルエットに対し、己の命十秒で挑めること自、譽れであると思う兵衛だ。

『そう』

「何をいっているんだ! アシア! 兵衛さんもやめてください!」

相を変えて、アシアに問い詰めるコウ。結月の死因――プロメテウスの火。

「言うな。コウ君。これは俺と嬢ちゃんの話だ。おめえさんが口を出すことじゃねえ。あいつに勝つことだけを考えろ!」

最後は一喝ともいうべき怒聲だった。兵衛としてもこればかりは譲るわけにはいかない。

これ以上ない死に場所は、誰にも譲らないと決めている。

『十秒。時間を稼いで。それでも無理かもしれない。5秒でも。1秒でも。そんな戦いなの。コウ』

「く……」

コウも頭では理解しているのだ。それでもプロメテウスの火は忌という思いが強い。

「プロメテウスの火を発させるだけだ。目標はカラヌスだ」

「ヒョウエ。俺も付き合うわ」

飄々とバルドがうそぶいた。二件目の居酒屋についていくような、気軽さで。

バルドにとってこの重要な局面において、傍観者でいるなど不可能だ。

兵衛はにこやかに笑い返した。ここで止めるということは野暮の極みだ。

「バルド! 何を言って!」

「お前は大事な役目があるだろうが。払いぐらいさせろ」

「コウ君。勝つことだけを考えろ。第一、だ。俺とバルド君だ。アナザーレベルシルエットだって倒せるかもしれねえぞ?」

「そうだそうだ。ヒョウエと俺だぞ? ならあのカラヌスにだって勝てるかもしれねえ」

兵衛とバルドが笑う。

コウは聲が出ない。気休めにもならない。

「結び目を解いて、中をブリタニオンへ持ち帰る――」

自らに言い聞かすかのように繰り返すコウ。

「そうだ。それが勝つためのたった一つの方法さ。――コウ君。俺を敗北させるんじゃねえよ」

「……わかった。二人とも」

これ以上、止めても無駄だった。

むしろ速やかに結び目を解いて中を持ち帰ったほうが、彼らの生存率も上がる。

「しかし……せめて宇宙戦裝備があったなら」

コウが歯噛みする。ラニウスもボガティーリ・コロヴァトも四肢にスラスターがついている分、通常の戦闘用シルエットよりはましではあるのだが、本來は制用だ。宇宙移には限度がある。

『安心してコウ。あと數十秒で彼らがくるわ』

「彼ら?」

『もちろん――もう到著したわね。みんな、追加裝甲をパージして!』

五番機のセンサーが友軍信號を発する飛翔を補足した。追加裝甲をパージする五番機をみて、続く二機。

「え? まさか?」

ありえない識別信號にコウが絶句する。ヴォイにハイノ。――そしてアベルだった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

『減速開始! 追加裝甲の投下制はこちらでやるわ』

「了解しました。間に合ったようですな」

空中に浮かぶ紅い玉。――ややぬるめの紅茶をストローで吸いながらのない聲でアベルが応じた。アイスティーなど邪道である。

「こんな時まで紅茶かよ! ――俺たちはいったん離か」

「ええ。激しい戦闘になるからね。減速でもどのみち戦闘には參加できないし、武裝もないでしょ」

「そうだな。やや歯いが目的の一つは達した」

ハイノとしては戦闘に參加したいところだが、この宇宙往來機は非武裝だ。

そういっている間にラニウス用宇宙戦仕様追加裝甲と汎用型宇宙戦仕様が投下された。

眼下に巨大な立方と三機のシルエットをかろうじて確認できたが、あっという間に通り過ぎた。

「減速してもまだ秒速70キロはありますからねえ。我々は足手まといです。この宙域は離れましょう」

大気がないのでカナード翼による減速も不可能だ。スラスターを逆噴するしかない。

「何が起きているか知らんが、頑張れよコウ」

祈ることしかでないヴォイ。それはアベルも同様だった。

投下されたアナライズ・アーマー仕様の追加裝甲は電磁裝著である。

五番機向けに投下された追加裝甲を即座に裝備するコウ。

「無茶して! アベルさん! ヴォイとハイノも!」

返事はない。あっという間に通り過ぎて通信範囲外だ。到著時間からしても、相當な速度を出していたのだろう。

続けて兵衛のラニウスとボガティーリ・コロヴァトも同様に追加裝甲が裝著された。

「ありがてえ!」

「俺の分まであるのかよ! ――ちと形狀が違うな。汎用型か。ラニウス用でも裝備可能だとは思うが、こればかりはヴァーシャの旦那に聞かないとわからないからな」

その聲を放送で聞いたヴァーシャが青筋を立てる。ラニウスに裝備可能なら、変形機構を省いたボガティーリ・コロヴァトも裝備可能なはずだ。限りなくラニウスをラーニングした機だからだ。

もちろん敵である彼らと仕様共通などばれるわけにはいかないし、追加裝甲の換などもってのほかだ。

軽く嘆息して諦めることにした。完全萬全ではない裝備がボガティーリ・コロヴァトのみ。その狀況が気にらないだけだ。

「金屬水素も満タンだ。これで移の制限はなくなった。――これより聖櫃に向かう」

五番機は聖櫃に狙いを定め、移を開始した。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

アシアもヘスティアも、相當な窮地です。決して言いたくなかった願いを口にしたアシア。兵衛にだけ願ったのも、兵衛のしか頼りにしてはいけないという思いだからです。

しかしあの三人は間に合いました! 英國紳士はいついかなるときでも紅茶です。安でオッケー!

次回、ヘスティアの謀略が発

七巻の表紙も公開です! 今回はCX裝型。ウーティス仕様です!

予約は本日より付で1月27日(金)発売ですよろしくお願いします!

書籍版発行元変更の連絡です。

ネメシス戦域の強襲巨兵の発行元である「インプレスR&D」が「株式會社インプレス」様に吸収合併され、事業はすべて「株式會社インプレス」様に移行します。

レーベルとしては「インプレスNextPublishingいずみノベルズ」へ変更になります。

この変更に伴いまして、POD版がAmazonのみなり、、楽天様honnto様ではいったん中斷。三省堂書店様では取り扱い中止になります。

電子書籍版に変更はないはずです。

セール報です!

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