《【書籍化&コミカライズ】創魔法の再現者 ~『魔法が使えない』と実家を追放された天才年、魔の弟子となり正しい方法で全ての魔法を極めます。貴方の魔法は、こうやって使うんですよ?~》138話 ラプラス
──ラプラスに名前は無い。
より的に言うならば、今の名前は自分でつけたもの。心ついてから母親に『悪魔』と呼ばれ続けていたので、とりあえずその辺の文獻にあった適當な悪魔の名前を自分に當てはめただけのもの。存外響きも気にっているから、それに思うところもない。
そして、家名も無い(・・・・・)。
詰まるところ、彼はこの國の定義における『平民』である。
エルメスのように元々貴族だったが家名を剝奪されたわけでもなく、純粋に生まれた瞬間からどこの家にも屬さない存在。どう足掻いても、この國のシステム上『貴族』と認められることは絶対にない存在だ。
そんな彼が、何故統魔法を持っているのか。
これも理由は単純。彼の父親にあたるだろう人の癖が悪く、手當たり次第に種をばら撒いた結果『手違い』で生まれて來てしまったのが彼というだけ。
當然、そんな人間が真っ當な生活などめるべくもない。
一縷のみを懸けて彼の母親が父親らしい存在が屬する貴族家を訪問したが當たり前のように門前払い。その際にどんなやり取りがあったかまでは知らないが、その後母親が狂ったように自分を嬲っては『お前なんて』とんでいたあたり、恐らく父親ともろくな話し合いはできなかったのだろう。
その母も、劣悪な生活環境に耐えられなかったのか彼が六歳の時に病死。彼は孤獨のまま、王國の中でも最底辺の環境に一人取り殘されることとなった。
普通であればそんな子供、然程の時間もかからず何処かで誰にも知られずのたれ死ぬのが関の山だろう。
そう、普通であれば。
ラプラスの普通でなかった點は、二點。
一つ目、彼が分上は平民であるにも拘らず統魔法持ちであったこと。
そして、二つ目。
彼が、天才だったことだ。
母親の死とほぼ時を同じくして統魔法が発現、そこから程なくして覚的にその『使い方』を理解。
加えて彼はそれだけに留まらず、持ち前の凄まじい頭脳で自の統魔法を分析。できる範囲で魔法の質と能力を把握し、それを生活に役立てるにはどうすれば良いのか系的に整理を行なった。
それによって統魔法を駆使して治安の悪い環境でもを守り、生活を行う。使いたてであるにも拘らず、彼の魔法の能および彼自の魔法能力は群を抜いていた。そこから更に年齢の増加によってできることも増え、力をつけ、知識を蓄え。
その、果てに。
「な、なんだ貴様、見窄らしい鬼が、どこからった! おい衛兵! こやつを即座に摘み出せ! ──何をしている! 何故返事をしな──貴様が全員殺した? は、何を寢ぼけたことを! 見たところ貴様は平民だろう、貴族には平民などとは違う統魔法という天稟(ギフト)、星神から賜った力があるのだ! 我が衛兵も全員が統魔法持ち、それを貴様が倒したなど──…………は? な、なん、それ、は──あぐッ! き、きさっ、この私を舐めるなよ! 我が侯爵家の統魔法がこのような得の知れない魔法などに負けるわけ──あ、ぎぁ……ッ! な、何故だ、こんな──き、貴様は何がしたい! なんの恨みがあって……ひッ、そ、そんな、私が何をしたと言うんだ、私が何か貴様に悪いことをしたのか!? そんなことあるはずがな──ぃ、ァ、ゆ、許して、頼むこの通りだ、だから、お願い、助け──…………………………」
自分の父親ですら、何の苦労もなく圧倒できるほどの力をにつけたラプラスは。
果たしてその通り、何の苦労もなく父親を殺害した。
全ての事を済ませ、塗れのから無造作に返りを振り撒きつつ。
夜の王都、その人目に付かない路地裏を歩く。
自分を生み出しこのような環境に叩き込んだ元兇である父親を殺す。その目標を、十全に達したラプラスは。
満月の下で、息を吐き。
「……………………、何も、じねぇ」
自分という存在が。
既にどうしようもなく、壊れていることを理解した。
別段、父親に恨みがあったわけではない。
ただ、自分のような境遇の人間は普通は父に殺意を抱き、復讐のために生きるものだと。そう知識として理解していたが故に、それを実行したに過ぎない。
付け加えるならば……あわよくば、そういうことをすればこんな自分でも流石に何かじるものがあってくれるのではないかと、淡い期待を抱いた上で事をした。
けれど、結果はこの通り。
どうでも良い人間を殺した結果の、どうでも良い虛無がどこまでも広がるだけで。
理解してしまった。
自分は──もう、世の中の全てに何ら心をかされることのない。何もない人間になってしまった。
こんな生まれで、あんな経験をした當然の帰結として……というものが、致命的なまでにり切れてしまったのだと。
そこからは、當て所なく彷徨を続けた。
何かを食べる気すら起きなかった。當然空腹と衰弱が自分のを襲うが、それすらも最早どうでも良く。
生きる気力すら無くしたラプラスは、程なくしてその辺の建の影に行き倒れ。
このまま、今度こそ誰にも知られずにひっそりと死し、朽ち果てていくのだろう。それを何の躊躇もなくけれ、緩やかに瞼を閉じようとしたその瞬間。
「だ……大丈夫……?」
珍しい黒髪をした、とある公爵家の年。そして。
空っぽになった彼が──唯一心から共すると、出會うのだった。
◆
「……何十年前の、話だったかね」
そうして、現在。
王都のとある高臺、その頂上に登ったラプラスが。
王都の全景を睥睨しつつ、呟く。
「そんなところで、何をしているんだい?」
その後ろから、聲。
振り向くと、彼の最もよく知る黒髪の青年の姿が。
気さくな笑みと共に、ラプラスは返す。
「よぉボス。なぁに、ちょいとお前さんと出會った時の事を思い返してただけさ」
「おや珍しい。君、そういう慨に耽るような人間だったっけ」
「おいおい、何十年もかけた計畫の最終段階だぜ? そりゃいくら俺でも思うところの一つや二つあるってもんさ」
軽口を返しつつ、改めてラプラスは自らのボス──クロノを見やる。
一見すると、今までと何も変わらない彼の姿。
けれど、見るものが見れば……的に言うなら魔力知能力に長けたものが見るならば、分かるはずだ。
クロノの魔力が、今までとは全く別の、桁外れで異常な何かになっている。
それこそ敢えて喩えるなら──神様と、見紛うかのような。
それを見て、ラプラスももう一度笑う。
「……『慣らし』は、十分に済んだみたいだな」
「ああ。いつでも行けるよ」
頼もしい彼の返しに、ラプラスは王都に背を向けて。
「さっすが。そんじゃ、すぐに始めよう」
「ああ、同だ。……既に他の人間も配置についている、到底待ち切れるものでは無いからね」
そうやり取りをわし、二人は再度王都の地下に潛る。
そうだ、到底待ち切れるものではない。
今日この日のために、多くの時間を費やした。様々な策を巡らせ、多くの仲間を集め、何より自分たちを信じて突き進み始めた。
今日が、その集大。
まさしくこの日、萬を持して──彼らは、全てを破壊する。
子供だって、気に食わない砂の城があればまずは踏み壊すだろう。
自分達のやることは、そいつを(・・・・)しばかり(・・・・・)派手に(・・・)した(・・)だけだ(・・・)。
その確信と、揺るぎない意志のもと。
ラプラスとクロノは、王都の地下に向かい。
既に配置についていた他の仲間たちが見守る中。
「──」
祭壇の、中央。
古代魔道(アーティファクト)を掲げたクロノが、どこか靜謐な雰囲気を漂わせ。
息を吸い。
唄う。
次回、ボスの魔法お披目です。お楽しみに!
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