《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》応接間
クリスは謁見の間の出來事に疲れ果て、ソファーに腰掛けうなだれて真っ白になっていた。
その様子をエマが「大丈夫ですか? クリス様」と心配している。
謁見の間で起きたことは衝撃の連続だった。
部屋の中央で國の重鎮である貴族達に囲まれながら、皇帝ご夫妻への挨拶。
そして商品説明と商談。
だが最後には出來レースの茶番だったことを伝えられた。
その茶番を演じる役者の中で、私だけそのことを知らされていなかった。
「敵をだますなら、まず味方から」ということらしい。
「クリスはとても良い仕事をしてくれた」と言ってくるライナー様に対して怨めしい目線を送る。
「ふむ、だから言ったであろう。城は伏魔殿なので油斷するなと」
(自分は何もせずに楽しんでいたくせに、油斷も何も完全なだまし討ちじゃない……)
クリスはライナーの言葉を聞いて、心の中で毒を吐いていた。
「はぁ~……人生で一番疲れた日だわ」
大きなため息をして、心の底から思った言葉を口にしていた。
すると、応接間のドアがノックされ「皇帝陛下と皇后陛下がいらっしゃいました」とメイドの聲が聞こえ、瞬時に「ガバッ」とソファーから立ち上がり、ドアに対して頭を下げる。
どうしたの? 話は終わったんじゃないの? 私はまだ何かあるのかと、張が走った。
ドアが開かれ皇帝陛下と皇后陛下が「よいよい、休んでいるところに、突然すまぬな」と優しい聲が聞こえる。
謁見の間の聲と全然違う。
「お前たちはし席を外せ」
皇帝陛下は私達とライナー辺境伯以外を応接の間から退室させ、部屋には私たちだけとなった。
「謁見の間では、挨拶も出來ずにすまぬな。改めてアーウィン・マグノリアだ。よろしく頼む」
「妻のマチルダ・マグノリアです」
二人とも綺麗な所作でクリスに挨拶をすると表を崩した。
いくら人払いをしたとはいえ、皇帝、皇后陛下に挨拶をしてもらえるとは思わず、クリスはわたわたと慌ててしまった。
「まぁ、まずは座って話そう」
皇帝陛下の威圧が急に薄まり厳格な雰囲気が明るくなる。
言われた通り、ライナー様と私はソファーに座る。
エマは私たちが座ったソファーの後ろの壁側に立って控えている。
皇帝、皇后陛下は機を挾んだ向かい側に座り、おもむろに言葉を紡ぎ始めた。
「クリスティ殿、この度は我らのきに巻き込み、申し訳なかったな」
「陛下、勿無いお言葉です。気にされなくて大丈夫でございます。あと、私のことはよろしければ「クリス」とお呼び下さい。それに、私たちにとってはとても良い結果となりましたので、むしろこちらからお禮を言うべきところと存じます」
「……ほお?」
皇帝陛下は私の返事にし目を細めた。
実際、謁見の間でのやりとりは私達とバルディア領の為に仕組まれたことだろう。
あの場で皇帝、皇后陛下が二つの商品に関して私達の製作権利を承認、庇護してくれた。
これにより今後、貴族達はむやみに私達に手を出すことは出來なくなったはずだ。
恐らく、ローラン伯爵や一部の貴族は利権をしていたので、もしあの場のやりとりがなければ今後、どんな小細工をしてくるのか想像するだけでも頭が痛くなりそうだ。
「さすが、あの茶番の意図もわかっているのね。それにクリスは私の問いにしっかりけ答えをしてくれて助かりました。あの毅然とした態度と膽力は、私の侍にほしいぐらいだわ。どうかしら? 考えてみない?」
「ありがたいお言葉ですが、私はライナー辺境伯の多大な恩をけております。それに自分が代表の商會もありますので、恐ではありますが侍は辭退させて頂ければと存じます」
豪華絢爛だが、こんなドロドロしたところで生き抜くより自分は商人があっていると心から思った。
なので、やんわりとした言葉でしっかりとお斷りする。
「あら、私がそんな言葉で諦めるほど、慎ましい皇后ではないと謁見の間でわかったと思うのだけれど?」
「……お戯れを」
「うふふふ」と皇后陛下は私とのやりとりをとても楽しんでいる様子だ。
私は自分がどんどんすり減っていくのをじる。
その後、二人は今回の出來事について説明をしてくれた。
クリスティ商會で化粧水とリンスの試作品が出來た時に、その試作品をライナー辺境伯がにお二人に獻上をしていたらしい。
皇帝のアーウィンは半信半疑だったが、皇后のマチルダは使ってみるなり、この品が誇る素晴らしい価値に気付く。
マチルダはこの商品をお付きの侍達を含め、知っている者達すべてに緘口令を出した。
それでも、一部の貴族達は嗅ぎ付けて、「バルディア領が今度、獻上予定の品には価値があるようだ」という噂が流れ始めた。
一部の貴族達は利権に関して非常に敏である。
利権にしでも噛めれば、何もしなくても金がってくると知っているからだ。
だが、利権に噛む者が多くなればなるほど商品価格は高くなり、下手をすると商品の流通にも影響が出てしまう。
マチルダはどうすれば良いのかを考えた。貴族が一堂に會する場でクリスティ商會とバルディア領の製作権利と利権を認めるようにすればいい。
そして、皇后(皇族)とクリスティ商會の間で窓口を作り、商流を新たに構築すれば良い。
利権に関しては以前から貴族の介が目立っていたので、これを機により厳格にすれば一石二鳥である。
その為、皇后は皇帝とライナー辺境伯を巻き込み、この劇場を考え演じたのだ。
皇帝とライナーは何故ここまで皇后が積極的にくのか、當初は共することが出來ず困していた。
だが、考えてみれば皇后とお付きの侍をこれほど躍起にさせるだけの品なのだから、潛在的な価値は計り知れないのだろうと判斷した。
ちなみに皇后とお付きの侍が、ここまでいたのは當然、自分たちが使う化粧水とリンスを確実に確保する為だった。
この商品の素晴らしさがわかった瞬間、皇族、公爵家、伯爵家などの貴婦人達で取り合いになるのは目に見えている。
皇后という立場は非常にきにくい立場だ。
もし、通常通りに市場にリンスと化粧水が販売されるようになれば、商流に近い立場にいる公爵家や伯爵家などが商品を積極的に買い占めてしまうだろう。
その為、皇后のマチルダがリンスと化粧水の數量を今後、確実に確保するためには、クリスが獻上に來る當日中に商談をまとめなくてはならなかった。
かといって、皇后のマチルダが自分の分は納品最優先にしろと言えば越権行為になってしまい、貴族達に示しがつかない。
その為、「皇后陛下の納品を最優先にする」との言質を取るように彼を追いこんだのだ。
実は今回の獻上の場において誰よりも一番、功させたいと思っていたのは皇后、マチルダなのであった。
それを皇后お付きの侍以外は誰も知る由もなかった。
「そうでしたか。大は予想通りで安心致しました」
クリスは皇帝と皇后の説明を聞いて、自分の考えが大當たっていたことに安堵した。
説明に納得したクリスの顔をみて、マチルダはとても皇后とは思えない可らしい笑顔をしてその場を和ませた。
ふと気になった事を思い出し、クリスがマチルダに質問した。
「先ほど頂いた容で理解はできましたが、もし私が皇后様に製作方法と製作権利を売ると首を縦に振ったらどうするおつもりだったのですか?」
「それはもちろん、それ相応の金額で買い取りましたよ。もちろん、気が変わったなら、今すぐにでも買い取らせて頂きます」
両手を顔の前で合わせて、パァっとした明るい笑顔をする皇后に対して、クリスは「やっぱり、この人は危険だ」とじるのであった。
「ふむ、獻上品の件の話はあらかた終わったな。では私はいまからライナーと別室で話をしてくる。マチルダはまだ、クリスと話があるのだろう?」
「ええ、謁見の間で話をした、「納品最優先権利」について話を詰めたいと思っています」
「ゴホッ‼」クリスが紅茶を飲みながら、皇后の言葉に反応してむせて咳込んだ。
皇帝とライナーはクリスの咳込む様子に苦笑すると、応接間を後にした。
応接間にはクリスとエマ、マチルダと侍の4人だけとなった。
「あら、クリス。まさか、謁見の間で話をした「納品最優先権利」という言葉を忘れたわけではないでしょう?それとも、口約束で済ますおつもりでしたか?」
「いえいえ、そのような気持ちは一切ありません。ただ、まさか本日中に容を詰めるとは思わなかったものですから」
「申し訳ないけど皇后という立場上、ゆっくり話せる時間がないの。だから、今から容を詰めてしまいましょう。メリア、紙とインクの用意をお願い」
メリアと言われた侍は、皇后に指示されると同時に機に紙とインクを置いた。
いつから用意していたのだろうか?
ちなみに皇后の言った「ゆっくり話せる時間がない」という口実は半分本當で半分はこの場でクリスと契約を結ぶ為の噓だ。
クリスもその點はわかっているが、それでも皇后の行力には圧倒される。
「商売敵には絶対なりたくない相手だわ」クリスは心の底からそう思うのであった。
「あ、そうそう‼ 大事なことを忘れるところだったわ。クリス、私と二人きりの時はマチルダと呼びなさい」
皇后の言葉にクリスは冷や汗をかきながら、やんわり斷る為に言葉を必死に紡ぐ。
「……お付きの侍の方や、私の従者もいますので、皇后陛下をそのようにお呼びするわけに參りません」
「あら、メリアのことは気にしなくても大丈夫よ。クリスの従者なら私も仲良くしたいから、あなたも私のことをマチルダと呼びなさい。……いいわね?」
「……はい。……マチルダ様」
突然、矛先が向けられたエマは皇后に話しかけられただけでも張するのに、気軽に「マチルダ」と呼べと言われ青ざめた。
さらに笑顔の奧にある鋭い目線で、蛇に睨まれたカエルとなったエマはすぐ大蛇に飲み込まれてしまった。
「はぁ……承知しました。マチルダ様。本當に私達しか居ない場所だけですからね。」
「ええ、ありがとう」
マチルダは明るい屈託のない可い笑顔をクリスとエマに向けるが、二人にはその姿がとんでもない大蛇にしか見えない。
その後の「マチルダの商品を優先的に用意する」という契約に関しては終始マチルダに翻弄され、商談が終わる頃には、クリスは真っ白になり、魂は口から出ていく寸前となっていたのであった。
本作を読んでいただきましてありがとうございます!
しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
差支えなければブックマークや高評価を頂ければ幸いです。
評価ポイントはモチベーションに直結しております!
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張る所存です。
これからもどうぞよろしくお願いします。
【お知らせ】
2022年7月8日、第10回ネット小説大賞にて小説賞を賞致しました!!
本作品の書籍化とコミカライズ化がTOブックス様より決定!!
書籍が2022年10月8日にて発売致します。
現在、TOブックスオンラインストア様にて予約付中です!!
※コミカライズに関しては現在進行中。
【その他】
※注意書き
攜帯機種により!、?、‼、⁉、など一部の記號が絵文字表示されることがあるようです。
投稿時に絵文字は一切使用しておりません。
絵文字表記される方は「攜帯アプリ」などで自変換されている可能もあります。
気になる方は変換機能をOFFするなどご確認をお願い致します。
こちらの件に関しては作者では対応致しかねますので恐れりますが予めご了承下さい。
寢取られ令嬢は英雄を愛でることにした
舞踏會の一角で婚約者に婚約破棄を言い渡されたエディス。婚約者が次の相手に選んだのは異母妹だった。だけどその瞬間、エディスは前世の記憶を思い出した。……あら、この婚約者わたしにとってはわりとどうでもいいわね。婚約破棄を了承して舞踏會を後にしようとしたエディスだが、ある人影を見つけてしまった時、彼女の體に衝撃が走る。「……素敵……」それはこの世界にはいないはずの獣人で――。婚約破棄されて前世を思い出した令嬢と獅子の呪いを受けてしまった英雄騎士が幸せになるまで。2020.11.28.本編完結、後日談、2020.12.26.続編完結。2021.02.11.続々編完結。
8 110殘念変態ヒロインはお好きですか? ~學校一の美少女が「性奴隷にして」と迫ってくる!~
「私を性奴隷にしてください!」 生粋の二次オタ、「柊裕也」はそんな突拍子もない告白をされる。聲の主は──學校一の美少女、「涼風朱音」。曰く、柊の描く調教系エロ同人の大ファンだそうな。そう、純粋無垢だと思われていた涼風だったが、実は重度のドM體質だったのだ! 柊は絵のモデルになってもらうため、その要求を飲むが…… 服を脫いだり、卑猥なメイド姿になるだけでは飽き足らず、亀甲縛りをしたり、果てにはお一緒にお風呂に入ったりと、どんどん暴走する涼風。 更にはテンプレ過ぎるツンデレ幼馴染「長瀬」や真逆のドS體質であるロリ巨乳な後輩「葉月」、ちょっぴりヤンデレ気質な妹「彩矢」も加わり、事態は一層深刻に!? ──“ちょっぴりHなドタバタ系青春ラブコメはお好きですか?”
8 173ニート16歳の俺が、戀愛なんて間違っている
久々に、學校に行ったらクラスメイトから「おまえいたっけ?」といわれたけど久々だから仕方ないと思いつつ內心傷ついているのに誰も気が付いてくれなっかったけど、「やっほう、お久―」といわれて、(付き合いてぇぇえええ!!!)と思い俺は、、、、、
8 66あえて鈍感のふりをしてみた
お父さんが新しいお母さんと再婚することになった! それと同時にアメリカ留學していた裕太は日本に帰ることに そして、ものすごく可愛い妹が一人できるみたい かなり俺のことを好意的に見てるみたいだけど、これってもしかして鈍感なふりをしたらいっぱい甘えてくれるとか? ありえるよね!よし、そうしよう! 軽音要素多めです。苦手な人はブラウザバック。 ちなみに筆者はバレー部です笑 初投稿なのでミスなど指摘してくれるとありがたいです かなり誤字あるみたいですすみません! 指摘され次第すぐに直します! コメントも待ってます! ツイッターアカウント作りました!フォローしてちょ @yamataro_364 DMやリプも受け付けてます 表紙描いてくれる人募集中!! 740フォロー、640いいね、ありがとう!!! 投稿再開!!
8 124男がほとんどいない世界に転生したんですけど
部活帰りに事故で死んでしまった主人公。 主人公は神様に転生させてもらうことになった。そして転生してみたらなんとそこは男が1度は想像したことがあるだろう圧倒的ハーレムな世界だった。 ここでの男女比は狂っている。 そんなおかしな世界で主人公は部活のやりすぎでしていなかった青春をこの世界でしていこうと決意する。次々に現れるヒロイン達や怪しい人、頭のおかしい人など色んな人達に主人公は振り回させながらも純粋に戀を楽しんだり、學校生活を楽しんでいく。 この話はその転生した世界で主人公がどう生きていくかのお話です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この作品はなろうやカクヨムなどでも連載しています。 こちらに掲載しているものは編集版です。 投稿は書き終わったらすぐに投稿するので不定期です。 必ず1週間に1回は投稿したいとは思ってはいます。 1話約3000文字以上くらいで書いています。 誤字脫字や表現が子供っぽいことが多々あると思います。それでも良ければ読んでくださるとありがたいです。 第一章が終わったので、ノベルバでこの作品を更新するのはストップさせていただきます。 作者の勝手で大変申し訳ないです。 続きを読みたいと言う人は……是非カクヨムなどで見て欲しいです。
8 197親の操り人形は自らその糸を切ろうとしている
幸せな親に恵まれた青年 毒親に支配された少年 青年は交通事故に遭い、家族を失った。 少年は親から逃げ出し孤獨になった。 運命の悪戯は彼ら二人が出會うことから始まり、協力し合うことでお互い幸せを手に入れたかった。 しかし、青年が言った「交通事故を調べたい」この一言が二人の今後を大きく変えることになる…… ※カクヨム様、エブリスタ様にも連載中です。
8 188