《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》姫君を迎えるにあたって
執務室で聞いた父上の話は驚きの連続だった。
クリスが帝都でんな意味で爪痕を殘したとか。
自分がこんなにも早く、結婚することになるなんて夢にも思わなかった。
というか、前世の僕は結婚を一度もしていない。
彼ぐらいはいたことあったはずだけど、いたよね?
僕は深く思い出そうとするのをやめた。
なんだか傷つきそうだったから。
僕と父上はまだ執務室で二人きりだ。
と言っても重要なことはほぼ話したので、軽く雑談をしている程度だけど。
その中で父上は僕の前世の知識について聞いてきた。
「リンスやアロエ化粧水」といったこの世界にはまだ常識となっていない品。
有用がまだ認められていない品はまだ數多くあるのかと? 僕はどうしたものか、と思ったが素直に「沢山、山のようにあります」と伝えた。
すると、父上は眉間に皺をよせながら「これが一番の問題だな」と苦々し気に呟いた。
「リッド、お前の知識は非常に危険だ。この世界の在り方を変えてしまうものもあるだろう。もし、前世の知識とやらを使う時は必ず私に聲をかけろ。お前の常識が世間一般の常識と思わないように注意しろ」
「承知致しました」
僕は父上の言葉に頷いた。リンスと化粧水だけで帝都ではあれだけの騒ぎになったのだ。心から気を付けようと思う。
そういえばと、僕はガルンと父上が話していた「別館」について気になったことがあった。
「父上、別館を建てるとさっき仰いましたが、私とファラ様だけでそちらに移り住むのですか?」
「うむ。さすがに我が領地に來て頂くにしても王族で隣國の人質でもある。そして、可能は低いが間者の可能も0ではない。すべてを総合的に考えると、別館を建てるのが一番だろう」
間者か、確かに隣國から來る以上は可能がある。
それに、姫自は6歳でも従者は違うだろうから、警戒しないといけないな。
僕はそう思いつつも、意識は別のことにいっていた。
「父上、それでしたら私も設計に加えて頂けないでしょうか?」
「なに?」
「妻と住む、別館の設計にはが躍ります。それに、今後のことを考えてサンドラの研究施設やクリスティ商會の事務所なども置きたいです。あと、屋の魔法、武訓練場もしいです」
僕の話を聞いていた父上の顔が険しくなっていく。
「はぁ。馬鹿者……。別館を建てるにも予算がいるのだぞ?あまり、大掛かり過ぎるものは作れん」
「でも、先程は帝都に請求すると仰っていたではないですか」
「帝都から捻出される予算の元は稅金だ。あまり派手に請求すると、中央の貴族達がここぞとばかり責めて來る。無理はできん」
うーん。
帝都から予算を引き出そうと思ったけど駄目らしい。
ここはとりあえず、予算については引いたほうがいいかな。
「わかりました。ですが、父上、妻と住むことになる別館の設計には參加させてくださいね」
「ふう。わかった。そのように手配しよう。では、今日はこの辺で終わるとするか」
話し合いについては終わったというじの父上に僕はあと一點だけお願いしたいことがあった。
いや、いまさっき出來た。
「父上、最後にお願いがあります」
「まだ、なにかあるというのか?」
父上は帝都から帰ってきて、すぐにこの長丁場の話し合いになったので、さすがにし疲れが見え始めていた。
「レナルーテ王國に短期間で構いません。行かせてください」
「……なんだと?」
疲れが見えてきた父上の顔が険しくなり、眉間にグッと皺がよった。
「先ほど、別館の設計に參加してよいと伺いました。その為、レナルーテの文化を確認してきたく存じます」
「その、必要はない。レナルーテの文化に詳しい者を呼べばいいだけだ。お前がわざわざ行く必要はない」
「……あともう一つ、父上にしか話せない理由があります。詳しくは言えませんが、前世の記憶、疑似験に関係しております。恐らく母上の病気にも」
「ピクッ」と父上の眉間にきがあった。
険しい顔のまま、すごい目力で僕を目線で抜いてくる。
でも僕も譲れない。
その目線にニコニコ顔で真っ向から立ち向かった。
父上と僕のにらめっこは他人が見たら面白かったかもしれない。
騎士も逃げ出しそうな険しい顔と目力の父上。
対する僕はニコニコ笑顔を崩さず父上と対峙した。
しばらくすると「はぁ~……」と大きなため息が執務室に響いた。
「……良かろう。だが護衛をつけるのはもちろん、レナルーテの滯在期間は數日のみだ。お前と姫君の婚姻が発表されるのはまだ先だが、今回は非公式ながらも婚姻の候補としてお前を送るとレナルーテ側に連絡しよう」
なんだか、軽く行って來るだけなのに、やたら仰々しいとじてしまう。
「それでしたら、私と數人だけのお忍びで行ってくるのはどうでしょうか?」
「馬鹿者‼ そんなことをして問題が起きればお前個人、ひいてはバルディア領だけでは済まん。問題は國家間まで大きくなるのだぞ⁉ 軽率なことはするな‼」
僕の発言に今まで一番、険しい顔になった父上の怒號が執務室に轟いた。
父上が出す初めての怒號に僕は怯んでしまった。
「も、申し訳ありません……」
「お前はバルディア領の後継者であり、姫君の婿となるのだ。場合によっては暗殺もされかねん立場だ。それにレナルーテも同盟國として友好的だが一枚巖の國などありはしない。必ず、マグノリアに対して思う者がいるはずだ。先ほどの様な軽率な発言は二度とするな? よいな?」
「暗殺」か、そんなことまで意識はいかなかった。
確かに今回の婚姻はレナルーテがマグノリアの屬國になったことを再認識させるようなものだ。
皇族ではなく、準ずる辺境伯の息子が非公式とはいえ候補として行くのだから、レナルーテ側では面白くないと思う輩もいるだろう。
「承知致しました。軽率な発言、申し訳ありませんでした」
「わかればよい。正確な日程はまた決まり次第教えよう。まだ、何かあるか?」
「いえ、ありません。ありがとうございます」
「うむ、では下がってよい。私もし休む」
「はい。では失禮致します」
父上に一禮してから、執務室を出る。
そこからし歩いていくと「リッド様」と聲をかけられ、聲のしたほうに振り返るとガルンが微笑んでいた。
「ライナー様と深いお話が出來たようで何よりでございました」
「う、うん。今日は話すことが多かったからね。それより、どうしたの?」
どうしたのだろう? ガルンは僕の顔をみると一息おいてから話し始めた。
「ナナリー様が病に倒れられてから、皆様がしずつ離れ離れになり、暗くなっていく様子を皆、案じておりました。ですが、リッド様があるときよりお変わりになられて、皆様がまた明るくなっていき家臣一同、心より喜んでおります」
ガルンは微笑んでいた。
執務室の時に見せてくれた顔だ。
あれは僕と父上の仲良く話していたから、ガルンも喜んでくれたのか。
それに、バルディア家の家臣の皆も気付いて心配してくれていたんだ。
僕は自然とガルンの言葉に笑顔になり「心配してくれて、ありがとう」と返事をした。
すると、ガルンは咳払いをして、僕の耳元で囁いた。
「リッド様なら大丈夫です。レナルーテの姫君を必ずお幸せにできます。私たちもご協力致します。リッド様の若奧様になるのですから」
これを僕に伝えたくて、待っていたのだろう。
僕に囁いたあと、気恥ずかしかったようで、赤くなりながら指で頬をかいていた。
ぼくはとびっきりの笑顔になる。
「ガルン、ありがとう‼ 僕、頑張るね‼」
「お力になれれば何よりです」
ただ、僕はガルンの言葉にあった一言だけが気になったのでそれだけ指摘しようと思う。
「でも。ガルン……」
「はい、なんでしょう?」
「僕も6歳なのに、妻になる人を若奧様はないでしょ?」
「ブッ‼」
僕の予想外の言葉がツボだったようで、ガルンが珍しく笑いに耐えていた。
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