《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》怒らせてはいけない
執務室で父上との話が終わってから、クリスの様子を見ようと客室に行ってみる。
ドアにノックをするも返事はない。
「クリス起きている?」
僕はそう言ってドアノブに手をかけて恐る恐る覗くと、部屋にはクリスがベッドで靜かな寢息をたてて寢ていた。
僕は前世の記憶で「寢顔ドッキリ」という悪戯があったことを思い出して、悪戯心で抜き足、差し足でベッドの橫に靜かに移する。
「ク~リ~ス~」と靜かな聲で聲をかける。
「すーすー」と寢息をたてている。
「そういえば、クリスの顔をこんな間近でみたことなかったな」
僕は好奇心と悪戯心を抑えきれず、ついついクリスの寢顔を観察してしまった。
エルフのクリスはがき通るように白い、髪はサラサラでツヤがある、最近はリンスも使っているそうで髪のしさには磨きがかかっていた。
クリスは普段、長い髪を頭の後ろでまとめておりポニーテールにしているが、いまは髪が解けている。
ベッドに寢かされる時にメイドが髪を解いたのか、顔にも髪がしかかっている。
彼の顔立ちはしっかりしており、まつげも長い。
は淡いピンクで瑞々しく、近くで見る者はまず魅了されるだろう。
見れば見るほど中々いない人である。
彼が人であることは皆知っているが、ここまでの人ということには気づいていないのかもしれない。
あまりそう見えないのは商會のことで普段は走り回っているので、彼の容姿をしっかり確認出來ていないから気付かないのかも知れない。
「うー…ん、だ…め」
意図せず妖艶な聲でクリスが寢言を言い出した。あまりに艶があるので、僕は顔が真っ赤になるのをじた。
父上にクリスへの縁談を申し込みたいから手伝ってほしいと言った貴族達は、謁見の間の凜々しい姿に加え、この魅力に気付いたのではないか? そう思うとなんだか、イラっとした。
「ダメ…それ…は…こうご…うへい…かぁ…」
どんな夢をみているのだろう? そんなことを思いながら、あまり長居してもしょうがないと、ベッドから靜かに部屋のドアに向かい、ドアノブを回す…が開かない。
いや、違う。
「ドアの向こうに誰かいる…?」
再度、力をれるとドアがし開いて隙間が生まれる。
そこから見えたのは僕と同じ紫の瞳だった。
「……やぁ、メル。ドアを開けてくれないかな?」
「なにしてるのぉ? にーちゃま?」
何故だ、メルに対してこんな戦慄を覚えるなんて、全から嫌な汗が出るのをじる。
「ちちうえとたくさんはなして、つぎは、えるふのおねーちゃん。わたしは、にーちゃまをまっていたのになぁ?」
「い、いや。ごめん。クリスが倒れたって聞いて…そ、そう、心配で部屋まで様子をみにきたんだよ。」
僕の言っていることに噓はない。
でも、何故か浮気か不倫を弁解しているような錯覚に陥ってくる。
それだけ、今のメルの威圧は凄まじい。
どす黒いオーラが「オォォ…」と出ている。
「ふ~ん、それにしてはずいぶんと、おねーちゃんのかおをじっくりみてたよね? にーちゃま?」
「いや、それは調が気になっただけだよ……」
「それにね、にーちゃま。しってる?」
「な、なにを?」
メルは凄く、凄く怖い顔をしている。
「ねている、おねーちゃんのへやにひとりで、だまってはいったじてんで、だめなんだよ?」
「……うん、そうだね」
悪戯はするものじゃない、心から反省する。だけどメルは出してくれない。何故?
「メル、そろそろ部屋から出してくれないか?」
「だめ。もうすこしまって」
「え?」
なんだろうとおもった直後、メイドの聲が聞こえてきた。
「メルディさま~」遠くから聞こえてきた聲に僕は絶句した。
メルは僕を許すつもりなんてなかった。
僕はなんとか部屋を出ようとするがメルは「だ~め」と出してくれない。
もちろん力ずくでドアを押せばなんとかなるだろうが、そうすればメルが怪我をしてしまうかもしれない。
それに、騒ぎになればもっと大変なことになる。
そして、ダナエがドアの前まできてしまった。
僕は諦めて茫然となっていた。
「メルディ様、何をされているのですか?」
「えとね。わるいひとをとじこめてるの。でも、ダナエがきたからあけるね」
メルディはとても楽しそうに可い笑顔をしている。
「は、はい?」ダナエは何が何だかと言う顔していたが、ドアが開いて中にいた棒立ちの人を見つけ、絶句する。
そして凄まじく険しく、嫌悪がいっぱいの顔となった。
「リッド様?何をされているのですか?」
「クリスが倒れたと聞いていたから、様子を見に…」
「ちがうよね~、おねーちゃんのねがおを、じ~っとながめるためだもんね」
ピシッと空気が凍る音がした。ダナエの顔が怖い。そして、メルが一番怖い。
「リッド様? どういうことでしょうか?」
「いやその、調が悪いから見に來たのは本當で、つい悪戯心で…」
「はぁ~…若いが一人でいる寢室に勝手にり込み、寢顔を覗き見るなんて、男子としてゆるされることではありません。最低です」
「うぐっ」
「ね~、ダナエ?いまから、ははうえのところにいって、にーちゃまをしかってもらおうよ」
「それは、よいですね」
「ちょ、ちょっと待った‼ 母上は病気だし、ベッドから降りられないのだから無理させちゃだめだよ」
母上に、の寢顔をじっと見ていたなんて言われたらどうなるか想像もつかない。
「ははうえのところに、しゅっぱ~つ」
僕が言っていることは間違っていないはずなのに聞きれてもらえず、本當に母上の部屋まできてしまった。
母上の部屋にはいると「あら、リッド、メル來てくれたの?」とこちらに微笑みをむけてくれる。
だが、メルが速攻で弾を落とす。
「ははうえ~、いまきゃくしつに、えるふのおねーちゃんが、つかれてねてるんだけど、それを、にーちゃまがだまってへやにはいって、じーっとみてたんだよ?さいていだよね?」
明るかった母上の微笑み、どす黒く歪んだ微笑みにかわっていく。
「……ほんとうなの?」
問いにすぐさまダナエが回答する。
「はい。メルディ様が客室に悪い人がいると仰ったので私が確認すると、リッド様が棒立ちしておりました」
「そう、わかったわ。ダナエとメルは下がりなさい」
母上に言われ二人は部屋から退室した。
その後のことはよく覚えてない。
ただ、母上とメルは怒らせてはいけない。
それだけはしっかり覚えていた。
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