《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》父上と訓練
「ルーベンス、今日こそ一撃れてやる‼」
「まだまだ、リッド様には負けませんよ⁉」
ルーベンスに強化を教えてもらってから、武訓練がかなり楽しくなった。
疲れはするが、以前よりもをかしたあとの疲労はない。
ただ、魔力を消費していくのでこの點の管理は必要になる。
だが、それを補っても楽しい。
以前はルーベンスのきにスタミナが足りずに付いていけなかった。
いまはそのスタミナを強化で補っている。
それでも、経験とリーチ、重、格差などの要素も加わりルーベンスには勝てない。
だが、勝てないほど、不思議と勝ちたいと思う強い意志が生まれてくる。
「うわ‼」
意志の強さは時に戦いを制するが、ダメなときは駄目である。
僕は握っていた木剣をルーベンスに弾き飛ばされ、無手の狀態となった。
だが、まだいける。
小柄な子供のを生かしてルーベンスの懐にり、蹴りでも拳でもれようとした。
「リッド様、いいですけどそれは悪手です」
彼は余裕のある言い方で僕を抑え込み、きをとれないように羽い絞めにしてしまった。
「はぁ~……まいった」
僕は羽い絞めにされたことで、ため息を吐いて敗北を認めた。
「木剣を弾かれても諦めずに挑戦したことはお褒め致します。ですが、私との格差を考えると今の手は悪手です。その手を使う場合はせめて格差があまりないか、華奢な相手に使うべきでしょう」
彼は僕のきについて、諭すようにダメ出しをしてくれた。
確かに、訓練だけで考えればいいかもしれないけど、実踐なら悪手だったかもしれない。
でも、悔しいから「むぅ~」と頬を膨らませて、彼を思いっきり睨んでやった。
すると彼は満面の笑みをしながら解放してくれた。
解放された僕は、先ほど弾かれた木剣を拾い、深呼吸をしてから彼に向かって「もう一回‼」と強く言った。
彼は強い。
それなら勝てるまで挑戦するしかない。
「リッド様、本日はここまでにしましょう」
「……へ?」
いつもと違う彼の言葉に僕は思わず間の抜けた返事をしてしまった。
ルーベンスはにっこり笑顔のスパルタ教育方針の先生なのだ。
まず、こんな短時間で訓練を終わらすことはない。
不思議そうな顔をしている僕に彼は言った。
「ふふふ、本日はライナー様がリッド様の実力を見て、その実力次第では直接、指導したいことがあるということです。私と今までした分は、まぁ馴らしですね」
馴らし?
今までの訓練が馴らし?
とても馴らしとは思えないほど激しいきだったきがするのは気のせいだろうか?
しかし、そんなことよりも父上が直接、僕の訓練をするなんてどういうことだろうか?
以前、父上がマグノリアにおいて、かなりの剣の使い手と聞いたことはある。
それが関係しているのだろうか?
僕の怪訝な顔を見た彼は再度、苦笑しながら言った。
「ライナー様の指導方法は特殊なのです。私には立場も含めて同じことはリッド様に出來ることではありません」
「立場も含めて……?」
彼の意味深な発言に嫌な予をじていると、訓練場に父上がやってきた。
「事務処理が立て込んでいたのでな。遅れてすまん。馴らしは終わったか?」
父上はいつものより、きやすい服裝をしておりスラっとしている印象をけた。
「はい。リッド様の馴らしは先ほど終わりました。剣のき、強化など問題ありません。同年代においてリッド様に勝てる相手はそうはいないと思われます」
彼は父上に向かって、頭を下げながら禮儀正しく報告していた。
普段の彼に見られる軽いじはない。
父上はその様子に「わかった」と頷くと僕に言った。
「リッド、お前の実力を見てやろう。私の馴らしに付き合え。強化も使って、全力で打ち込んで來い」
父上はルーベンスより木剣をけ取ると剣先を僕に向けて、余裕のある様子で挑発してきた。
僕は今までルーベンス以外と木剣をえたことがない。
その中で初対戦が父上とは思わなかった。
でも、父上の実力がどの程度なのか?
僕の実力がどこまで父上に通じるのか、気になった。
「良いのですね? では、行きます‼」
「來なさい」
父上が聲を発すると同時に、姿勢を低くして激しく大地を蹴った。
その瞬間、僕のいた場所に砂埃が舞い上がった。
見方によっては砂埃が突然起こり、僕が消えたように見えるだろう。
実際は、僕は大地を蹴った後、その勢いのまま一瞬で父上の足元まで間合いを詰めた。
先手必勝、僕は木剣で父上を斜め下から斜め上、逆袈裟に素早く斬り上げた。
だが、父上は僕が大地を蹴った瞬間から、きを見失うことはなかった。
むしろ、冷靜に観察する余裕すらあったじだ。
足元まで間合いを詰めた瞬間、目線だけ僕に落として、父上はにやりと笑みをこぼした。
そして、そのままあえて僕の斬撃を木剣でけ止めた。
その瞬間、木剣が激しくぶつかりあったことで強く乾いた音が周りに鳴り響いた。
僕の逆袈裟に切り上げたはずの木剣は軽々と父上に止められていた。
「ふむ。その年でこれほどの剣技と強化とは、末恐ろしいな」
父上は僕の斬撃をけて、心した様子で呟いた。
対して僕はけ止められたことに対しての尊敬と悔しさがこみ上げていた。
ルーベンスなら今の一撃でしはガードを崩せる。
だが、父上は一切崩せなかった。
つまり、父上はルーベンスよりも強い。
わかっていたことだが、上には上がいると思い知った瞬間だった。
「うん? どうした? これで終わりではあるまい?」
「……‼ 當然です‼」
父上の言葉にハッとした僕は、考えていた余計なことを振り払い、父上に集中する。
そして、そのまま連続で斬撃を繰り出していく。
だが、その斬撃すべては父上に軽くいなされ、防がれる。
そこで、僕はあることに気付いた。
父上からまだ一度も斬撃が來ていない。
恐らく僕の実力を見るためにけに徹しているのだろう。
圧倒的な実力差があるから出來ることかもしれない。
でも、悔しい。
僕はさらに斬撃の手數を増やす、だが結果は変わらない。
「ふむ。そろそろ、こちらからもいくぞ……」
「‼ ……クッ‼」
僕から、これ以上の攻めがないと判斷した様子の父上は攻勢に転じた。
その斬撃は鋭く、速く、重い。
ルーベンスの太刀筋とはまた違うものだった。
最初はなんとか防いでいたが、だんだんと手の覚が痺れてきた。
それでも、け流すことを意識してなんとか時間を稼ぐ。
だが、気づいた時には木剣は弾かれていた。
「ふむ。ここまでの実力であれば問題あるまい」
父上は息も切らさず、僕の実力に満足したように呟いた。
対する僕は木剣を弾かれたと同時に張が切れて片膝を地面に付いた。
「ハァ……ハァ……」
息をするのもつらい。
強化を使ってここまで疲れたのは初めてだ。
父上と対峙していた時間は普段ルーベンスとする訓練の時間より短い。
だが、集中力は比べられないほど消耗したじがする。
強化に使う魔力量や効果は自の神狀況も影響するのかも知れない。
必死に息を整える中で僕はそんなことを考えていた。
そんな、様子を見ていた父上は僕に言った。
「ふむ。木剣の訓練は合格だ。次は、リッドの膽力を見させてもらおう」
「ハァ…ハァ…膽力……ですか?」
父上の言った「膽力を見させてもらう」がどういったものなのか。
僕には知る由もなく、この時は怪訝な顔を父上に向けるだけだった。
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