ふむふむ。

グレンダお母さまの橫に陣取ったファビアは、どの方が第〇側妃で、誰を産んだ人なのかという説明を聞いていた。

まだ皇帝陛下と皇后陛下がいらっしゃっておらず、會場はガヤガヤとざわめいている。

だいたいは把握したなと思ったところで、両陛下の場だ。

「皆よく集まってくれたな。今日は、ディエゴの妃となる令嬢を紹介することも兼ねている。來月結婚式を挙げる予定のファビア嬢だ。」

ファビアは立ち上がると、綺麗に腰を折った。

「ファビア・ロンズディールと申します。皆さまよろしくご指導のほどお願いいたします。」

堂々とした挨拶だった。

皇帝陛下と皇后陛下が挨拶の言葉を述べると晩餐がはじまった。

意外と皇后陛下は他の妃に対しても通常運転で接しているなとファビアは観察する。

相當嫉妬深い格だと思われるが、最近は丸くなられたように思う。

グレンダと楽しく會話しながらさりげなく、他の側妃たちも観察する。

それにしても何人側妃がいるのだろう。

まったくすごい男だわ。皇帝陛下ってば。

まぁ容姿端麗な方だから、おモテになるのだろうけれど。

これじゃ皇后が怒るのも無理ないわよね。

「ファビちゃん。このお魚おいしいわよ。」

「まぁほんとですか？」

料理一品一品にも一喜一憂しているグレンダと楽しんでいたときだ。

ファビアの右側。すなわち皇后と逆の側で、皇后の聲がして、あらっ？と顔を向けた。

皇后がいつの間にか移していたのかと思ったのだ。

食事中に立つようなかたではないのにどうしたのかしら？

けれど皇后はそちらにはおらず、上座にゆるりとお座りになられている。

あら？

再び聲がするので、そちらをじっくり観察してみると…。

どうやらゲイリー皇子の母君が皇后とそっくりな聲であることがわかった。

え？

ふとある疑問が頭に浮かんだ。

待って…。

あの時の狀況を頭の中でフラッシュバックさせる。

もしかしたら…？

「お母さま。ゲイリー殿下の母君の第六側妃様はどちらのご出ですの？」

「メリア様？あの方はダリア皇后陛下のいとこに當たられる方で、帝國の公爵家の嫡流の方よ。とても尊きご分の方なのよ。」

侯爵家の嫡流？

ということはダリア皇后より家柄は上ということだ。

ダリア皇后は公爵家の分家のはずだ。

なのに皇后はダリア皇后…。

それにあの聲…。あまりにも似すぎているわ。

いとこなら似てもおかしくはないけれど…。

その日晩餐から部屋に戻り考えてみたがやはりあの聲が気になる。

「ゲイリー皇子殿下っておが弱いと聞くけれど、今はお元気そうに見えるのよねぇ。どこがお悪いのかしら？」

侍たちにさりげなく聞いてみると答えは返ってきた。

「小さいころはすぐに熱を出されるので、涼しいところが良いと、北部に療養に出られていて、ほとんどこちらには住んでいらっしゃいませんでしたわ。」

え？

「気候のよさそうな數か月だけをこちらで過ごされていました。今もほとんど部屋にこもっていらっしゃいます。小さいころよりはお強くなられたのでしょうけれど…。」

「北部ってどのあたりなの？」

ファビアの心臓がバクバクと脈を打ち始めた。

「モンタナ地方じゃなかったかしら？」

侍が他の侍に確認している。

「そうよ。ガーディアンとの國境の山岳地帯モンタナよ。今度またいらっしゃるそうよ。」

「え？」

ファビアが聲をあげると侍はファビアのほうへ向き直った。

「神殿にられる前に想い出の地を行腳されるのですって。し滯在されて帰ってこられるようですわ。」

なんですって！

ファビアは思わず聲をあげた。

「それはいつ？」

「え、えーっと。來週と聞いてますわ。」

ガタンっと思わず立ち上がる。

もしかしたらその時に‥‥何か事を起こすつもりなのかもしれないわ…。

行かなければならないわ。モンタナ地方へ。

「ファ、ファビア様？」

「來週までの間に暖かい乗馬服と食を用意して頂戴。他の侍たちには緒でね。そして…リンジー。ディエゴ殿下へ早馬を。リズはしこちらへ。そうだわ。アーグフルト殿下にも會わなければ。」

「「「はい。」」」

何事かとみんながきょとんとしているが、もしかしたら、ミルアーそしてガーディアンも巻き込んでの一大事になってしまうおそれがある。

慎重にことははこばねばならない。

そして、その3日後の夜中に、ファビアはこっそりと馬で宮殿を後にした。

リズにはグレンダお母さまのところへ最後に長期滯在するファビアに付き合うというで晝頃に馬車を出してもらうよう言ってある。

リンジーは今頃ディエゴと會っているはずで、ディエゴとは2日後には合流できると見ている。

宮殿のファビア付の侍たちには何事もなかったかのように結婚式の準備を進めてもらうよう言ってある。

みな信用できる者たちだ。問題はないだろう。

強行移だったが、次の日の夕方にはモンタナ地方に到著した。

侍の1人がモンタナ地方に知り合いがおり、侍の書簡を持參したら問題なく中にれてくれた。

「突然の訪問おゆるしくださいね。明日か明後日にあと2人男が參りますのでその者たちもお願いしますね。」

「ええ。お安い用じゃ。キシュアのたのみなら斷れないからのぅ。あの子は元気かね？」

「ええ。元気ですわ。」

貴族の屋敷ではなく、どうやら裕福な農家のようだった。

ファビアのこともキシュアの侍仲間だと思ってるらしく気さくな老夫婦だった。

さて、ゲイリーよりさきに到著できているはずだ。

これで明日から調査にかかれるわ。