《【連載版】落ちこぼれ令嬢は、公爵閣下からの溺に気付かない〜婚約者に指名されたのは才兼備の姉ではなく、私でした〜》2話 ヴァン・エスターク
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そして、経過する事、五日。
エスターク公爵家が主催するパーティー當日。
私は會場の隅っこで出來る限り人に気付かれにくいであろうポジションにて、想笑いを浮かべながらハクと會話していた。
「切実に。切実に、今、私は猛烈にハクになりたい」
『……それは、霊になりたいって事?』
「ううん、私が言いたいのは────」
私は、宙でふわふわと浮遊するハクに、羨の眼差しをこれでもかとぶつけながら答える。
「────その質が死ぬほど羨ましいってこと!!」
霊であるハクは、基本的に契約者である私以外にはその姿を認知されていない。
勿論、ハクが意図的に周囲に己の存在を認知させる事は可能だが、基本的にハクの姿は私にしか見えていない。
かれこれ、六年ほど參加を拒んでいたパーティーである。
姉のアリスが才として有名過ぎて、妹の私の落ちこぼれ合も有名になってしまったせいで、寄せられる數々の負のが篭った視線からどうにか逃げ出したかった私は、ハクのその質が死ぬほど羨ましかった。
出來れば代わってしい。今すぐに。
「ねえ、ズルくない? ハクだけズルくない? あぁぁぁあ、もうやだ。家に帰りたい。いや、家も地獄だった。自室で篭っていたい」
屋敷の中は両親や、口を平気で叩く使用人がいるので地獄だが、私の部屋はハクが周囲からの聲が聞こえないように仕掛けを施してくれている。
だから、自分の部屋は唯一とも言っていい私の安寧の場所であった。
「出涸らし」「落ちこぼれ」「出來損ない」「汚點」「欠陥品」
出來る限り、周囲の聲は拾わないように努めてはいるが、それでもどうしたって耳にはってきてしまう。
特に、まるで嫌がらせのように一々、私に視線を向けてくる人間が多いので嫌でも気付いてしまう。
両親も両親で、負けず劣らずの嫌悪のを向けてくるので、私のストレスゲージがとんでも無いことになっていた。
そして周囲の同世代の話題は専ら、良き伴を見つけられるでしょうか。みたいな話。
こうしてエスターク公爵家が主催するパーティーに參加した令嬢の大半は、彼との縁談が目的だろうし、仕方がないといえば仕方がないのだが、その話題で私を引き合いに出し、悠長に構えてるとノアさん(私)のように売れ殘ってしまう。
なんて事を本人がいる場で平気で言っている。挙句、侮蔑のような視線も一緒に向けてくるので始末に負えない。
正直、今すぐにでも會場から抜け出したかった。
「そう言えばさ、ハク」
『うん?』
「さっきからずっとエスターク公爵家の公子が見當たらないけど、一何をしてるんだろうね」
周囲に人一倍気を配っていた事もあって気付けた事実。
パーティーの初めの方まではいたが、それ以降彼の姿を私は見ていない。
どころか、エスターク公爵家の人間自が最低限しかこの場にいないような気がする。
私の単なる気の所為かもしれないけど、しその事が気になってハクに話してみる。
『何か裏方に回って準備をしてるとかじゃない? ほら、エスターク公爵家は今回のパーティーの主催者だし』
ハクの言葉は、確かにと頷いてしまうものであった。
ただ、それにしてはエスターク公爵家の使用人達がやけに慌ただしそうな表を浮かべているような……。
疑念を抱きながらも、私は私でこの場からどうやって抜け出してやろうかと思案する。
そんな時だった。
私の視界に、見覚えのある青年の姿が映り込む。まるで誰かから隠れているかのような様子で、限りなく死角とも言える場所に彼────エスターク公爵家公子、ヴァン・エスタークはいた。
しかも、余程バレたくないのか、魔法で隠形のカモフラージュまでしている。
……どんな事があるのかは知らないけど、ただを隠したいというだけの理由なら、才能の無駄遣いという他ない。
そう思いながら、私は何をしてるんですかと尋ねようとして────剎那、彼と目があった。
────なんで、俺の姿が見えてんの。
きっと、驚愕に目を見開いたヴァンはそんな事を思ったのだろう。
〝霊〟の才に目覚めてからというもの、こういった魔法による仕掛けは殆ど私には効かなくなってしまった関係上、見えてしまうのだから仕方がないとしか言いようがなかった。
しかし、驚いたのは彼だけでは無かった。
「……それ、と……白い、ドラゴン?」
「────え?」
彼の視線は、私の斜め上空────浮遊するハクへと向いた。
私を除いて誰にも見えない筈のハクの特徴を的確に口にした彼の発言に、私もまた驚いた。
ただ、誰かに見つかる訳にはいかなかったのだろう。生まれた驚愕のを一旦彼方へ追いやり、我に返ったヴァンの姿が掻き消える。
そして次の瞬間、彼の姿は何故か私のすぐ側にあった。
「……悪いが、俺はあのクソ面倒臭いパーティーに參加する気はないからさ」
────君には巻き込まれて貰うよ。
その言葉を告げて、ヴァン・エスタークに私は先程の死角と言える場所へ強制的に引き込まれる事となった。
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