《【連載版】落ちこぼれ令嬢は、公爵閣下からの溺に気付かない〜婚約者に指名されたのは才兼備の姉ではなく、私でした〜》20話 未知マニア
◆◇◆◇◆◇
「────キさんの」
本來であれば靜粛にしなければならない場所。走るなんて言語道斷な場所で、しかし私はばずにはいられなかった。
息切れを起こしていたせいで聲が掠れる。
でも、それでも。
「リキさんの、ばかぁぁぁぁあ!!!!」
現在進行形で、私は〝大図書館〟の中で猛ダッシュをしていた。背後から迫る〝青白い何か〟から逃げる羽目になったのは、100パーセント隣で並走するリキさんのせいだった。
「リキさんがあんな事しなければ今頃……!」
最後は、言葉にならなかった。
私はちゃんと提案したのだ。
絶好とも言える機會かもしれないけれど、絶対にヴァンを待った方がいい。
萬が一を考えれば、ヴァンのいない今、深追いをするべきではない、と。
けれど、私のそんな真っ當な意見を聞いた上でリキさんはこの好機を逃すべきではない。
後を追おう。
そう言って、乗り気じゃなかった私の手を摑み、半ば強引に追い掛けようとした。
それこそが、間違いの第一歩。
そして最大の間違いがハクの存在だった。
明らかに追い掛けるべきでない相手に対して、あろう事か、リキさんを止める役として活躍してくれるであろうハク(相棒)が私を裏切ったのだ。
要するに、ハクも追い掛ける賛派だった。
『ま、まあまあ、今はその、責めても仕方がないというか?』
「……これ、ハクのせいでもあるんだからね」
ぱたぱたと羽を羽ばたかせ、移するハクを私は睨め付ける。
ハクにも自分がこの狀況に陥った一因があると自覚しているのだろう。
あからさまにリキさんを庇っていた。
というか、ハクが反対してたら多數決でどうにか出來ていた筈なのだ。リキさんが正直に聞いてくれていたかは微妙なところだけど。
『……ぃ、いやいやでも、あそこで引き返してたらもう二度とアレに出會えなかったかもしれない訳で』
度々自分の世界にってまでハクが考え込んでいたことは知っている。
〝霊〟と関係の深いダークエルフが関わっていた事も含め、思う事があったのだろう。
それは分かる。
でも、だ。
「その結果こうなってるんだから、私の意見が正解だったんだよ……!! ハクは當分おやつ抜きだから……っ」
『そんな!?』
今はまだ怪我らしい怪我を負ってない事もあり、笑い事のようなもので済んでいるが、一つ気になる事がある。
「……でも、可笑しな事もあったもんだよな。試作品なら兎も角、魔導が使えねえ、なんて事はこれまで一度もなかったってのに」
全く発しなかった訳ではない。
発兆候はあった。
私達を追う〝青白い何か〟に対して、リキさんが懐から取り出した魔導を使おうとした────そこまでは何も問題はなかったのだ。
けれど、発した瞬間に魔導がその効力を失った。
そんな訶不思議な現象に見舞われたせいで、私達は逃げ出す羽目になっていた。
「故障、は考えにくいんだが、他に理由らしい理由も見當たらねえし」
己なりにリキさんが自分の考えを纏める。
そこで私はふと疑問に思った。
魔導が発しなかった事に対してではなく、男にしては痩軀で、どちらかと言えばに近い華奢な格のリキさんが全く息切れをしていない事についてである。
かれこれ數分は走っているのに、鳴を隠し切れていない私と異なって、かなり余裕そうだった。
若干、肩で息はしているものの、見たじ、鍛えてるようには思えないのにどうしてそんなに余裕そうにしているのだろうか。
私がそんな疑問を抱いていた丁度その時だった。
「……ただ、こっちの強化の魔導も普段よりずっと効果が薄れてんだよな。この程度の距離で普通は息切れを起こす筈ねえんだが」
何処からともなく取り出した魔導を見て、リキさんは答えを口にした。
「……私が必死に走ってる傍で、諸悪の源のリキさんはそんなものを使ってたんですか」
「え? ぁ、いや、その、えっと、」
巻き込むだけ巻き込んだ自分だけ楽して、私は必死に走っていたと思うと、途端に馬鹿らしくなった。
同時、ふつふつと殺意のようなものが湧き上がる。
「へえーそうですか。あーそうですか。リキさんはそういう人なんですね。よく分かりました」
自分の発言ながら、なんて棒読みでの篭っていない言葉なのだと思わずにはいられない。
けれど仕方がない。
こればかりはリキさんが悪い。
ハクだって、何も言えないのか、無言を貫いているのがその証拠である。
やがて、リキさんは私の視線から逃れるべく何度も視線を泳がせた後、その場凌ぎをするように口を開いた。
「そ、そういえば、おれ達隨分と走ってると思わねえか?」
どうにも、私と同様、力に自信がない人のようで強化の魔導を私に貸すか否かを葛藤しながらそんな疑問を投げ掛けてくる。
────いや、そこは私に貸してくれていいじゃん。
つい、元まで出かかった不満を私は飲み込んだ。
「……確かに、そうですね」
々と不満はあったが、現狀把握に努める。
なのであまりアテにはならないが、なくとも五分以上は走っている。
あの裏口からそこまで歩いた記憶もなければ、確かに〝大図書館〟は広かったが、表のり口まで五分走っても著かないほどの距離があるようには見えなかった。
なのに、私達は未だに走っている。
逃げる事に必死になっていたから疑問に思わなかったけれど、言われてもみればそうだ。
「未だに辿り著く様子もないし、こりゃ、考えられる可能は一つだけだな」
答えは私でも分かる。
「恐らく、これが一連の〝失蹤〟の正で、おれ達はそれに巻き込まれたと考えるべきだろうな」
魔法による仕掛けが作したのか。
はたまた、魔導による何かか。
判然とはしていないが、何らかの事象に巻き込まれたと考えるべきだろう。
運が良いのやら、悪いのやら。
……いや、ヴァンと合流出來ていないのだから、これは運が悪い部類だ。
『……ちなみに、失蹤した人間が見つかったケースは?』
「あると言えばある」
「……なんですか、その含みのある言い方は」
初対面だからと私の中にあったリキさんへの遠慮は、先程までのやり取りの間で極限まで削り取られていた。
責めるような言いをする事への抵抗がもう一切と言って良い程に存在していない。
「気を失って見つかった生徒がいたって話はもうしただろ?」
「ええ、それは聞きましたけど」
「失蹤した筈の一部の生徒が、見つかったケースもあるにはあった。ただ、それは気を失った狀態でかつ、數日経っても目覚めない重癥化つきの狀態で、なんだわ」
要するに、無事で見つかったケースがないから素直に「ある」と答えられなかったということか。
────いやでも、待ってよ。
「……それって、もしかしなくてもお姉様と同じ癥狀なんじゃ」
何かが私の中で繋がったような気がした。
この考えが的外れでないならば、〝大図書館〟での一連の騒に、なくともダークエルフが────〝霊〟の存在が噛んでいる事は確かなものとなる。
しかし、そこまでだ。
核心の部分にまでは踏み込めない。
なくとも、この〝大図書館〟で何が起こっているのか。それを突き止めない限りには。
「というか、どうしてリキさんはそれを先に話してくれなかったんですか」
「治療方法が分かってる訳でもなし、それに、本當に同じ癥狀かどうかの確信がおれにはなかった。だから変に勘違いをさせる結果になる事は避けようと思って話さなかった」
意外にも尤もな理由だった。
とはいえ、である。
「……ただ、々と理解出來たのは良い事だが、出口に辿り著くどころか、ヴァンとも合流出來ねえんじゃ、完全にジリ貧だなこりゃ」
未だ走り続けているが、辿り著く気配はない。同じような景が延々と続いている。
私達の力が盡きるのが先か、正不明の〝青白い何か〟に捕まるのが先か。
そういう話になってしまっている。
「だが、ここで力切れを起こすくらいなら、は試しで々とやってみるのも手ではあるよな」
顔の向きはそのままに、視線だけがく。
私と。そして、ハクへ。
「たとえば、魔法をドカンと一発撃ってみるとか。尤も、あんたの場合は〝霊〟になるんだろうが」
割とその提案はアリな気がした。
けれども、それをするならば息を切らしている私ではなく、リキさんがすべきではないだろうか。
「無理無理。おれの場合は魔導製作の能力全振りだから、魔法はからっきしなんだわ」
……丁度、私の頭の中を覗いたのではと思ってしまう程にピンポイントな言葉がやってきた。
なんて頼りにならない人なのだろうか。
「……ハク。手伝って」
『分かったよ』
何はともあれ、ここはやってみるべきだろう。正不明の〝青白い何か〟に相対する事に顔が引き攣るけれど、そうも言ってられない。
逃げる足を止め、相手と向き直って直視。
逃げ出したいに駆られたけれど、それらをどうにか押し殺して私は編み上げる。
「よ────」
相手は幽霊のような存在。
ならば、どこぞの語のようにで浄化など出來てしまうのではないか。
殆ど願のような思考回路だが、それに従い私は霊を行使。
そうあれかしと願う。
やがて、確かな手応えと共に霊が発────聖がごときが敵に降り注ぐ……と思われた瞬間、編み上げた筈の霊が何故か掻き消された(、、、、、、)。
「────え」
まるで薄れて消えるような。
リキさんの魔導の時と同じような景が、私の目の前で広がった。
『……ッ、ま、ず』
足を止めてどうにかしようと試みた事で、ある程度存在していた距離がまってしまっていた。
恐らく、敵の程圏。
故に、迫したような様子でハクが言葉をらす。
霊が何の予兆もなく、掻き消されたという事実を前に呆けていた私は、即座に逃げるという事が出來なかった。
次いで、焦燥に駆られたハクもハクで霊を行使にかかるも、それすらも掻き消される。
しかし、何故かその速度が私よりもずっと遅かった。
……意味が、分からない。
「……やっぱりそういう事かよ」
最中、妙に納得したような様子で忌々しげに呟くリキさんの言葉が頭に殘った。
直後、手を取られ、ぐぃ、と引っ張られる。
「足止めは無理らしい。ちょいと時間をくれ、どうにかおれが────」
ジリ貧と分かっていながらも、足止めが無理ならば必然、逃げるしかない。
そう理解したリキさんに手を引かれ、再び足をかそうとした、その時。
「…………こっちだ」
覚えのない聲が聞こえてきた。
が希薄な、消えりそうな聲。
私達の目の前に姿を現していなければ、気づく事はなかったであろう青年。
何故ここに人が……?
と、一瞬思うが、目の前の人が失蹤した人間なのではないか。
そう思ったと同時、そばにいたリキさんの顔が滅茶苦茶引き攣っている事に気づく。
まるで、どうして貴方がここにいらっしゃるのですかと言わんばかりに。
リキさんは公爵位を賜った家の人間。
あからさまに敬意を払うべき人間は限られている立場だからこそ、その態度にしだけ違和が殘った。
でも今は、理由を考えてる時間すら惜しい。
力の限界もすぐそこ。
それもあって、私達は突如として現れた青年の言葉に従う事にした。
「……聲を出すなよ」
無數に並ぶ本棚で生まれた隙間に私達を引き込むと、立てた人差し指を口元に當てながら、青年は言う。
隙間とはいえ、橫からは丸見えのこんな場所でやり過ごせるとは到底思えなくて、「何を考えているんですか」と言いたくなる。
けれど、聲を出すなと言われてしまった手前、反論らしい反論も出來なくて。
もうどうにでもなれと自棄になりながら、すぐそばを通り過ぎる〝青白い何か〟に気付かれるのではと戦々恐々として────。
(……なん、で?)
明らかに私達に焦點を當てて追いかけて來ていた筈のソレは、すぐそばで杜撰すぎる隠れ方をしていた私達に一切気付く事なく、通り過ぎた(、、、、、)。
全くもって意味不明、理解不能な現象を前に、私はどうなっているのだと聲を上げようとしたが、先んじてリキさんが口を開いていた。
「……どうしてこんな場所にいるんですか。殿下(、、)」
でん、か?
「いやなに、知識に負けてな。それと、ここらで王都を騒がせる賊徒の鼻っ柱を折ってやるのも楽しいなと思ったのだよ」
〝青白い何か〟が過ぎ去り、ある程度の距離が生まれた事を確認した後、殿下と呼ばれた青年は楽しそうにそう答えた。
「賊徒の、鼻っ柱……?」
まるでそれは、〝大図書館〟で起こっている一連の騒が、王都を騒がせている帝國の人間とダークエルフによるものだと「確信」を得ているかのような言いだった。
疑問が多過ぎて、頭がパンクしてしまいそうだ。
「ああ。これでも一応、王子のであるからな。放だなんだと好き勝手言われているが、偶には貢獻してやるのも悪くなかろう? 特に、ダークエルフと帝國の奴等には好き勝手やられてる訳なのだから」
どうにも、彼は正真正銘、王子様であるらしい。引きこもりだった私でさえも、第一王子と第二王子の顔は見たことがある。
その記憶に引っかからないという事は、銀髪の彼の正が第三王子ラバン・ノーレッドであるという何よりの証拠であった。
マグノリア公爵家が後ろ盾となっている王子だからこそ、リキさんが顔を引き攣らせているのだと解釈も出來る。
最早確定だった。
……確かに、私達の中でも今回の〝大図書館〟での一件も帝國の人達が絡んでいるのではという予はあった。
けれど、機やら、理由が不明だった。
「奴らの狙いは、この〝魔法學園〟の地下に眠る〝聖〟の奪取。その為に私達の國は掻き回され、混に陥った。さっきの化も、その副産だ」
「……〝聖〟?」
もう、分からない事だらけだった。
『簡単に言うと、古い力を持った魔導だよ』
「知ってるの? ハク」
『まぁね。でも、〝聖〟ってのはそんなに使い勝手のいいじゃなかった筈だけど』
「────その通り。〝聖〟は間違っても使い勝手の良いものではない。だからこそ、この空間が生まれ、あの化さえもが跋扈している」
……最近、ハクの姿を見れる人が多いせいで覚がおかしくなってる気はするんだけど、それでも多過ぎる気がする。
貴方もハクの事が見えるんですねという指摘をどうにか飲み込み、私は殿下の言葉をけて溜息をらすリキさんに視線を移した。
「やはりそうですよねえ。まあ、薄々勘付いてはいましたが、さっきのノアさんのアレで確信に変わったところでした」
「……どういう事ですか」
私を當て馬にしたという事だろうか。
責めるような視線を向けると、「確証がしかったんだよ」とリキさんに目を背けられた。
「要するにこの空間は、魔法や霊の行使に必要な〝エネルギー〟を吸収してるって事だ。そしてあの化は、〝エネルギー〟に反応している可能が高い。というより、それでほぼ間違いない。そうでなければ、すぐ側を素通りしてくれる訳がないからな」
こんな杜撰な隠れ方にもかかわらず、バレなかった理由を教えてくれる。
何らかの方法で隠してくれたのだろう。
「恐らく、失蹤者は生命力のようなものを奪われた結果、目覚めないのだろうよ」
「でも、どうしてそんな事を」
『そのエネルギーが、〝聖〟を使う為の代償として使用されるって事じゃないかな』
……ああ、そういうことか。
「なら、その原因を突き止めて、魔導なら魔導を。魔法陣なら魔法陣を壊せって事ですね」
やる事が決まっているなら話は早い。
「その通りだ。が、闇雲に探しても見つからないだろう。現に、かれこれ一日以上彷徨っているが、それらしきものを見た試しがない。あの化が本なのかと疑いはしたが、どうにも違うようであるからな」
「る程……」
人から奪う事を前提にして作られているならば、何らかの対策を立てていても不思議じゃない。
闇雲に探し歩いても確かに時間の無駄だろう。
ならば、今ある手掛かりをもとに考えて行をするべきだろう。
「……そもそもの可能として、私達が閉じ込められてる場合、この空間は〝擬似固有結界〟に近い筈……」
ヴァンと共に編み出した〝ディア・ガーデン〟に似通った何かである可能は高い。
それを前提に考えれば、ある程度見えてくるものがある。
學の手続きをする必要があるかと思って攜帯していたペンを私は取り出す。
紙は常備していなかったので、心の中で「ごめんなさい」と言って床にガリガリと私は書き込む事にした。
「魔法を始めとしたエネルギーを吸収してる場合、空間そのものとは別の魔法陣として組み込んでる可能が高くて────私だったら、その魔法陣はここに置く。でも、魔法師的にはこれはベストじゃない。だったら、」
『一応、向こうにはダークエルフがいる。だからノアや僕みたいに霊師としての視點で考えても良いかも』
「あぁ、そっか。だったらここは────」
ヴァンと一緒に魔法の勉強をするようになってから、こういう考える事が割と好きになっていた。
何かを一から生み出す事も同様に。
何より、この一件にあの散々迷を掛けてくれた帝國の人達が絡んでいるなら、彼らの企みを滅茶苦茶にしてやり返したいという想いも強かった。
おで、やる気に満ち満ちていた。
「意外だな」
最中、ラバン王子の聲が聞こえた。
邪魔をする気はないのだろう。
ただ思った事を口にしているだけの様子だった。だから、返事をせずに私に出來ることを続行しようとして、
「ヴァン・エスタークが好いている人間だ。もっと大人しくて、人畜無害な人間なのかと思っていたが、そうじゃないのだな」
「ぶっ」
ガリッ、とペンが斜め上へと無骨な線を描いた。揺から、手元が狂ってしまったらしい。
『……何をしてるのさ、ノア』
「い、いや、その、な、なんでもありません」
私に話しかけている訳じゃなくて、これはただのラバンさんの単なる想。
でも、ヴァンのその好いてるはあくまで友達として、だと思いますよと言おうか迷う。
でも、だったら今の私達の婚約者という関係が説明出來なくなる。
それには深い訳がと説明する訳にもいかないし、した場合、々と面倒臭い上にヴァンの厚意が無に帰してしまう可能もある。
最善は何も言わない。
聞こえないフリを通す。
絶対にこれに限る。
「だが、惚れた理由は分かる気がするな。リキへの態度も良い意味で遠慮がない。普通、放王子だろうが、公爵家の跡取りと王子に囲まれていたら多なり構えても可笑しくないだろうに。ただヴァン・エスタークにはそれが心地良かったのだろうな。ああ、その通り。心を許せる友人はいつの世も貴重なものだ」
……いや、これでも十分構えてます。
でも、位の高い人間だからといって、誰も彼もが失言一つで打ち首に────なんて理不盡な事をする訳でもないし、何なら親しみやすく優しい人ばかりだ。
明らかに怖そうな人ならまだしも、そうでないならばおっかなびっくりビクビクするのもアホらしいかなって思ってこうしてるだけ。
ただそれだけだった。
「それとも、それをしても問題ないと思えるだけの裏打ちされた実力があるという事なのか。ならばその自信はどこから湧き上がってくるのか。いやはや、実に興味深い。貴は未知だ。これ以上なく心をくすぐられる」
……なんか興味を持たれていた。
たぶん、これあれだ。
この方、変人だ。
ツッコミどころ満載だけど、ここでツッコんでしまったら碌なことにならない。
集中していたから聞こえていなかったふりを通すべきだという予があった。
「何より、霊を連れている事にも興味を惹かれる。霊については殆ど文獻が殘っていない。特に、霊に好かれる人間は稀有であるらしい」
思った事がそのまま垂れ流されてゆく。
私を凝視している筈なのに、ぴくぴくと痙攣を起こしながら引き攣る私の表にラバンさんは気付いていないのだろうか。
「ああ、気になる。私は貴の事にどうしようもなく気を惹かれているらしい。まるでを締め付けられるようだ。……そうか。これが、そうなのか。これが俗に言う────「」という奴なのか」
「いやそれただの好奇心です」
……流石の私も我慢の限界だった。
これ以上放置していては取り返しのつかない事になりそうで、口を挾んでしまったけどこのラバン王子を私がどうこう出來る気がしない。
知り合いなんだからどうにかして下さいと、縋るような視線をリキさんに向けてみる。
「この人……じゃない。この方、世間じゃ放王子だなんだと言われてるけど、一言で言い表すなら知識の塊みたいな人なんだよ。基本的に、殿下に知らない事は殆どないと思った方がいいレベルで。だからなんだろうぜ。この方は、その、有りに言うなら「未知」マニアなんだよ」
要するに、変人という事らしい。
なんて面倒な人なんだ。
「つぅわけで、その、なんだ。諦めてくれ」
おれにも無理。と無にも返された。
やがて、私が手を止めてラバンさんを見つめ返してしまった事もあり、何故か流れるような所作で手を取られた。
滅茶苦茶整ったお顔が私の視界に映り込む。
ラバンさんに見つめられでもすれば、コロッとに落ちてしまうもいるのではないだろうか。
端正な顔立ちに加え、落ち著いた聲。
加えて、分は一応王子様である。
私も何も知らなかったら、心臓の脈が速くなっていたかもしれない。
でも、目の前のこの方は私を好奇心の対象としか見ておらず、加えて中は変人だ。
おで熱に浮かされる事もなく、これ以上なく冷めた目で見る事が出來た。
「ところで、この騒が落ち著いたら一度、城に來ないか。落ち著ける場所で是非とも話を」
城に赴いてみたいという気持ちがゼロと言ったら噓になる。
でも、それに至るまでの心労やらを考えたら行く気にはなれないし、何より今の私はヴァンの婚約者であって。
そんな私が幾ら王子殿下とはいえ、男二人で────というのは拙いにも程がある。
だから斷ろうとしたその瞬間だった。
「────漸く見つけた、と思ったら、何をやってるんですか。殿下」
親しみ深い聲と共に、握られていた手ごと、べりっと容赦なく引き剝がされた。
心なし、怒っているような気がする。
否、怒ってるんだろう。
視線を若干上に向けると、無表ながら聲の主────ヴァンは知り合いならば辛うじて分かるレベルで苛立ちをあらわにしていた。
そのそばで、100パーセント他人事だったリキさんは、「おっ」なんて呑気に言っていた。
それもあってだろう。
「この狀況。それと、どうしてここに殿下がいるのか。全部事細かに説明して貰おうか────リキ」
「……おれかよ」
ヴァンの怒りの矛先は、容赦なくリキさんへと向いた。
まあ、諸悪の源はリキさんだし、その怒りは全然間違っていないので同する気にはこれっぽっちもなれなかった。
モチベ向上に繋がりますので、
もし良ければ広告下にある☆☆☆☆☆評価や、ブックマーク等、応援いただけると嬉しいです…!!
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