玲奈は、自分の家が普通ではないと、い頃から気付いていた。

父の雅紀には正妻の沙耶と娘の玲奈、妾の織と娘の里がいる。

雅紀は沙耶と玲奈を疎み、織と里をした。

雅紀が玲奈に笑いかけた事は、ただの一度もない。

それが異常な事なのだと、玲奈はい頃から気付いていた。

もし玲奈がを知らない子供だったら、すぐには気付かなかったかもしれない。

けれど、沙耶は玲奈にたくさんのを注いだ。

その反面、雅紀や織、里から憎まれた。

この相反するに挾まれて育った玲奈は、気付けば大人びた子供に育っていた。

きっかけは沙耶を守りたい、というからくるものだった。

沙耶は生まれつき心臓が弱かった。そのため無理はできないのだが、沙耶は玲奈の面倒をできるだけ他人に任せないようにしていた。信頼している使用人の斉藤にすら、自分がやるからと引きけていた。

學校行事にも、可能な限り參加していた。

い玲奈にも、どれだけ沙耶が自分を大事にしていると理解できた。

そうして思う。

“なぜお父さまはお母さまに冷たいの？”

そもそも玲奈は最初、自分こそが妾の子なのだと思っていた。

雅紀や織、里から憎まれ、斉藤以外の使用人すら自分達を見下している。

だから噂の端々で聞く“妾とその娘”が自分達の事なのだと思っていた。

だからこそ玲奈は沙耶のを守るために、どうすればよいのかを必死に考えた。

そのために、周囲からの報を集め、どれだけ辛くても與えられた課題を必死にこなした。

そうしていくうちに、自分が正妻の子であり、元華族の家系の生まれだと知ることもできた。

しかしい玲奈は無力だった。

そもそも使用人は沙耶が正妻だと知っている。

知っていてあの蔑むような目をするのだから、玲奈にはどうしようもない。

加えて、沙耶は自の生まれである三條家の話をしなかった。

一度だけポツリと家族とは折り合いが悪いのだと寂しげに微笑んでいた。

母親の悲しい表を見ていられなくて、玲奈はそれ以上なにも聞けなかったのだ。

そして玲奈が8歳くらいの頃から、沙耶の調が徐々に悪化していった。

寢込むのが一週間に一度ほどだったのに、1日、1日と増えていき、気付けばほとんどベッドから起き上がれなくなっていた。

斉藤は沙耶にかかりきりになり玲奈のに大きな不安が棲みつくようになる。

その不安を打ち消すために、玲奈は勉強に明け暮れた。

心配する沙耶に大丈夫だと笑いながら、必死に生きていた。

それでも玲奈の隣には、いつもぽっかりと深淵が付きまとう。

しかし、そんな暗闇しか見えない生活にがしたのは、意外な事に雅紀が持ってきた縁談がきっかけだった。

『玲奈さん、僕は君を笑わせたいんだ。もしダメならその時は斷ってもいいから、僕の婚約者になってほしい』

しい黒髪と、海のように深い青の瞳を持つ年が、慈しむように玲奈を見つめた。

不安や憤りに押し潰されそうになっていた玲奈のに小さなが燈った瞬間だった。