《社畜と哀しい令嬢》宮森雅紀
宮森雅紀の人生は、父親の雅彥に決められたものばかりだった。
い頃から會社の後継者として経営學や帝王學を學び、常に雅彥の命令に従っていた。
友人付き合いも全て雅彥に管理され、抵抗するでもなく従っていた。
だから雅彥が婚約者として三條沙耶を連れて來た時も、ああこれが婚約者なのかと無に思っただけだった。
しかし沙耶はしく優しいで雅紀はなんだかんだ、彼の事をけれていた。沙耶もまた雅紀といい関係を築きたいようだった。
それが煩わしくなったのは高校にってからだ。
高校で雅紀は斉木織という可らしいと出會った。織は気付いたら雅紀の近くにいて、雅紀の境遇に同した。
その頃の雅紀は績が思うように上がらず雅彥によく怒られていた。
織は落ち込む雅紀の手を握り、雅紀の話をじっと聞いてくれた。
一方、沙耶は病気がちだが績も良く優秀で、彼の名前が上位績者の一覧に載っているだけで腹が立った。
何もできないくせに。金だって自分の家が出しているのに。
雅紀の中で苛立ちが募っていった。
織に婚約の話をすると自分の事のように憤慨してくれた。
「家が結婚する人を決めるなんて酷いわ! しかもお金が目當てだなんて…。私なら、絶対にあなたを大事にするのに」
暖かい手を雅紀に重ねて潤んだ瞳で見上げる織に雅紀はをした。
を自覚した雅紀は早い段階で織とを重ねるようになった。
バレたらいけないと思うと余計に気持ちが深まり、自分を縛り付ける雅彥も三條家も沙耶も憎かった。
そんな時、織が沙耶から嫌がらせをけていると聞いて憎しみに侮蔑が加わった。
雅紀は沙耶を糾弾しようとしたが、織は必死になって雅紀を止めた。
「私たちがいけない事をしてるって分かってる。だから彼が私に嫌がらせするのは當然だわ。お願い、問題にしないで」
なんて優しいなんだろうと、雅紀はどんどん織に心酔していった。
元兇の沙耶に注意をしたが、しらばっくれて話にならない。ついでだから婚約の解消も申し出た。
沙耶はその場では空々しく了承したが、結局三條家は引き下がらなかったし、雅彥も説得できなかった。
雅紀が抵抗を示し続けた結果、結婚後は織を本宅に住まわせていいと言われてしぶしぶ沙耶と結婚をした。
顔も見たくなかったから最初の段階で離れに追いやり、せめてもの妥協で昔からの使用人だけはつけてやった。
雅紀は沙耶などどうでも良かったが、後継を作れと言われて何度か沙耶を抱いた。
しいだが細すぎてつまらなかった。織なららかくて程よい付きで最高なのに。
嫌々抱いたというのに沙耶はを生んだ。男であれば後継に出來たのに役に立たないだと雅紀は呆れた。
生まれたは可くもない赤ん坊でまるで興味が持てない。
それに比べて織が生んだ里の可らしい事といったら。らしくてまるで天使のようだった。
雅紀は何が何でも里を幸せにすると決めていた。
だから沙耶が生んだ娘は駒として扱うことにした。宮森家の生まれでそこそこ優秀であれば良縁も結べるだろう。それぐらいでしかあの母娘は役に立たないのだから。
雅紀が沙耶と玲奈をぞんざいに扱えば扱うほど、使用人達の態度も橫柄になっていたらしい。雅紀がそれを聞いた時には思わず笑った。せいぜい慘めな人生を生きればいいのだ。
気にらないのは、玲奈が沙耶を見舞えと本宅に來ることだった。調子が悪いなどと仮病を使われてはかなわない。よしんば本當に調が悪いとしても、雅紀になんの関係があるというのか。
里も事あるごとに玲奈から嫌がらせをけているようだったので、の程を弁えさせるために習い事をたくさんやらせた。
玲奈が使えると思ったのは、元華族の中でも格式の高い鷹司家の縁談がった事だ。
鷹司家ならば文句はない。さっさと嫁に出してしまえばいい。
後継についても、醫者も沙耶が長くないと言っていた。そうなれば正式に織と結婚して二人目、三人目を設けることができる。
沙耶の調が悪化して死んだ時は流石に気の毒だと思ったが、天の采配だと思った。これで織と結婚できるのだ。
織も沙耶の死を悼みながら雅紀の気持ちをけれてくれた。
一つ困ったのは、葬儀で鷹司憲人を見た里が彼と婚約をしたいと言い出した事だ。
しかし憲人は既に玲奈と婚約をしている。だが、破棄して里と結び直せばいいのだとすぐに思い立つ。
念のため玲奈の連絡手段を斷って執拗に監視をつけた。
しかし雅紀の打診を鷹司家は突っぱねた。三條家と違って鷹司家には弱みがない。
財力も家格も格上の鷹司家には雅紀も強引に事を運べなかった。
會えば里の素晴らしさが分かるだろうと、里を玲奈に変わって公式の場に連れて行き鷹司家に引き合わせたが、暖簾に腕押し狀態で話ができない。
しかも玲奈と婚約破棄の場合は婚約話自を打ち消すと言われた。
雅紀はここにきて初めて悩んだ。
里は憲人との話はどうなったのかと、事あるごとに聞いて來る。鷹司家からも玲奈と連絡が取れないと連絡が來る。
玲奈がいなければと何度思ったか分からない。
焦れていた頃に、鷹司憲史から電話があった。
『以前打診された婚約の件なのですが、やはり難しいと思います』
電話口の言葉に雅紀は苛立ちを抑えて聲音を明るくした。
「そんな事を仰らず……里は気立ての良い娘なんです。もっとお會いすればきっと分かっていただけます」
『仮にそうしたとして玲奈さんはどうなるのでしょう?』
「玲奈も納得してます」
全くの噓だが雅紀にはどうでもよい話だ。バレなければいいのだから。
それよりも今まで頑なにNOと言ってきた憲史が仮の話をした事に雅紀は気付いた。
『ですが婚約すれば必ず會う事になるでしょう? こちらとしては気まずいのは困るんですよ』
「いやいや、會わせないようにできます!」
『実のお子さんではないですか。それは不可能ですよ。他人の子ならばともかく』
憲史の言葉に、雅紀はいけると確信した。
問題は、玲奈が雅紀の子供で、これからも會う事になる、その時に気まずくなるのが嫌だ、という事だろう。
「もしその問題が解決したら、里と婚約して頂けますか?」
『今はなにも言えませんが、考えてはみましょう』
渋っているような言いだが、雅紀は大丈夫だと自信をもった。
きっと里とあった事で里の素晴らしさが分かったに違いない。鷹司憲史は雅紀にチャンスを與えたのだ。
「お任せください」
雅紀は満面の笑みを浮かべて電話を切った。
雅紀は笑みを抑えられなかった。
要は玲奈をどこかに養子に出せばいいのだ。
後継問題を抱える富裕層が養子を迎えたり一族に渡すことは珍しい事ではない。
後々の後継問題のために玲奈を出したとしてもおかしくないのだ。
さてどこに養子に出そうか、と雅紀が悩んでいた數日後、三條義政が訪ねてきた。
先日金銭援助差し止めの話をしたから、どうせ金をたかりに來たのだろうと門前払いをしようとすると、金の話ではないという。
玲奈の事で話があると言われオフィスに通すと、三條義政は殊勝な顔で頭を下げた。
「君には今まで苦労をかけたね。まない婚約を結ばせて済まなかった。儂も沙耶が死んで己の罪を悟ったよ」
プライドの塊のような老人に頭を下げられて雅紀は目を見開いた。
ただの人でなしだと思っていたが、人間のが通っていたのかと驚く。
「君にも沙耶にも罪滅ぼしがしたい。そこで考えたのだが、儂が玲奈を引き取れば君の負擔減るだろう? 玲奈を儂のところに養子に出してはくれないか」
雅紀はタイミングの良さに思わず立ち上がった。
こんなにも全てが自分の思い通りに進んでくれるとは思わなかった。
まるで示し合わせたかのような、そうである事が當然なのだと神が言っているような気がした。
「ですが玲奈は私の娘だ。養子に出すのは辛い」
それでも裁を取り繕って雅紀は躊躇いをみせた。
「再婚相手には娘がいるそうじゃないか。それに後継の問題もあるだろう? 火種はない方がいい。その方が誰も傷つかない」
義政はあくまでも玲奈を引き取る姿勢だ。
あの鬼畜がいったいどうしたのかと思ったが、下手にごね続けて破談になるのは好ましくない。
「ええ、まあ、そうですね」
「それじゃあ……」
「はい。玲奈を三條家の養子にして下さい」
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