《社畜と哀しい令嬢》その日の終わりに

「とりあえず日永さん、お疲れ様でした。急だったのに細かいところまで調整してくれてありがとう」

「お疲れ様でした…。私としても學ぶことが多かったです。それになかなかあの年代の子と話せる機會もないですしね」

花霞學園での一回目の研修が終わり、智子と森川は會社で燃え盡きていた。

研修自は形式を決めていたためスムーズに進んだので、初めてにしては良かっただろう。

「それにしても皆優秀だったね。特にあの子、凄く綺麗なの子。宮森さんだっけ」

思いがけず森川から出てきた言葉に智子は一瞬揺しながら頷いた。

「そうですね。コンセプトの作り方が上手というか。趣旨を良く理解して発言してくれてましたね」

「ああいう子がうちに來てくれると助かるなあ。適當に企畫立てする奴より100倍も使えるよ」

森川の呟いた毒に、智子は中お察ししますとばかりに穏やかな笑みで同意を示した。

そして脳では森川に認められた玲奈を褒めたたえていた。

くして森川さんに褒められるだなんて流石私の玲奈ちゃん…!)

実際に智子の目から見ても玲奈は非常に優秀だった。

研修の流れを説明後、複數のグループを作ってそれぞれのグループで商品発案の話合いを行った。

森川と智子は全てのグループを回ってアドバイスをする役割を擔っていたが、マーケティングに関する授業もあるようで拙いながらも生徒の案の出し方は良かった。

ただ、玲奈のいるグループはそれよりも一段階も二段階も上だったのだ。

案を出す際に企業お抱えの職人を配置して生徒に質問をさせていたのだが、大抵が「この商品を作る事が出來るか、どんなものがあるか」という分かりやすいものが多かった。

しかし玲奈のグループは出した案に対しての原価と利益率、収益などが加味されてそれに倣った質問をしてくるのだ。

(かっこいいところを見せるどころかかっこいい玲奈ちゃんを見る羽目になるとは…幸せ…)

「でもグループの雰囲気は良くなかったね」

空気を読むことに長けている森川の発言に一瞬眉を顰める。

「はい。宮森さんの発言を聞いている割によそよそしい雰囲気でしたね」

「優秀な子は妬まれるって事かな。もったいない」

「ほんとうに」

智子は知らないフリをしたが理由は明白だ。

あの學園は玲奈ではなく里の力が大きい。教師が里の味方なのだから、生徒もそれに倣うしかない。

下手に里を怒らせて「里のお父様」が出てくるのを學園はんでいない。

早々に、早々にあの學園から玲奈を出したいが今はまだ我慢しなければならない。

(実際に見たけど確かに里は可かったわね)

最初見た時は嫌いな人間に會った、というよりも実在したのだという衝撃で息を飲んだ。

里は見目の良い年たちに囲まれて大人しそうに微笑んでいた。

智子に対する想も良かった。

恐らく玲奈の事を知らなければ、可くてじの良いの子だと思っただろう。

しかし時折、森川に褒められる玲奈を憎そうに見ていた。

それだけで玲奈への歪んだ執著と格の悪さがけて見えた。

それに加えて里のグループの容を見るに、彼の能力は高くない。

里のグループは里の意見を中心に話が進んでいたが、出てくる案の大がお話にならないものが多かった。

その里の案を年たちが絶賛する、という流れで進行してるように見えてもしていない。

軌道修正に苦労しながら、このバカたちが日ごろから玲奈をげているのかと思うと、智子は腹が立って仕方なかった。

日ごろこの年代にれない智子が知るのは玲奈と憲人だ。この二人を見ているとどうにも彼らは「品」が無い。

「あ、日永さん。朝言った話について、明日時間取れるかな」

智子が研修のまとめを一心不に打ち込んでいると、席に戻った森川が聲をかけてきた。

「朝……あ、承知しました。よろしくお願いします」

思考が急に中斷されて一瞬呆けたが、意味を理解して智子は頭を下げる。

(玲奈ちゃんと連絡も取れるようになったし話も進んでるし……気を抜かないように頑張ろう…!)

智子はデスクに置いてあったコーヒーを一気に飲み込んで、再びキーボードを最速で叩いた。

(遅くに帰ってなんかいられない! やっと玲奈ちゃんとメールじゃなく話ができるんだから!)

その日の夜、しだけ早く帰れた智子は久しぶりに玲奈とのテレビ電話を楽しんだ。

今まで我慢してきた分、玲奈はたくさんの事を智子に話してくれた。

だからひとしきり玲奈の話を聞いた智子は、これからの話を玲奈に聞かせた。

有意義な夜だったと言えるが、一つだけ反省した事がある。

あまりにも會話が弾んで、気付けば夜中になっていたのだ。

これから保護者になるとしては、減點ものである。

だけど智子にとっても、玲奈にとっても、その日は何十年経っても忘れられない特別な日になった。

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