《社畜と哀しい令嬢》再會と新しい約束

玲奈視點です

ようやく憲人さまに會える。

智子さんから朝に説明をけた私は、祖父に會う事よりも、憲人さまと會うで頭がいっぱいだった。

祖父とは戸籍上で繋がるが、正直に言うと良いは持てなかった。

お母さまが大変な目にあっている時も、死に際すら顔一つ出さなかった人だ。

父同様、どうしても好きにはなれない。

そう考えてしまうと、心のこもらない挨拶にはなんの慨も見出せなかった。

現に、挨拶はほんの一瞬で終わった。

祖父が寄越したわずかな一瞥にはなんのも浮かんでおらず、私にかけらの興味も無いのだと告げていた。

私がお金を運ぶし易い傀儡であればいいのだと暗に言われたことを考えてもそれが分かる。

自分が世界に一人だと思っていた頃の私ならば、ここまで冷靜ではいられなかったかもしれない。

でも今は智子さんや憲人さまや憲史さま、玲子さまがいてくれる。

私なんかのために、ここまでいてくれた人達がいるのだ。

そう考えるだけで、目の前でお金の事しか考えていない祖父がいっそ哀れに思えた。

ーーーーーー

それよりも、私の鼓が早くなって落ち著かないのはのは、憲人さまに會う張からだ。

智子さんからもらった端末で、憲人さまとはまた連絡が取れるようになっていた。

何度か繋いだ電話では、憲人さまは変わらぬ言葉をくれた。

だからなんの問題もない。

それなのに、どうしても落ち著かないのだ。

思えば憲人さまと最後に會ってから半年以上が経っていた。

(私、変じゃないかしら? 憲人さまにふさわしいかしら?)

あまりの張に智子さんを見上げれば、智子さんは私よりも顔を青くしながら手に人と書いては何度も飲み込んでいた。

「お客様、鷹司家の皆さまはお客様、頑張るのよ智子、接客の基本は笑顔なのよ智子」

ブツブツと呟く智子さんは、何故だか私よりも張していて私は首を傾げた。

「智子さん、憲史さまも玲子さまもとってもお優しいので大丈夫ですよ」

勵ますつもりで私が聲をかけると、智子さんは私の手を握って儚げに笑った。

「ありがとう玲奈ちゃん。私は大丈夫だから。ただね、私は影のもので、彼らはのものだからどうしても張しちゃうんだ。それは平民が王族に會うよりもたいへんなことなの。玲奈ちゃんものものとして、その事だけは頭にれておいてね」

「ええ…?」

智子さんの言うことはたまによく分からない。

と影とはどういう意味なのだろう。

私には智子さんの方がよほどに溢れているように思えるのに。

「でも私がなら、智子さんは張するんですか?」

「玲奈ちゃんはだけど、それ以上に可いからいいの。可いの數値がメーターを振り切ってるから、張の前に可いが勝つから問題ないんだ」

「そうですか……」

本當は全く分からないけれど、こういう時の智子さんは大抵ふざけているので、私はそれ以上追求しなかった。

出會った當初もよく智子さんは自己紹介を兼ねて「私は眩しい人間とはうまくやれるけど、相れないんだ」と言っていた。

「でも安心してね。影のものは基本的にの元に引きずり出されない限り無害だから」とやっぱり謎の言葉をらしていた。

とにかく、智子さんの様子にし落ち著いた私は、気持ちを靜めて憲人さまに話したい事を考えたのだった。

ーーーー

「良かった、玲奈ちゃん…!」

鷹司家に到著して憲人さまが見えた瞬間、視界が突然暗くなった。

部屋にったと同時に玲子さまに抱きしめられたからだ。

「なにもできなくてごめんなさい。辛い思いをさせてしまったわ」

一瞬混したが、涙聲でそう行ってくれた玲子さまの言葉に私も視界が僅かに滲んだ。

「いいえ、そんな事はありません。何をしていただいたか私は知ってます。ありがとうございました。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「お禮なんていらないわ。無事でいてくれて良かった」

もう一度ギュウッと強く抱き締められて、しだけ苦しいなと思ったところに、憲史さまの聲が聞こえた。

「いらっしゃい、玲奈さん。また會えて嬉しいよ。玲子、そろそろ放してあげなさい。憲人とも會わせてあげないと」

「あら、ごめんなさい。私ったら!」

ガバッと私から離れた玲子さまのし背後には穏やかに笑う憲人さまが立っていた。

「お帰りなさい、玲奈さん」

「のり、ひとさま……」

ああ、私はどうしてこんなにも涙腺が緩くなってしまったのだろう。

心を固く閉じれば人の前で泣くことなんか無かったのに、溢れる涙を止めることができない。

會いたかった。

ずっと會いたかった。

だって私を沼の底から引き上げてくれたしい青の瞳は、変わらない優しさを湛えて私を見つめてくれた。

「またここに來てくれてありがとう」

いつの間にか私の目の前に立っていた憲人さまは、私の手を優しく握った。

「玲奈さんと二人で庭に出てもいいでしょうか」

「もちろんよ。いってらっしゃい」

憲人さまの提案に玲子さまが答え、私が智子さんを見上げると、智子さんも先ほどの張はしも見せずに笑って頷いてくれた。

鷹司家の庭園は前と変わらずしい。

けれど今の私は、繋がれた憲人さまの手の溫もりの事で頭がいっぱいだった。

しばらく憲人さまは何も話さずに歩いていたけれど、ピタリと止まって私を真正面から見つめた。

「ここで、初めて歩いた時のことを覚えてる?」

「もちろんです」

「ここで僕が言ったことも?」

問われて、顔が熱くなる。

もちろん覚えている。

憲人さまは私の演技を一番最初に暴いた人だ。

私の哀しみを知って、笑ってしいと言ってくれた人だ。

それに、ここで婚約者になってほしいと言ってくれたのだ。

忘れられるわけがなかった。

「もちろん、覚えています」

憲人さまは「良かった」と言って私の両手を包んだ。

ただ、憲人さまの表は苦しげで、どうしたのだろうかと首を傾げる。

「玲奈さん、僕は子供で、弱くて、なんの力もない」

吐き出すように憲人さまは言った。

「君と會えなくなって、婚約破棄を伝えられて、僕は戦いたいと思った。でも、嫌だと言う以外、祈る以外、僕には何もできなかった。一番に君を救いたかったのに、守りたいと言ったのに、それが出來なかった。僕は自分が無力な子供だと痛した。それなのに、こうして厚かましく君の前に立っているんだ」

憲人さまの獨白に私は瞠いた。

「僕なんかより君はずっと強い。立ち向かって抗って、戻って來てくれた。なのに今の僕は、君に相応しくない」

今まで見た事がないような憲人さまの悔しげな表に、私は息を呑む。

「でも、それでも、僕は君が好きだ。君の優しさも、弱さも、誰よりもしい強さも好きだ。今は釣り合わないかもしれないけど、絶対に君に相応しい人間になってみせるから」

だから、と憲人さまは呟いて、私の手を強く握り直す。

「だから、もう一度、僕の婚約者になってくれませんか」

揺るがないしい青が私を抜く。

その強かな青が私は好きだった。

だから返事は決まっていた。

決まっていたけれど、私は思わずふるふると頭を振る。

「相応しくないなんて、そんな事ありません」

私は懸命に聲を絞り出した。

油斷した瞬間、嗚咽で話せなくなると懸命に涙を堪える。

「憲人さまは、私を見つけてくれました!私に溫かさを教えてくれました。居場所をくれました!」

ぶような私の言葉に、憲人さまは驚いたように眼を見張った。

「私が、いちばん、いちばん辛かったときに、私を導いてくれました!お母さまが死んだとき、あなたが泣いていいって、悲しんでいいって言ってくれたから!だから私は今も立っていられるんです!!」

憲人さまはなにも分かっていない。

守りたいと言ってくれた時も、

笑ってほしいと言ってくれた時も、

泣いていいと、悲しんでいいと言ってくれた時も、

どれだけ私の心を救ってくれたのか、なにも分かっていない。

「大好きなんです!私が大好きな憲人さまを、責めないでください!私を救ってくれた憲人さまが私に相応しくないなんて、言わないでください!」

堪えていたはずなのに、私はいつの間にか泣いていて、気付けば憲人さまに抱きしめられていた。

私も憲人さまを抱きしめていた。

憲人さまの頭が乗った私の肩口が濡れていき、私も憲人さまのを濡らす。

私達は震えながらお互いを支えあうように抱きしめていた。

「……婚約の件、喜んで、おけします」

しゃくりあげながら私が言うと、憲人さまはし話して涙に濡れた瞳で私の顔を覗き込んだ。

「ありがとう」

掠れる聲で呟くと、憲人さまは私の頬に優しくを落とした。

ーーーーーー

その晩、智子さんに憲人さまの事を聞かれて話をすると、自分の事のように智子さんは嬉しそうに笑った。

でも赤くなる私を揶揄うように憲人さまの話を振るので、恥ずかしさからそっぽを向くと、智子さんは慌てて「ごめん玲奈ちゃん!拗ねてるところも可いからそれはそれでいいけど許して〜!」と謝罪を繰り返した。

なんだか謝られてる気がしない。

でも拗ねた自分がなんだかこそばゆくて、それが嬉しかった。

今まで知らなかった私が、どんどん生まれてくるのをじる。

きっとこれからも、私も知らない私が生まれるのだろう。

『一緒に大人になっていこう』

憲人さまとした新しい約束が、私のに過った。

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