《社畜と哀しい令嬢》新しい生活
智子視點です
玲奈との新生活は、智子が思っている以上に順調だった。
勤務時間を小した智子は、19時には帰宅するようになった。
玲奈も學校が終わった後は、智子の帰宅時間まで憲人と共にそれぞれ勉學や習い事に勵んだ。
良家の子である玲奈や、やんごとなき筋に生まれの憲人には拐の危険が常に伴っているため、送り迎えも厳重だ。
鷹司家お抱えの警備があれば、智子も安心して仕事ができるというものだ。
そして帰宅後は、玲奈と一緒になって夕飯を作るのが日課である。
作るのはもちろん庶民的な料理だ。
近隣にあるセレブ用達スーパーで買った食材に加えて、鷹司家からは智子ではお目にかかれない資が屆けられているため、バカでかい冷蔵庫は常に高級食材で潤っており材料には困らない。
キッチン周りも最新設備が整っていた。
最高の環境下で庶民料理を作るのには多の罪悪はあるものの、肩肘はらずに生活しようと決めていた智子は迷わなかった。
その気にさえなればなんかいいじの料理はできるのだろう。
だが智子はそれをしたくないから一生獨と決めていたのだ。
人のためには盡くせない、なによりも面倒くさい。
そんな智子の特が、簡単に変わるわけがない。
それなら初めから無理のない範囲で頑張ればいいのだ。
玲奈もおいしいと言ってくれるしそれでいいのだ。
食事はおいしくて楽しいのが一番なのだ。
ただ、お嬢様育ちの玲奈にテレビを観ながらの食事を教えたのはちょっとあれかもしれない。
でもまあ、鷹司家には緒だよ、と約束したので良しとしよう。
とにかくいい食材でいい食事ができて智子はご満悅なのだ。
それに加えて、智子には一人で過ごす時間がきちんとあった。
玲奈は22時前後には自室にってしまう。
智子はそこから一人晩酌をしつつ、撮りためていたドラマや映畫を見ることができた。
終電コースが日常化していた時に比べて格段に一人の時間を楽しめるし、玲奈と二人の時間も十分に取れている。
智子は果実酒片手にスルメを齧って突然気付いてしまった。
(あれ……私って今、最高の人生を送ってる……!?)
殘業をしなくなった事で、可らしい玲奈と一緒にご飯を作って食べてキャッキャして、夜は好きな映畫やドラマを見て酒をたしなむ。
勤務時間が減って収もし減ったけど、家賃熱費無し、食料資が定期的に屆く環境。しかも休日出勤もない。
ご飯、おいしい。
趣味、楽しい。
玲奈ちゃん、可い。
(ぱ、パーフェクト……? 私の人生パーフェクト?? 玲奈ちゃんは幸福を運ぶ天使???)
かつて富永が言っていた「けた外れの金持ちに遠慮はいらないからもらっとけ」という言葉を思い起こす。
そうだ。ここは図々しくなっておいて、貯金をたくさんしておこう。
玲奈だっていつか結婚してしまう。
老後に老人ホームにれる分の貯えをしておけば迷をかける事もない。
それに気付いた時、智子は両手を掲げて「我は勝者なり!」とんだのだった。
――――――
「そんなわけで、私いま最高に幸せなんですよ」
智子とは違って相変わらず社畜の富永に自慢をすると、正面から手刀が飛んできた。
「いだい!」
躱すことも出來ず、鋭い攻撃をけて智子は悲鳴を上げた。
「ごめんなさいね。妬ましくて。あとすごい抹殺したくて。ねえ、智子ちゃんはグーで毆られるのと、関節技をきめられるのどっちが好き?」
「どっちも嫌です申し訳ありません」
「素直な事は良い事だわね」
富永は目を細めて握っていた拳を下げた。
今日は富永とお疲れ様會と稱して飲み會を開催中だ。
玲奈は鷹司家のお食事會なので、三週間ぶりに別々の夕飯となる。
「それにしても思った以上に楽しそうで良かったわね」
「はい。予想通り玲奈ちゃんは気が利くし、生活は便利だし正直怖いくらいですよ」
「まあ今回は智子ちゃんも頑張ったしいいんじゃない?」
「でもさんの手助けあってこそです。あ、そうだ。鷹司ご夫妻がさんにもぜひお禮を言いたいそうですので、今度食事にわれた際には來てくださいね」
満面の笑みを浮かべる智子に、富永は胡げな視線を向けた。
「一人で行くのが嫌なだけでしょう」
「いやいやいや、だってお禮をしたいって言ってるんですから連れて行かないと。ね、いいですよね!」
智子がどうにか富永を引きずり込もうとみ手をすると、富永はうーんと首を傾げた。
「お禮ねえ……。でも私、あの書からもらってるんだけど」
「え、まじすか」
「まじまじ」
富永はうんうんと頷いてにんまりと笑った。
「ふふふ…小金と言うにはぶ厚めのお禮をね…うふふふふ」
悪人の笑みを浮かべる富永を見ると、結構なお禮をもらったらしい。
「あの悪辣書、最高に気にくわないけど分かってるわ。やっぱり人間一番大事なのはお金よね」
「すごい。今回の件を乗り越えて金と言い切るさんがすごい」
「ごめんなさいね、智子ちゃん。私はよりお金派だから。有給とって旅行でも行こうかしら~」
「旅行に逃げてもお食事會は連れてきますからね」
「ねばるわねえ。別にいいけど」
「孤獨死は嫌なので。今いいって言いましたね。聞きましたからね。約束ですからね」
「はいはい」
富永から確約を貰った智子は安心してつくねにかじりついた。
「ああ、でもそろそろ鷹司家が三條義政にしかけるみたいね」
思い出したように呟いた富永に、智子も頷いた。
「私の方にも家守さんから連絡がありました。ついでに宮森サイドにも念のため気を付けるようにって」
「あっちはしずつ崩壊していってるみたいね。そういえば花霞學園の件って、智子ちゃんも関わってるんでしょ? 次いつ行くの?」
「來週なんですが、私が業務を減らした関係で松岡さんが行く事になっています」
二回目以降、花霞學園の書類関係は智子がまとめているが、元々の擔當である松岡がアシスタントとして同行することになった。
里の様子を見たい気持ちもあったが、メインで関わると殘業確定になってしまうのだ。
智子がいない負擔を松岡がかぶってしまう事に罪悪はあるが、松岡は「智子ちゃんがいなくなるよりずっといい」と言ってくれていた。
「そう。でもその方がいいかもね。智子ちゃんは宮森家に顔を出してしまっているし、里に見られていないとは限らないもの。あの書も言ってたわよ。里は異常なほど玲奈ちゃんに執著してるって」
「そうですね。おそらく三條玲奈が鷹司憲人と婚約をした、という話は伝わっているはずですし……」
「おまけに宮森家の評判がしずつ落ちてるからね。宮森雅紀にも余裕はないはずよ。とは言っても食うに困るほどじゃない。でも贅沢に慣れた人間は、僅かな綻びを他人のせいにしたがるから」
「玲奈ちゃんはその対象としてうってつけってわけですよね。死ねばいいのに」
冷たい聲音で呟く智子に、富永もそうねと頷く。
「ま、彼らにできる事は限られてるし対策はできるでしょう。それに鷹司家の護衛のいる事だし。……にしてまったく、映畫の世界だわ……」
ふう、とため息をついた富永に、智子は同意した。
「ほんっと、私の人生がこんな事になると思ってませんでした。黒塗り高級車が迎えに來て近くにはSPがいるとかとんでもない話ですよ」
「ほんとにね……。あ、そうだ。高級車と言えば噂の高級マンション行かせなさいよ」
「もちろんです!基本いつでもいいですよ。さんに合わせますので。ちなみにご飯は任せてください。冷蔵庫に高級食材がうんと詰まってますから」
「お酒も?」
「日本酒、ワイン、ハイボール、ビール果実酒各種取り揃えております!」
「エクセレント!!」
酒の力もあって、富永とのお疲れ様會は楽しく進んだ。
久しぶりにベロンベロンになって、迎えに行った玲奈に「智子さん、お酒の匂い酷いです」と避けられてちょっぴり悲しくもときめいたのだった。
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