《家族に売られた令嬢は、化け公爵の元で溺されて幸せです~第二の人生は辺境地でほのぼのスローライフを満喫するので、もう実家には戻りません~》第12話:買い
マノンさんと一緒に街へ繰り出した私は、あまりにも豪快な買いっぷりに唖然としていた。
花の刺繍がったハンカチやら、可いリボンが付けられた靴やら、白いおしゃれな帽子やら。
次々に高価なものが購され、マノンさんの両手には大量の品がぶら下がっている。
これがすべて自分のものだと思うと、大変恐してしまう。でも、私もの子である以上、決して嫌なわけではない。
どちらかといえば、田舎育ちの貴族令嬢が都會に染まる気持ちがわかってしまった。
自分が変わるほどのおしゃれを実して、明るい未來がやってくると思うほど、どんどん心がかになっていく。
「奧方、次は寶石屋さんに寄って――」
「いえ、大丈夫です! それはやめましょう!」
ただし、変わりすぎは厳。徐々にステップアップしていかないと、けれられない自分がいるのも、また事実であった。
「奧方は指が嫌いか?」
「そういう意味ではありません。薬草栽培で汚れたり、薬草を傷つけたりするんです」
「作業の時だけ外せば――」
「今は不要なんです! 薬草畑で手一杯なので!」
もちろん、私も煌びやかなアクセサリーや寶石の付いた指をつけたい気持ちはある。
でも、せっかくに付けるのであれば、特別なものにしたい。寶石好きの義母やカサンドラのように、いくつもの寶石を買い揃えたくはなかった。
個人的には、旦那さまの瞳のと同じものをに著けたい。仮に旦那さまが私のために選んでくださるのであれば、それをに付けたいとも思う。
いつも旦那さまが傍にいてくれる、そんな気持ちが満たされるような指がしいから。
……あれ? 私はいつから頭がお花畑になったんだろうか。家臣が素敵な人たちばかりだから、勝手に旦那さまのイメージが化されているような……いや、気のせいだ。絶対に気のせい。決して、そんなことはない。
ちょっと期待しているだけだ。……本當に、ちょっとだけ。
「じゃあ、服を買いに行こう」
私の気持ちを汲み取ってくれたマノンさんについていくと、一軒の大きな店に案された。
パッと見ただけでも雰囲気の違うこの店では――。
「マノンさん。この店、値札が付いていないんですが」
「奧方。高価な服は値札が付かないよ」
何気なく連れてこられた店で、値段がわからないほど怖いことはない。
「もうし手頃な値段の店ではダメなんですか?」
「ダメ。魔の素材を使ったものでないと、何かあった時に危ない」
パパッと次々に服を合わせてくるマノンさんの言葉を聞いて、お花畑が咲くほど浮かれていた頭から現実に引き戻される。
婚約に薬草が條件だったのは、やっぱりそういう地域だったのだ。一人でも多くの怪我人を治癒させるために、新鮮な薬草をした結果なのだろう。
「奧方は知らないかもしれないが、この地は魔災害が多い。空から魔が侵してくるケースもあって、街中だから安全というわけでもない」
しかも、まだ薬草を移植したばかりで、気軽に使えるような狀態ではない。
もっと薬草の栽培量を増やして、役に立たないと。幸いなことに、あれだけ元気な薬草に育っているなら、またすぐに株分けができるようになるはず。
「思っている以上に危険な地域なんですね。こうしてマノンさんと二人だけで買いに出かけるのはいいんですか?」
「問題ない、私がライオンゆえに。がおーー」
「ふふっ、とても心強いです」
「任せるといい。魔なんて、必殺のライオンパンチでやっつける」
「じゃあ、マノンさんが怪我をしてもいいように、薬草をたくさん栽培しないといけませんね」
「うん、みんな奧方に期待している。もっといっぱい薬草が出回れば、悲しい思いをしなくても済む人がいる」
悲しい思いをしなくても済む……か。もしかして、マノンさんも大切な人を亡くした経験があるのかな。まだ小さいのにしっかり教育されているし、公爵家に住む人を『家族』と認識しているから。
詳しいことは聞かないようにしようと思っていると、マノンさんが何かを思い出すようにハッとした。
「しまった。奧方にプレッシャーを與えるな、と言われていた。今のは聞き流してほしい」
「旦那さまがそうおっしゃったんですか?」
「うん。バレたら怒られる」
「……では、緒にしておきます」
やっぱり旦那さまは優しい方みたいだ。姿を現してくれないことだけ気になるが、化け公爵と言われているくらいだし、何か深い事があるのかもしれない。
ここはし遠回しに聞いて、旦那さまのことを探ってみよう。
「ちなみに、旦那さまの今日のご予定は?」
「狩りに行くって言ってた。最近は魔の出現が多いから」
なるほど。街を守るために魔を討伐しているのか。魔は人の都合に合わせていてくれないから、きっと遠方まで行ったり、朝が早かったりして會えないんだろう。
とても気にかけてくれているみたいだし、帰ってきたら會いに來てくれるに違いない。気長に待っていよう。
今は公爵夫人としての仕事……もとい、マノンさんとの買いを済ませて、薬草の栽培に力をれるべきだ。
「奧方は畑仕事をするから、きやすい方がいい。でも、年頃のの子でもある」
気遣ってくれるマノンさんは、両手に二つの服を持っている。どちらもショートパンツスタイルで、ボーイッシュな雰囲気のものだった。
さっきは薬草を理由に寶石屋さんを斷ったため、の子らしい服裝よりも、きやすさを重視した方がいいと思ったに違いない。どのみち服を買うのであれば、私もそうするべきだと思っていた。
しかし、乙心というのは複雑なものだ。
旦那さまが大切してくれるのなら、の子っぽい服裝を意識した方がいいのではないか、そういうが芽生え始めている。
今はまだ、ショートパンツでも華奢に見えるかもしれない。でも、毎日三食も食べていたら、あっという間に太るだろう。
そのタイミングで旦那さまに呼び出されたら、太ももがはち切れんばかりのパッツンパッツンで會うことになってしまう。
一方、ワンピースは系が隠しやすく、太ってもバレにくい。帰宅したばかりの旦那さまにバッタリと遭遇しても大丈夫だし、買い替えなくても済む。
それを考えると……、店に飾られているワンピースがしい。
思っている以上にフリルがあしらわれていて、可すぎるかもしれないが、こういうのを著た方が喜ばれそうな気がする。
私もいい年した貴族令嬢だから、一度くらいはこういう服が著てみたいし。畑作業で汚しても、侍のみんなが綺麗に洗濯してくれるだろうから。
そんなことを思っていると、突然、狙っていたワンピースが宙に浮いた。何気ない顔でマノンさん手に取ったのだ。
「奧方、これにする?」
「えっ!! あっ、はい。マノンさんがそう言うなら、それでいきましょう!!」
「うん。奧方、ずっと見てたから」
次に買いする機會があれば、聲に出して相談しようと思った。
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