《家族に売られた令嬢は、化け公爵の元で溺されて幸せです~第二の人生は辺境地でほのぼのスローライフを満喫するので、もう実家には戻りません~》第29話:すれ違う気持ち(アーネスト側4)
時はし遡り、まだ嵐がやってくる前のこと。
アーネスト家の屋敷周辺では、著慣れない作業服にを包んで鍬を持ち、畑を耕す二人の親子の姿があった。
し頬がこけたアーネスト伯爵と、溫室育ちの貴族令嬢カサンドラである。
薬草が瘴気を吐き出し、畑ごとダメになったため、新しく畑を耕しているのだが、なかなかうまくいかない。
家の中で優雅に過ごしてきた貴族にとって、畑仕事はいろいろな意味で苦痛な仕事だった。
「キャーッ! み、ミミズがいるわ、パパ!」
持っていた鍬(くわ)を放り投げるほど驚いたカサンドラは、もちをついてしまう。
「ミミズくらいいるだろう。しは我慢しなさい」
その姿を見たアーネスト伯爵は、素っ気ない態度を取り、すぐに畑を耕す作業に戻った。
以前なら、真っ先にカサンドラの元へ駆けつけ、ミミズをやっつけていただろう。しかし、大きな問題を抱え込むアーネスト伯爵に、そんな余裕はなかった。
作になるほど薬草を栽培しないと、補助金と爵位を返還しなければならない。そんなみっともない話など、妻と娘に言えるはずもなく、黙々と作業に徹している。
ただ、狀況を理解していないカサンドラは、そんな父の態度が気にらなくて……。
「パパ、私もう嫌よ! 畑を耕すなんて慘めな作業は、聖の仕事じゃないわ! お義姉さまみたいな腐った貴族や平民のすることよ!」
すぐに癇癪を起こしたカサンドラは、畑仕事を投げ出そうとしていた。
「落ち著きなさい、カサンドラ。まだ始めたばかりじゃないか」
「嫌よ、もううんざりなの! 汗はかくし、手が汚れるし、腰は痛いし……。こんなことしていたら、お嫁にも行けなくなるわ!」
「そんなことを心配する必要はない。アーネスト家は婿に來てもらって、カサンドラがパパの後を継ぐんだよ。薬草栽培で手が汚れることくらいは、予め伝えていただろう?」
聖といえば聞こえはいいものの、やっていることは農家と変わらない。魔法の勉強ばかりしてきたカサンドラは、魔師のような役目だと思っていたため、畑を耕すなんて仕事に我慢できなかった。
魔法で水をやる、それが主な聖の仕事であって、とても楽なものだと思い込んでいたのだ。
「ここまで汚れるとは聞いてないわ。爪の中にまで汚れがっているんだもの。こんなことをしていたら、すぐに私もお義姉さまみたいな薄汚い手に……ぐすっ」
どれだけ困難な狀況であったとしても、最の娘に涙を見せられたら、アーネスト伯爵は心を傷めてしまう。しかし、それ以上に國王に罵聲を浴びせられたことが、心に深い傷跡となっていた。
過去數年間にもわたって特別扱いされていたのに、このような仕打ちをけるなんて。
もはや、結果だけでしか判斷されない狀況に陥った以上、妥協してはいられない……はずなのだが。
「わ、わかった。では、パパが畑を作ろう。その代わり、毎日ちゃんと水をあげるんだぞ?」
「ありがとう、パパ。聖の仕事なら任せてねっ」
ケロッと表を変えたカサンドラは、ルンルン気分で屋敷へと向かっていく。
「あ~あ、こんなにも手が汚れちゃった。薔薇の香りがする石鹸で泡遊びをしたら、簡単に取れないかなー」
「ま、待ちなさい。あの石鹸は高かっただろう。それくらいの汚れなら、もうし様子を見ながら洗いなさい」
現狀を理解していないカサンドラの言葉に、アーネスト伯爵は顔を変える。
最近、行商人から買い取った薔薇が香る石鹸は、カサンドラの一番のお気にりだ。他國でしか生産されておらず、限定販売されている品であったため、思っている以上の値がついている。
萬が一のことを考えれば、売れるものは殘しておきたい。知り合いの貴族に買い取ってもらえば、それなりの値が付くだろう。
そんなアーネスト伯爵の意図が、カサンドラに伝わることはない。
「パパ、今日は様子が変だよ? 貴族が高価な品を使うのは、當たり前のことじゃない。奴隷みたいなお義姉さまと違って、私は聖なの。も心もぜ~んぶ綺麗にしておかないとね」
「気持ちはわかるが、今日は水洗いだけにしなさい。今までパパの言う通りにしてきて、間違いはなかっただろ」
今の狀況を家族に打ち明けられたら、どれだけ楽だろうか。でも、男のプライドがそれを許さない。
絶対に何事もなかったかのように過ごすと、アーネスト伯爵は強く決めていた。
一方、カサンドラは……。いつもと様子の違う父の姿に疑問を抱きながらも、何かに気づくように満面の笑みを浮かべる。
「あっ、そっかー。もう、パパったら。ハッキリ言ってくれたらいいのに。うちの屋敷にも、とうとうお風呂をつけてくれるつもりなのね!」
「は? 何を言っているんだ、カサンドラ……」
「隠さなくてもいいよ、パパ。だから、手を洗わせたくないんでしょう? でも、ざ~んねん。こんな汚れた手をしていたら、ママを悲しませるわ。早く石鹸で綺麗にしようっと」
まったく言うことを聞かないカサンドラを見て、ついにアーネスト伯爵の堪忍袋の緒が切れる。
ギリギリと音が出るほど歯を食いしばり、持っていた鍬(くわ)を地面に叩きつけた。
「石鹸で洗うなと言っているだろ! 親の言うことが聞けないのか!」
娘の態度に我慢できず、冷靜さを失ったアーネスト伯爵は、つい聲を荒げてしまう。
怯えるカサンドラが手を震わせ、涙目になっている姿を見て、やってしまった……と気づいても、もう遅い。
「パ、パパ……?」
「いや。違うんだよ、カサンドラ。石鹸の使い過ぎは、に良くないからね。ハハハ……」
聲を震わせるカサンドラに対して、アーネスト伯爵は苦し紛れの言い訳しかできなかった。
この日、初めて親子関係に亀裂が生じたのは、言うまでもないだろう。
なんといっても、カサンドラはずっとげられていたレーネの姿を見ているのだ。
もしかしたら、次は自分の番なのかもしれない、そう思わずにはいられなかった。
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