《家族に売られた令嬢は、化け公爵の元で溺されて幸せです~第二の人生は辺境地でほのぼのスローライフを満喫するので、もう実家には戻りません~》第41話:化け思考1

リクさんの大きな背中からひょこっと顔を覗かせると、毆ろうとしていた父の手を彼がつかんでいた。

「で、でで、で、出たな。化け公爵……」

「なんと呼ばれようと気にしないが、明確な敵意は持っているようだな」

パーティー會場という大勢の貴族が見ている前で、父はなんて言葉を口にするんだろうか。

いくらとはいえ、伯爵家と公爵家では分が大きく違うため、失禮極まりない発言だった。

ましてや、それを本人に直接伝えるなど、普通では考えられない。パーティーに參加していた周囲の人々も言葉を失い、冷ややかな視線を向けている。

ただ、こんな狀況を作ってしまった責任は、私にもあるわけであって――。

「父がすいません。よくわからないんですけど、急に理不盡な要求をされて、ついカッとなってしまいました」

「構わない。どうせ薬草をよこせとか言ってきたんだろう」

「あっ、はい。よくわかりましたね」

「まあな。國王の話では、もはやアーネスト家に救いようの余地はないらしい。現狀、かなり厳しい財政難に陥っているそうだ」

國王さまの話? 財政難? リクさんの言葉を聞いても、私は頭でうまく理解できない。

裕福な暮らしを続けたとしても、あれほどの大金は使いようがないと思うんだけど。

「おまけに、アーネスト家には様々な容疑がかけられている。その中でももっとも重い罪となるのが、毒を使った無差別殺人未遂の疑いだ」

「ど、毒!?」

予想外の容疑に驚いた私は、思わず大きな聲を出してしまった。

パーティーには似合わないその言葉がどんどんと広がり、この場が異様な雰囲気に包まれていく。

この狀況を見て、さすがにマズイと思ったのか、どうにか落ち著かせようとした父が慌てふためいていた。

「な、何を言っているんだ! ア(・)レ(・)は誤解であろう」

どうやら思い當たる節があるらしい。墓を掘ったかのようにアレと言っている時點で、あまり良い予はしなかった。

実家で薬草栽培していた私には、あの土地で毒が取れないことをよく知っている。ただ、殺人未遂が起こるような毒をバラ撒く方法はあるわけであって……。

「もしかして、薬草に手を付けましたか?」

「當然のことだ。アーネスト家は薬草栽培を生業にしているのだからな」

どうりでそんな容疑がかかっているわけだ。下手に薬草を栽培したら、瘴気が発生するから、法律で規制されているのに。

「植學士の資格を持たない者は、薬草栽培を止されていますが」

「そんなもの知ったことか! 無事に薬草が育てば、何も問題はあるまい!」

仮にも貴族であろう者が、王城で開かれているパーティーで、この國の法律を否定するべきではない。どこまで本當なのかわからないが、今の発言で違法栽培の罪は確定してしまっただろう。

しかも、無事に薬草を育てられなかったから、無差別殺人未遂という重罪の容疑がかかっているのに、反省している様子すらなかった。

思わず、リクさんが険しい眼差しを送るのも、無理はない。

「大勢の領民に害を與えて、後悔すらしていないのだな」

「後悔だと? 何も悪いことはしていないであろう、馬鹿馬鹿しい。やはり、獣人の頭は獣並みのようだな」

反省する様子もなければ、自分たちが悪いとさえ認識していない。種族が違うだけで獣人を差別して、あからさまに敵対心をぶつけるなんて、手に終えるような狀態ではなかった。

もうし常識や植學の知識があったら、結果は変わっていたかもしれない。植學を學んでいれば、瘴気の浄化の仕方くらいはわかるから。

「何を言っても無駄みたいですね。瘴気の治療くらいはしてあげようと思っていたんですが」

「寢ぼけたことを。馬鹿な平民と違って、我々は瘴気に毒されてなどいない」

父は平然とした表で否定するが、薬草に囲まれた実家に住んでいて、瘴気の影響をけないはずがない。

その証拠と言わんばかりに、瘴気を吸い込んだ形跡が存在していた。

「三人とも、首に特有のアザができていますよね。それはに瘴気がり、しずつ蝕まれている証拠ですよ」

恐る恐る互いに首元を確認すると、三人の表が見る見る青ざめていく。

「ま、まさか。死ぬ……のか?」

「嫌よ! まだ死にたくないわ!」

「お義姉さま、何かの間違いよね? 大丈夫だよね?」

王都まで無事に足を運んでいる時點で、軽傷なのは間違いない。あまり大きなアザにもなっていないので、瘴気を吸ったのは僅かな量だろう。

「一時的に魔力に障害が出る程度で――」

「死ぬぞ」

えっ? これくらいなら死なないけど……と思いつつも、リクさんのとぼけた顔を見て、私も意見を変えることにした。

何を言っても聞かない人には、脅すくらいがちょうどいいのかもしれない。貴族が瘴気を発生させたとなれば、どのみち重罪は免れないのだから。

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