それ以降セシルは、対外的には伯爵令嬢として生活をしているが、５歳までセシルが使っていた部屋は本當の娘が帰ってきたときに使用する場所だと伯爵夫人が譲らず、部屋は置部屋、食事も使用人の余りもので暮らすような生活をするようになってしまった。とはいえ伯爵家も匿義務があるために、セシルに対して不當な扱いをする理由を使用人たちに話していなかったが、神殿から戻って以降セシルを冷遇するようになった様子を見て、使用人たちはセシルには魔力がなかったため冷遇されているのではないかと噂するようになった。伯爵も伯爵夫人もセシルの兄２人も、皆量なりとも魔力を有しており、それを事あるごとに自慢していたからである。

冷遇されるセシルを見て、最初のうちはセシルに同したり家政を取り仕切る伯爵夫人に待遇改善を訴えたりした使用人もいたものの、改善されるどころか伯爵や伯爵夫人から罵倒されている様子を見るにつけ、皆必要以上にセシルに近寄らなくなっていった。誰しも我がが一番大事だったからである。

伯爵も伯爵夫人もセシルのことを疎んじてはいたが、神殿で我が子として登録されている以上、さすがに使用人のように扱うわけにはいかなかった。一時はセシルの毒殺も考えたようだが、殺害後に妖界にいるであろう自分の本當の娘が、換相手のセシルがいないために戻って來られなくなると困るので、とりあえず殺すことは諦めたようだ。

とはいえ、セシルを娘としてお茶會だの社の場に一緒に連れ歩く気は全くなかったので、周りに聞かれたら外吹く風にすら熱が出るほど病弱だと言って、屋敷から出すことはなかった。王宮で仕事を持っているわけでない伯爵は、基本は領地住まいであるが社時期は家族で王都のタウンハウスに移する。が、セシルは病弱のため靜養が必要であると言い張り、一人領地に殘していった。

伯爵は、教育はけさせねばなるまい、と教師の手配だけは行った。萬が一本當の娘が戻ってくればその娘は大事にするが、このままセシルが伯爵家の娘として育った場合は、どんな悪辣な相手でも良いから自分たちの利のある金や爵位のある所に駒として縁付かせるために、淑教育含め各種教育は必要だからだ。

そのため、セシルには伯爵家令嬢として年齢に応じて教師がついた。勉強しかすることのないセシルは、かなり貪に學んでいった。しかし、授業が終わり次第セシルは急いで置部屋に戻る。途中で伯爵家の誰かと會えば、罵倒や時によっては暴力をけるからである。特に、年の離れた兄たちは普段は王都のタウンハウス住まいで、學園や騎士養學校へと通っていたのでめったに會うことはなかったが、彼らが帰省した時は出合い頭にいきなり存在が不快だと壁に叩きつけられ、顔面がだらけになったこともあり、セシルとしてはいつも以上に気配を消すよう気を配らねばならなかった。まだ伯爵や伯爵夫人が行うものは罵倒が主で、機嫌が悪い時に行われる暴力も肩であったり背中であったりと、著の上から見えないよう多の配慮はされていただけましであったかもしれない。

最初の頃は、セシルもごめんなさいとひたすら謝ってみたが、謝るくらいなら私の娘を返せ！と暴言が毎回暴力へと進化することがわかってから、ひたすら頭を下げ黙って時が過ぎるのを待つようになった。実際その方が、暴力へと移行する率が低かったのだ。謝っていただけなのに泣きぶその様子が煩いと毆られことも多かったので、涙を流すこともなく、その表筋すらかさないよう常に気を張っていた。実際、セシルには心をかせるほど周りに気を許せる日々などほとんどなかったのである。

なので、皆が領地から確実にいなくなる社時期だけが、セシルにとってほっとできる時間であった。その間は伯爵家の図書室も気兼ねなく使うことが出來る。自分を守るためにもまずは知識が必須、とばかりにセシルはひたすらに勉強を重ねていった。