《婚約破棄された『妖の取替え子』》アレックスの副所長就任
こうして、次期所長としても空間屬保持者としても、アレックスはかなり々な知識を吸収していった。侯爵家とは円満な関係を続けているため、時折侯爵家に顔を出し晩餐を共にすることもあった。尤もこれについては、父である宰相が數か月に一度は魔法研究所に顔を出し、アレックスに聲掛けしてくれているという側面もあったおかげだが。
自分は魔法を極めることにしたので魔法研究所で所員として生きていく、目指すは研究所所長だと早いうちに宣言したおかげか、微妙になりかけていた兄との仲も改善した。そうして、政治話に花を咲かせたり、父から兄と共に宰相やそうした地位にあるものとしての心構え等を教わったりしながら、兄とは共に切磋琢磨しようと互いを鼓舞しあう良い関係を築けるようになった。また2歳しか違わない弟妹は普通の子供らしくくて、可らしく自分に甘えてきたり自分のできることを自慢してきたりと見ていて飽きることがなかった。離れている分なかなか會えないので、絵本を読んであげたり勉強を見てあげたりして、弟妹に慕われる兄となるよう努力した。
自分が神殿で登録をして10年が経つ頃、即ちそろそろ次の空間屬保持者が現れてもおかしくないころではあったが、師の過去の話を聞いていたアレックスは空間保持者の発現率の低さから次の空間保持者が無事に現れるかは微妙だと思っていた。さすがに師のように2代続けて該當する者がいないということはないだろうが、次が本當に現れるのか、また現れたとしても弟子にできるレベルにあるのかはあまり期待できないかもしれないと思っていた。
が、主神殿からの報を得て、一年近くかけてやっとたどり著けたラウンディード伯爵家のセシルは、あまりに痛々しかった。師から、あくまで様子見にしておくように言われていたので姿を現すことはしなかったが、伯爵家の皆からげられるセシルの様子に、が痛くなった。自分の妹より遙かにいはずのセシルは、い頃の自分の妹のような無邪気さを一切持っていなかった。いや、持ち続けることが許されなかったのだ、と痛した。
特に、兄たちから壁に叩きつけられたセシルがき聲一つ上げず、崩れ落ちていくのを見たときは!
ほんの小さく開けた空間の裂け目から、かすかに目だけ凝らして伯爵家のを覗き見ていたアレックスは、自分の方がび出したくなるのを必死で堪えた。
今までに諜報部員として、過去に何度も々な王宮などにり込んだことがある。場合によっては拷問現場に近い場面を見たこともあったりしたが、それはそれ、とあくまで他人事のように捉えていた。けれどセシルは、まだ6歳になるかならないかのセシルの様子は、自分と同じ空間屬保持者だからか無意識にその存在をと捉えたからか、決して許せるものではなかった。
壁に叩きつけられたせいで肩を臼したのか痛みと高熱で臥せっていたセシルを見たときは、師の言いつけを破り、こっそり夜中寢ているセシルに近づき、傷に効く水薬などをセシルの口に含ませ、また顔面の傷口がしみないよう注意しながら額に濡れたタオルを乗せて看病し続けた。
々知識をつけて。そして、早く10歳になって。お願いだから、それまで無事でいて。
眠るセシルを看病しながらアレックスは祈り続けた。
こんな伯爵家にセシルは置いておけるものか。絶対に魔法研究所に連れて行ってやる。僕がかつて魔法研究所で安心して息がつけるようになったように、セシルにも安心できる場所を作るんだ。
それからアレックスは、より一層魔法研究所で研究に打ち込むようになった。空間屬保持者は一般的に30歳くらいで副所長、そして40歳前後で所長になることが多い。が、空間屬保持者がしばらくいなかったために、現在の副所長は屬保持者が行っていた。彼は他の人間に比べれば気な部類で會話も可能であるが、気を抜くと食事も抜いて研究に沒頭し、會議も頻繁にすっ飛ばす問題児でもあった。副所長の職務は面倒臭いらしく、以前からアレックスにいずれ所長になるなら練習がてら早めに副所長を代わらないかと聲をかけていたが、さすがに10代で副所長はありえないと固辭していたアレックスだったが、セシルの環境をより良くする権限をもてるならと20歳の時に副所長を引き継ぐことにした。余談だが、研究に沒頭する屬の彼は、魅了魔法を他者を核とする形にした中心人で、アレックスに馬車馬のごとく働かされた人である。勿論原案はアレックスが出し、論理の矛盾や誰にも知られないように他者への魔法譲渡の方法等議論に議論を重ねて共に試行錯誤したが、疲れと睡眠不足から倒れそうな彼を無理矢理叩き起こし、より度を上げた改良案を笑顔で渡すアレックスに『鬼、鬼畜』とんだのも、勿論彼である。
こうしてセシルが8歳の時、すなわちアレックスが20歳で副所長に就任した時に、セシル奪還計畫が始した。本來セシルはアレックスのものではなかったはずだが、アレックスの中ではすでにセシルは自分の守るべきものなので『奪還』で問題はない。萬が一、セシルの思考力が基準に満たなかったとしても、何らかの方法で攫って後からゆっくり自分が育ててやる、とアレックスは息巻いていた。セシルの潛考能力が高く、10歳で無事邂逅できたことは僥倖であった。
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