《辺境育ちな猿百合令嬢の憂鬱。〜姉の婚約者に口説かれました。どうやら王都の男どもの目は節らしい〜》(7)ゼンフィール侯爵邸
王都を訪れて、一週間が過ぎた。
領地から同行していたメイドたちはまだ疲れが消えていないようだ。まだしやつれている。
でも若くて力の有り余っている私は完全に元通り。元気いっぱいに朝を迎えていた。
「おはようございます。お姉様!」
今朝も、足取り軽く食堂へる。
メイドたちが念に整えてくれたので、支度は今日も完璧だ。
ふわふわしたクリームのドレスを著せられてしまって、いつ裾を踏むかとヒヤヒヤしていたけれど。先にテーブルについていたお姉様が優しく微笑んでくれたので、それだけで乗り越えられる。今日はいい一日になりそうだ。
ただ、髪だけはもうしすっきりと結んでもらいたかったかな。
私の髪は収まりが悪い癖。お姉様のような明るい金髪だったらそれでも華やかかもしれないけど、私の髪はが抜け落ちたような白なんだよね……。
「おはよう、リリー。そのドレスもよく似合っているわね。リボンも、リリーの髪によく映えているわ」
……褒められた!
馬の尾の方が華やかだよね、なんてうんざりしつつ、でもお姉様に櫛をれてもらえるならと長くばしている髪が役に立ったらしい。
ひらひらしすぎていると思っていたリボンも、お姉様に似合っていると言ってもらえたのなら、きっとかわいいのだろう。
相変わらず、我が家のメイドたちは良い仕事をしてくれる。走り回るには向かない格好だけど、お姉様のためならじっと耐えてみせる。苦行も悅びに変わるのだ。
「その格好なら大人びて見えるし、ゼンフィール侯爵様もきっと褒めてくださるわよ。でも、しだけ大人しくしてね?」
「……ゼンフィール侯爵様、とは?」
椅子に座ってから首を傾げると、お姉様は驚いたように紫の目を見開いた。
「今日はこの後、侯爵様のお屋敷を訪問するのよ? そのための格好をしたのではないの?」
「……それで、メイドたちが妙に張り切っていたんですね」
私を何度も著替えさせる困難さを知しているから、朝の一回にかけたらしい。
うん、いい判斷だな。さすが領地からついてきた私の専屬メイドたちだ。
……お姉様の婚約者のお宅訪問のためと分かっていたら、こんな可らしい格好は絶対に拒否していたのに。著てしまった今でも、走って逃げてぎ捨てたい。でも、お姉さまに褒めてもらったから……耐えるしかない。
一人で苦悩していたら、男給仕が味しそうな朝食を運んできた。
料理に罪はない。それに王都の料理は手が込んでいて目にも優しいから大好きだ。もちろん、とても味しい。
つい顔を緩ませて食べ始めると、お茶を飲んでいたお姉様がこっそり笑ったようだった。
お姉様の笑顔は本當におしい。あんなに楽しそうに笑ってくれるのなら、訪問でも何でもしてもいい気がしてきた。大人しいお嬢様のふりも頑張りましょう!
◇◇
お姉様と一緒に馬車に乗り、ゼンフィール侯爵家を訪問した。
侯爵のお屋敷は本當に迫力があって、私はあんぐりと口を開けてしまった。お姉様がこっそり聲をかけてくれなかったら、そのまま塀に張り付いて登り始めていたかもしれない。
そのくらいしい塀が高くまでそびえ、立派な大木が枝をばし、その向こうに豪華絢爛なお屋敷がたたずんでいた。
真っ白な壁は大理石だ。
壁には深い緑の飾り線がっているように見えたけれど、それも石のだった。
窓枠もキラキラ輝いてまぶしいくらい。魔獣の襲撃なんて全く考えていないような、素晴らしい豪華さだ。
アズトール伯爵家の王都の屋敷にも驚いたけれど、ゼンフィール侯爵家はさすがの格上の大貴族。桁が違う。
そして、ゼンフィール侯爵邸は部も豪華だった。
キラキラした裝飾はもちろん、ったら壊れそうなしい置きがいっぱいある。床も蕓品のような組み木細工で、壁はそのままドレスが作れそうなほどしい布がられていた。
天井を見上げれば、鮮やかな鳥の絵で埋め盡くされている。
今が夜なら、シャンデリアの水晶が眩いほど輝いていただろう。……日中でよかった。
私は、水晶の輝きを無視できるほど都會育ちではないのだ。
それでも気がつくとつい天井を見上げていて、思っているより長く立ち盡くしていたようだ。いつの間にか、お姉様とはぐれてしまった。
しまった。
義兄となるはずの人の家で、いきなり迷子は恥ずかしい。
でも使用人の姿もないし、さて、どうしようかときょろきょろしながら扉を抜けて隣りの部屋に行くと、いきなり目の前に出現した上質な布の壁にぶつかった。
「……あ、ごめんなさい!」
布の壁は人だった。
長の遅い私の顔の高さにボタンがある。ふんわりとしたおがないから男の人だ。それに、來ている服はまばゆいほど煌びやかな気がする。
すぐにそう理解して、私は慌てて二、三歩下がって謝罪した。
そのまま想笑いを浮かべて逃げようとしたのに、その前に手首を摑まれる。恐る恐る振り返ると、三十歳くらいの男の人が真顔で立っていた。
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