《辺境育ちな猿百合令嬢の憂鬱。〜姉の婚約者に口説かれました。どうやら王都の男どもの目は節らしい〜》(19)また會いたい
「……うーん、やっぱり何か足りないなぁ……」
井戸に橫にしゃがみ込み、長過ぎるため息をついた。
いつもの廃屋の敷地に忍び込んだ私は、今日もたっぷりと井戸に向けてんでいた。
でも、なぜかスッキリしない。これ以上セレイス様の悪口を思い付かなくなるくらいに悪様に罵りつづけたのに、心の奧にどんよりとしたものが殘っている。
「……やっぱりお兄さんに會いたいなぁ……。あの怖くて冷たい目で『それはクズだな』と言ってもらいたい……」
ローナ様のお屋敷を訪問した日の予は、これだったのか。
ああ、お兄さんに會いたい。
セレイス様の意味不明な粘著ぶりを訴えたい。容赦を知らないお兄さんなら、絶対に嫌悪丸出しで酷評してくれる気がする。
よく考えれば名前も知らない、たった一回會っただけの人だけど、あの冷たい目と容赦のない言いは癖になる。
金持ちそうだし、ぜひ最のお姉様と結婚してほしい。
でも、私がどんなにお兄さんに會いたいと思っても、再會はそう簡単なことではない気がする。
その証拠に、この廃屋にある不思議な井戸に通うようになって二週間くらいすぎたけど、あのあと一度も會っていない。
私は毎日でもここに通いたい。でもそれはつまり毎日屋敷を抜け出すということで、そんな事をしたらオクタヴィアお姉様に心配をかけてしまう。だから、大人としての自覚が生まれた私は、二、三日に一度しか抜け出していない。
これでも、一杯我慢している大人なのだ。
それに、セレイス様が來なくてもいいのに毎日のようにやって來る。諸事により、その間は私も同席もしなければいけない。
妹としての重要なお仕事だ。
たとえ私が毎日通えたとしても、一日中ここに張り付くわけにはいかない。當たり前だけど、私がいる時間とお兄さんが來る時間がぴったり合わなければ會うことは葉わない。
そんな偶然、どう考えても難しいよね。絶的だ。
……いや、待てよ?
「そうだ、手紙を殘せばいいんだ!」
何日の何時ごろにここに來ますから、會ってください。
そう殘せば、お兄さんは來てくれるかもしれない。いや、意外にいい人だから、きっと會ってくれる! 拠はないけど、なんとなくそう思う!
……いや、だめだ。この井戸を利用しているのは私だけではないんだった。私がここを見つけるきっかけとなった謎のフードの人も來ているはずだ。もしかしたら、意外に多いかもしれない。
目立つ場所に手紙を置いていくはだめだな。
かと言って、こっそり隠してしまうとお兄さんにも気付いてもらえないし……。
お兄さんにだけ見つけてもらえるような、置き手紙……。
「……あ、そうか。あのお兄さんは手紙じゃなくてもいいんだ!」
お兄さんは、強い殘留思念が聞こえてしまうとか何とか言っていた。
んだ現場にいなかったのに、セレイス様のクズっぷりを知っていたのが何よりの証拠だ。
つまり、私がべばお兄さんに伝わる!
『お兄さんっ! お話したいことがありますっ! 一週間後の晝頃にここに來てくださいっ!』
井戸に向かってぶ。
でもこれだけでは不安だから、ちょうど砂浴びをしている小鳥を振り返った。
小鳥さん。あの目の冷たいお兄さんに、ここに伝言を殘してるよと伝えてくれると嬉しいです。……と頼みたいけど、鳥だからさすがに無理か。
どうか、お兄さんが伝言に気付いてくれますように!
私は祈ることにした。
井戸の橫で祈った後、屋敷でも祈り続けて、一週間。
オクタヴィアお姉様のおしさにうっとりしている間も、私はずっと張していた。そのせいで、あらゆることに上の空になっていたようだ。調を崩したのではないかと心配したお姉様は、初めてセレイス様を追い返してくれた。
お姉様の優しさがにしみる。最高です。
そして、約束の日。
私は井戸のある廃屋を訪れた。
ドキドキしながら井戸が見える場所まで來た。でも、今日は小鳥たちのさえずりが全く聞こえてこない。天気が良くて砂がよく乾いているというのに、砂浴びもしていなかった。
ああ、ダメだったのか。
がっかりと肩を落とした時、にゃー、と可らしい聲がした。
貓だっ!
はやる気持ちを抑え、そろりと振り返る。すぐ後ろに真っ白な貓が座っていた。長種の貓で、後ろ足にくるりと沿わせている尾もふさふさだ。
なんてキレイな貓だろう。
うっとりと見惚れていると、白い貓はもう一度、にゃー、と鳴いてすたすたと歩き出した。し歩いて、ぴたりと止まって私を振り返る。ぴんと立った尾が招くようにくいとき、また歩いていく。
思わずその後を目で追っていくと、白い貓はし離れた木へと向かっていた。
そしてそこに、黒い服を著た男の人が座っていた。
「お兄さん!」
思わずんでしまった。
慌てて口を押さえたけど、今日の貓は全くじない。チラリと振り返っただけでそのまま歩いていき、お兄さんの近くでゴロンと橫になる。
ころりころりと背中を地面にり付け、気が済んだのかお兄さんの足にぽすりと頭を乗せた。
か……かわいい……っ!
……いや、靜かに、靜かに。善良な貓様を驚かせてはいけないから、ちょっと落ち著こう。
私はゆっくりと深呼吸をした。お兄さんはそんな私を無表にじっと観察しているようだ。
し落ち著いたので、私は改めてお兄さんに向き直った。
木に座っているお兄さんは、今日も一見すると地味な服を著ていた。ここから見ると、服は黒いようだ。
でも、侮ってはいけない。木れ日が當たっているところも灰に見えない見事な黒だし、何より沢がしい。
……ふむ。それ、もしかして絹ですか?
ごくりと息を飲む私を見て、お兄さんは薄く笑った。
「お前に、絹の見分けがつくとは思わなかったな」
「おお、ではやはり絹なんですね! 相変わらず金回りがいいお兄さんだなぁっ! 私の姉は二十歳です。人で優しくて、超おすすめですよ!」
「……たとえクズであろうと、正式な婚約者がいるを、よく勧める気になるな」
お兄さん、顔だけを見ているととても不機嫌そうですね。
でも、兇悪な目つきを恐れる私ではない。だって今日のお兄さんは貓まみれだからっ!
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