《辺境育ちな猿百合令嬢の憂鬱。〜姉の婚約者に口説かれました。どうやら王都の男どもの目は節らしい〜》(47)節ではないらしい
私はバスケットから別のお菓子を取り出した。
こちらは普通のフルーツケーキのようだ。ちょっと上品なフルーツ風味は庶民にとっては贅沢なお菓子だけど、この普通さが落ち著く。
もぐもぐと食べていると、お兄さんがじっと見ていることに気がついた。
「お兄さん、外では食べないんでしょう? これはリグがっていないから、無理に食べなくていいですよ」
「お前の家の料理人は、菓子作りがうまいようだな」
「そうでしょう! でもこれはあげませんよ。毒かもしれませんから」
「お前が食べているのなら、毒ではないだろう」
お兄さんはそう言って、私の手をぐっと摑んだ。
え、ちょっと、それはまさかっ!
「新しいのをあげますから、そっちを食べてください!」
「毒かもしれない」
お兄さんは私が持っているケーキを食べた。
私の食べかけなのに!
しかも全部食べた! ひどい!
さっきのリグりクッキーは自分で食べていたんだから、人の食べかけを奪うのはやめてください!
「これもうまいな」
「そ、それはどうも……でも、あの、やっぱりおかしいと思います」
お兄さんはやっと手を離してくれたけど、私は何だか疲れてしまった。どうしてか知らないけど、お兄さんの距離が急におかしくなった気がする。
……はっ、まさか……。
「お、お兄さん、まさか、お兄さんも目が節になってしまったんですか!」
「節?」
「お姉様より私が人に見える病気です! お姉様と私、どちらが人と思いますが?!」
「現段階では、オクタヴィア嬢の方が人だろうな」
「あ、よかった。お兄さんは正常のままだ」
迷いなく答える顔は相変わらず表が薄く、水の目は冷たい。
でもその冷たさとか想のなさに、私は心からほっとした。お兄さんには、なんとか伯爵様とか、ローナ様のお兄様とか、そういう人たちと同じ狀態にはなってしくなかったから。
でもその思考が筒抜けだったのか、お兄さんはお茶を飲みながらし眉をひそめて、面倒くさそうな顔をした。
「お前に魅了された連中と一緒にするな。お前が面白いのは間違いないが。……念のため言っておくが、異界にいたことがあるから、異界のものに興味が向くだけだ」
あ、なるほど。
兄さんは魔獣には優しい……いや、優しくはないけど寛大だからね。
魔獣が貓のふりをして周りに集まっても追い払わないし、あの黒い犬も犬のふりをしている間はそばにいても怒らない。
なるほど。
私もその一つか。うんうん、なるほどね。それはそうだよね。しかも私は、長が遅くて子供みたいな姿だからね!
……なのに、なぜ私はがっかりしているんだろう。が苦しいなんて、思ってはいけない。
私は自分の気持ちに無理矢理に蓋をして、ポケットにれていたものを取り出した。
「ところで、これ、髪についていたんですが」
手のひらに乗せて差し出したのは、小さな赤い寶石がついた飾りだ。
多分、馬車の中で髪を整えてもらった後に髪についていたから、お兄さんが付けたんじゃないかと思う。紐に通して髪を結んだところにつけられていたらしい。
メイドたちは、こんな飾りは所有していないと言っていた。だから、お兄さんのものだ。でも、なぜ私の髪についていたのかがわからない。
でも、お兄さんはチラリと見ただけで、目を背けてしまった。
「あ、あの?」
「それはもうお前のものだ。そのくらいの飾りなら邪魔にならないだろう」
「それは、全く気にならなかったのですが、でもお姉様はかなり珍しい寶石だと言ってましたよ? ルビーっぽいですけど、これは何ですか?」
「異界の寶石だ」
「えっ」
「だが、寶石としてはそれほど価値はない。どちらかと言えばお守りとしての方が有効だ。先日のように異界の存在が手を出そうとした時に、多の防壁になるだろう」
「それは、役に立ちますね! でも……」
「できるだけ、毎日につけておけ」
お兄さんはそれだけ言って、私の手のひらからつまみ上げた。
座る位置を変えて、私の背中に回る。振り返ろうとしたら頭を手で抑えられてしまった。痛い。
でも髪をる手は相変わらず優しくて、思わずきを止めている間に、簡単に束ねただけの髪につけたようだ。お兄さんが元の場所に戻ってから手でると、冷たい金屬と石のがあった。
「本當にもらっていいんですか?」
「お前は魔道はあまり好きではないのだろう? ……私の母や姉もそうだった。幸い、私はそういう過敏さはないから本當の苦痛はわからないが、通常のが苦手なら別の手段を使えばいい」
お兄さんは、それだけ言って黙ってしまった。
何となく聲をかけ難い雰囲気で、仕方なく私は貓をでることにした。
大きいのに軽い不自然な貓たちは、私にでられても嫌がらない。でもお兄さんの方をじっと見ている。
私は貓をお兄さんの近くに置いてみた。貓のふりをしている魔獣は、するりと私の手にをり付けてからお兄さんのにくっついた。他の貓たちもぺたりぺたりとを押し付けていく。
お兄さんは何も反応しない。目もくれない。でも、いつものように貓たちを押しのけることもしなかった。
【書籍化】傲慢王女でしたが心を入れ替えたのでもう悪い事はしません、たぶん
「貴方との婚約は白紙に戻させて頂く」凍りつくような冷たい美貌のリューク・バルテリンク辺境伯は決斷を下した。顔だけは評判通りに美しいが高慢で殘酷な性格で、贅沢がなにより大好きという婚約者、ユスティネ王女……つまり私の振舞いに限界になったからだ。私はこれで王都に帰れると喜んだけれど、その後に悲慘な結末を迎えて死亡してしまう。気がつくと再び婚約破棄の場面に時間が巻き戻った私は、今度こそ身に覚えのない濡れ衣を晴らし前回の結末を回避するために婚約破棄を撤回させようと決意した。 ※ビーンズ文庫様より書籍版発売中です。応援ありがとうございました! ※誤字報告ありがとうございます!とても助かります。ひらがな多いのは作風ですのでご容赦下さい。※日間総合ランキング1位、月間総合ランキング2位、月間ジャンル別ランキング1位ありがとうございました!※タイトル変更しました。舊題「傲慢王女な私でしたが心を入れ替えたのでもう悪い事はしません、たぶん」
8 111もしも変わってしまうなら
第二の詩集です。
8 144連奏戀歌〜愛惜のレクイエム〜
少年、響川瑞揶は放課後の音楽室で出會った少女と戀仲になるも、死神によって2人の仲は引き裂かれ、瑞揶は死神の手によって転生する。新たに生まれたのはほとんど現代と変わらない、天地魔の交差する世界だった。 新たな友人達と高校生活を送る瑞揶。彼は戀人が死んだ要因が自分にあると攻め、罪に苛まれながら生き続ける。居候となる少女と出會ってから前向きに生き始めるが、その果てに何があるか――。 世界を超えた感動の戀物語、ここに開幕。 ※サブタイに(※)のある話は挿絵があります。 ※前作(外伝)があります。
8 122超絶美人な女の子が転校して來た。
歴史に詳しいこと以外には何も取り柄がない主人公の クラスに突如超絶美人な転校生がやってくる。 そして運良く席が隣に。主人公と転校生はどうなって行くのか………
8 149出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないを望む
この世界には魔法が存在する。 そして生まれ持つ適性がある屬性しか使えない。 その屬性は主に6つ。 火・水・風・土・雷・そして……無。 クーリアは伯爵令嬢として生まれた。 貴族は生まれながらに魔力、そして屬性の適性が多いとされている。 そんな中で、クーリアは無屬性の適性しかなかった。 無屬性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。 その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。 だからクーリアは出來損ないと呼ばれた。 そして彼女はその通りの出來損ない……ではなかった。 これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。 そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 ※←このマークがある話は大體一人稱。 1話辺り800〜2000弱ほど。
8 130聖女のわたくしと婚約破棄して妹と結婚する? かまいませんが、國の命運が盡きませんか?
リリアベルは、生まれつき身體に百合の紋章を宿した聖女だった。 けれども、人の感情がオーラとして見える特殊能力があるのを、婚約者のアーサー公子からは疎ましく思われている。 「お前とは婚約破棄して、妹のララローズと結婚する!」 華やかな仮面舞踏會の夜、とうとう高らかに宣言される。 その上彼は、聖女の証まで噓だと疑ってきて……? 「今ここでドレスを脫ぎ、印を見せてみろ」 乙女の肌を大衆の目にさらすわけにはいかない。 抵抗するもむなしく、背後から捕えられ、絶體絶命のピンチに――。 「やめろ!」 そこへ、仮面をつけた見知らぬ男性が現れたのだった。 ※2022/11/17異世界戀愛日間ランキング11位・総合日間13位・総合日間完結済4位 応援ありがとうございます。 ※第一部だけでも婚約破棄がテーマの短編としてお楽しみいただけます。 ※第二部は後日談的な位置づけとなります。 ※2022/12/02カクヨム様にダイジェスト版の掲載をしました。
8 145