《出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないをむ》43
數日前。その日は朝から雨が降っていた。
「はぁ……せっかくの休みなのになぁ」
部屋で1人呟く。雨になれば大の店は閉まってしまう。クーリアの家、パン屋も然りである。理由としては、客がなくなるし、度のせいで売りが傷むからである。つまり行く場所も手伝うこともなくなり、必然的に暇になってしまうのだ。
「……本でも読もうかな。それよりも魔法作ろうかな……」
そう思い本とノートを取り出したところで、クーリアのきが固まった。
(今何か聞こえたような……?)
しかし、人の聲とは思えなかった。それどころか、言葉であるかすら怪しい。
(……空耳かな?)
そしてノートを開いた瞬間、またしてもそ(・)れ(・)が聞こえた。
『…………』
それは言葉ではなかった。なにかの意思。そのもの。しかしながら、クーリアはその意思が悲痛なびを含んでいることに気が付いた。
「助けを求めてる……?」
確証はない。けれど、クーリアは助けなければという思いでいっぱいになった。
気がつくとクーリアは家を飛び出していた。
門番は雨のせいでおらず、門も閉まってしまっていた。しかし、びのような意思は、はっきり門の外からであるとじた。外に出なくては助けられない。
「……誰も見てないよね」
クーリアは周りを見渡し、人が居ないことを確かめると、目を閉じて神を集中した。
「……《テレポート》」
次の瞬間、クーリアの姿が掻き消える。
テレポートとは長距離転移の魔法だ。門が閉まってしまっている以上、短距離転移はつかえない。目視できる範囲でしか短距離転移はできないからである。そのためクーリアは、テレポートを使ったのだ。
「……よし」
無事にクーリアは門の外へと出ることが出來た。転移する距離は極めて短かった為に、魔力消費はそこまでで済ませることが出來た。
「……こっちか」
びは今もじている。じる方へクーリアは全力で走った。
が濡れようとも、時折転んで泥だらけになろうとも走り続けた。
「森……ここ?」
びは聞こえているが、正確な位置は分からなかった。
クーリアはまず魔力を広げて森の様子を把握する。いくつかの反応が確認できた。全て魔獣だろう。だが、その中に違和を覚える反応があった。
(なにこれ……魔獣…?…でも、なにか、違う……)
びの意思を飛ばすことが出來る魔獣など、クーリアは知らない。ならばその違う反応が……
考えるより早く、クーリアはその反応のする方へ走り出していた。
しばらく森を進むと、の跡が點々と見つかった。雨でだいぶ薄れているが、それでも見える。つまり、まだ新しいということである。
「こっち……」
ガサガサと草むらをかき分け、クーリアは痕を辿った。すると痕は段々と濃くなり、ついにその元へとたどり著いた。
「……すごい」
クーリアの目の前には、とても大きな銀の狼がうずくまっていた。クーリアの記憶にこのような魔獣はいない。それ故にクーリアはしばらくその場で固まってしまった。
「っ!いけない。早く見ないと」
クーリアが銀狼に近づく。すると銀狼は顔をこちらへと向け、低い唸り聲を上げる。警戒されているようだ。
「グルル……」
「大丈夫。敵じゃないよ」
「ガァァ!!」
近付いてきたクーリアにとうとう銀狼が襲いかかった!……けれど、怪我しているのにいきなりいたせいか、クーリアにはとどかず、その場に倒れ込んでしまった。
「大丈夫っ!?」
「グワァ!」
倒れながらも尚唸り聲を上げ、クーリアを威嚇する。
「怪我を治したいだけなの。大丈夫。治す以外何もしないよ」
しっかりと銀狼の目を見てクーリアが優しく語りかける。すると唸り聲を止めて銀狼がクーリアから顔を逸らした。どうやら理解してくれたらしい。
「すぐに終わらせるね」
クーリアは真っ赤に染まっていた後ろ足のをかき分け、怪我を見つける。
「酷い……」
怪我の形からして、猟手が仕掛けた罠であろう。
クーリアが怪我に手を添える。そして、魔力を流していく。
「…………《ヒール》」
初級の治癒魔法を行使する。正確には”治す”のではなく、”無くしている”のだが。
無屬は”無”を司る。なので、怪我すらも無かったことにすることができるのだ。
魔法を行使した後、クーリアが手を退けてみるが、怪我は治っていなかった。
「なっ!……」
多狼狽えたが、すぐに次の魔法へと取り掛かった。効かないのならば、より高位の魔法を使うまで。
「…………《ハイヒール》」
より多くの魔力を流し、中級の治癒魔法を行使する。すると一瞬だけ、先程は何も起きなかった傷口がったように見えた。
クーリアが手を退けると怪我はきれいさっぱり無くなっていた。
「良かった……」
そこでクーリアは意識を失い、銀狼へと倒れ込んだ。
全力疾走からの初級、中級魔法の連続行使。倒れて當然である。
そんな倒れ込んだクーリアを、銀狼は自の尾で優しく包み込んだ。
雨はもう、上がっていた。
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