《出來損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出來損ないをむ》45

しばらくして、が帰ってくる。その腕には、何かが抱かれていた。

「それは…?」

「この子は子供よ。この狼のね」

よく見ると、確かに目の前の銀狼を小さくしたような姿の狼だった。目を閉じて、気持ちよさそうに眠っている。

「抱いてみる?」

「い、いいんですか?」

そう言いながらも、クーリアの目線はに抱かれた狼に固定されていた。

「ええ。はい、気をつけてね」

おずおずと、まるで壊れを扱うかの如く、その小さな狼を抱き込む。

「…かわいい」

思わずクーリアが呟いた。子狼はその聲を聞いたからなのか、その目を開いた。

顕になった瞳は……クーリアの右目と同じ、深い青い瞳であった。

「クゥーン?」

「…っ!」

子狼が首をし傾げながら鼻を鳴らす。それだけでクーリアはもうメロメロになった。

(可い過ぎる……)

「ふふっ。どう?」

「とっても可いです…はぅ…」

子狼に夢中になるクーリアだったが、ここである違和に気づいた。

「……軽い?」

そう。大きさ的には、クーリアが両手で抱えるほどなのに、その大きさにしては、あまりにも軽かったのだ。

さらに言うと、クーリアは自が非力であることをよく理解していた。そんな自分でも持つことができた。その時點でおかしいのだ。

「気付いた?」

「は、はい…どうしてですか?」

「どうして、と聞かれると答えにくいのだけど……そうねぇ。普通の魔獣ではないから。かしら?」

「普通の、魔獣ではない…?」

クーリアは自分が抱えている子狼を見つめる。

見つめられた子狼は、「なに?」とでも言いたげな様子でクーリアを見つめ返した。

「ええそう。それでね、その子をあなたに託してもいいかしら?」

「託す…?わたしにですか?」

「ええ。見たところ相はいいようだし」

「そうですか?」

「その子が逃げようとしていないのがその証拠よ。人見知りだからね」

確かに子狼はクーリアの手から逃げようとはしていない。むしろ自分からクーリアに前足で抱きついていた。

そんな様子を見て、クーリアが頬を弛める。けれど、どうしても気になったことがあったために、顔を引きしめてへと向き直った。

「どうしてわたしに託すんです?」

は相が良いと言った。しかし、それはクーリアに託す理由にはなり得ない。そもそも子狼の親の狼の飼い主なのだから、が世話することもできるはずだ。なのに何故クーリアに託すと言ったのか。クーリアは、それがどうしても気になった。

はその言葉を聞いてしばらく考え込む仕草をする。

そしてしの時間が経ち、その口を開いた。

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