《嫁りしたい令嬢は伯爵の正がわからない》事の始まり
「お兄様!また求婚を勝手に斷ったのですか?」
長い黒髪にあどけない顔つきのコノエは今年十六歳になった。そろそろ結婚も考える歳なのに、兄が勝手に求婚狀を突き返すのはいつもの事だった。
「お前はまだ教育が足りていない。このまま社に出せば恥をかく」
それに関しては自覚があるので、何も言えずに黙り込んでしまう。仕事の手を休めずに答えた金髪の兄は男爵家の跡取りで、コノエと全く似ていない風貌をしている。
「けれど、の私がお役に立てるのは婚姻くらいしか…」
「コノエ、何度も言わせないでくれ。僕は忙しいんだ」
早くに両親を失くして後を継いだ兄のジーンは本當に忙しい。
「ああ、待ちなさい。君宛ての手紙類だ。これでも読みながらいい子で自室にいてくれ」
コノエは靜かに手紙をけ取り、退室しながらため息をついた。
お兄様が私を男爵家の恥と思っているのは仕方ないけれど…
自分と兄はは繋がっていない。先代である兄の父親が後妻として迎えたのが自分の母親だった。わけあって母親とは離れ離れになっていたのだが、後を継いだ兄がコノエを男爵家に迎えれてくれたのだ。母親が亡くなった報告と共に。
お母様、なぜお兄様が嫌いする私を男爵家に招いたのかわかりません
コノエが生まれた場所は、容姿の違いはもちろん言葉使いや習慣さえ違った。なので、ある程度大きいコノエが一番苦労したのが言語の修正で、日常會話が流暢になるまで數年はかかった。しかも未だに読みは出來ても書きは躓く事が多い。
ただせっかく縁あって家族になったのだから、兄とはもうし距離を近づけたいとはずっと思っていた。
自室に戻り手紙を見ると、大は家庭教師や従兄など知り合いからの近狀報告が殆どだった。しかしいつもは省かれる見慣れない招待狀のようなものが混ざっていた。
「これは私宛て…よね?いつも兄が先に見てから渡してくれるし…」
ちなみに兄が卻下したものは知らせてすらもらえない事も多々ある。
「綺麗な文字…けど、慣用句が多いのかわかりにくいわ。春の訪れで始まるものは、悪い意味のおいじゃなかったはず」
なくても求婚狀ではなさそうだ。何人かで集まってお茶會しない?みたいな容だった。
「アーランド伯爵…どんな方だったかしら?」
まだ社に関しては危ういから、お兄様が裁を気にするのもわかるのよね。でも実踐を積まないとどうしようもないし…
渡してくれたという事は參加してもよいという事だろう。コノエは慣用句を調べながら、參加の旨を丁寧に返信した。
そして今、そのお茶會で混の極みに居る。
「貴方とはこれからも縁がありそうですね」
「…?それはどういう意味でしょうか?」
令嬢の言葉の意図がつかめなくて首を傾げながら問いかけると、そのままの意味ですと笑顔で返された。
「あの、ニコラス様はなぜ三人もいらっしゃるのでしょうか」
おずおずとしたコノエの質問にたちは顔を見合わせてふふっと笑った。
「やはり気になりますわよね」
いや、むしろそれしか気にならないんですけど
「ニコラス様は表の社に滅多にお顔を見せたりしません。王宮の流會にも特別に不參加が認められています。これは伯爵家の役割が大きいのです」
「役割?」
「アーランド家は司法に関わる職を輩出するのです。今はニコラス様の叔父が従事されていますが、司法の判決は恨みを買う事も多く、ニコラス様はい頃に拐事件に巻き込まれたそうです。それから先代伯爵の意向もあり、顔を隠す事を許されたそうです。國にとっても有能なアーランド家は司法に欠かせませんから」
なるほど。顔を特定されない為なのは理解できたけど…
「そのように用心深い方が、このように大勢を集める理由はなんでしょう?」
「あら、婚約者選びでしょう?公の社にはあまり參加されませんもの」
あ やっぱりそうなの?たちのアピール凄かったからね
「本が分かった方は迎えれたいとは聞いていますが、誰もわかりませんの」
「え?でも三人しかいませんし、それぞれ令嬢に告白でもされたらどなたかは當たりそうですけど」
「過去にもそういう方はいましたけれど、誰も當てられずにお茶會にも呼ばれなくなりました。納得できる理由が必要なのでしょうね」
そんなの無茶じゃない?
「じゃあここにいる令嬢たちは、毎回お茶をするだけ…?」
「私達も進展出來れば嬉しいですけれど、下手な事して呼ばれなくなる方が困りますからね。伯爵家との縁は繋げていたいですし」
「でも私は本當に選ぶ気はないのではないか、と思っていますわ」
「本當は他に想い人がいて、その方のの擬裝にされているのかしら?それはし興味がありますね」
ここにきて、何人かの令嬢も口を出してきたので出來るだけ多くの意見を聞いていく。中には小説のような妄想もあってちょっと笑った。
「あら、私は選別しているのだと思いますけど。人數の増減もありますし」
「選別?全員が再度お茶會に招待されるわけではないのですか?」
「ええ、一つ目は先ほどあなたも選んだでしょう?」
先ほど…?
「花を…平等に花を手土産に頂けますが、ここに再度呼ばれるのはあの白い花を選んだ方のみです」
「えっ?」
だからあの時、令嬢達が一斉に注目したのね
「一つ目…というと他にもあるのですか?」
「これは確信があるわけではないですが…他地區の特徴を持った方が多い様な気がします。コノエ様のように目立つ黒髪ではなくても、ほら、私の目のもし茶が混じってますでしょう?これは西地區に多いです」
東地區は自分の兄のように金髪に薄い素の瞳が特徴的だった。黒髪のコノエはとても悪目立ちするためにあまり外を歩かない要因でもある。
「花も容姿も一概に伯爵の好みだとも思えますが、誰かを探しているようにも思えますね」
うーん
「どなたかを探しているなら、なぜ姿を偽り噓をつくのでしょう?」
「姿を見せては下さらないけれど、伯爵は噓はつかないと明言されています。男の方たちの言葉は全部伯爵の真実のお言葉らしいですよ」
はん?
伯爵は噓をついていなくても、他人に噓をつかせて全員伯爵を名乗っている時點で怪しさしかない。コノエの疑心はあがった。
では、あの三人に質問していけばわかるかも?それとも、もう関わらない方がいいのかしら
考えを張り巡らせている中で、ふとコノエは令嬢達に気になった質問をした。
「皆様は、そんな風にこちらを試している方と結婚したいのですか?」
何となく公平じゃないような気がして口に出したのだが、令嬢達の答えは全員一致だった。
「ええ、王族にも目をかけられている有な伯爵家ですもの。ニコラス様の祖母は王族に縁ある方だったそうです」
「私達も伯爵の分に惹かれてここにいるのですからね。伯爵が相手を選り好みするのは當然では?」
「結婚は生活と家の為ですから」
逞しいわ…
コノエは誰かと爭ってまで有な相手を見つけようとは思えない。兄が推薦する相手とそのまま結婚するんだろうなと思った。
ただ、兄が婚姻爭奪戦に參加しろと言ったら斷れる自信はないので不安になる。
「お茶のお代わりはいかがですか?」
「あっ…ありがとうございます」
はっと見上げると、一番若い男に付いていた侍が微笑んでいた。
令嬢以外は全員退席したと思っていたが、さすがに侍は殘っていたようだ。気配がないというか、令嬢達の個が強すぎて全く気付かなかった。
綺麗な人だな
長い金髪を緩く後ろで結んで、長でスタイルもいい。伯爵家では侍すら容姿で選ぶのだろうか。
「とても味しいです」
コノエが微笑むと侍も良かったですと綺麗な笑顔を返してくれた。
もしも変わってしまうなら
第二の詩集です。
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