《私たち、殿下との婚約をお斷りさせていただきます!というかそもそも婚約は立していません! ~二人の令嬢から捨てられた王子の斷罪劇》1
新連載はじめました。
婚約破棄からの斷罪ざまぁものですが、ちょっぴり変則的です。
どうぞお楽しみいただけますように。
「私たち、ハリル王子殿下との婚約をお斷りさせていただきます!」
王宮の大広間の高い天井に伯爵令嬢フローラとミルドレッドの聲がきれいに重なり、場は水を打ったようにしん、と靜まり返った。
突然の宣言に誰もが揺し、また激しく混していた。
それもそのはずである。本來婚約とは、一人の男と一人のとの間で結ばれるべきもの。なのに、今この二人の令嬢は確かに『私たち』と言ったのだ。しかも、この二人の令嬢は同じ伯爵家の姉妹なのである。その二人が、この國の次期國王と目されている王子に向かって婚約を斷ると告げたのだ。
しかも、國王も臨席する王家主催のハリル王子殿下の婚約を発表する晴れの場で。
誰もが言葉を失い頭の中を疑問が駆け巡る中、その靜寂を破ったのはハリル王子その人だった。
「い、いったいお前たちは姉妹そろって何を言い出すんだ。私との婚約を斷るだと?」
「はい」
またもきれいに重なるフローラとミルドレッドの二つの聲に、ハリルは盛大に顔をしかめた。
「馬鹿も休み休み言え!ミルドレッドはともかく、フローラ。お前は私がたった今、不貞を働いた罪で婚約破棄を言い渡したばかりではないか。私がお前に、だ! その意味をお前はわかっているのか。その上で、私はミルドレッドとの婚約を新たに発表したのだからな」
誰もが息をのんで靜まり返る中、ハリルがするミルドレッドにちらりと視線を向ける。だがそのミルドレッドが自分の方をちらとも見ないことに、苦蟲を噛み潰したような表を浮かべた。
「私はこの國の次期國王として、お前のようなふしだらなとこの國をしょって立つわけにはいかないのだ。私にふさわしいのは妹のミルドレッドだ。……なあ、ミルドレッド。君は私をし私の隣に立ってくれると約束してくれただろう?」
自分の知っているミルドレッドとは明らかにじの違う態度に戸いを隠せない様子で、ハリルがミルドレッドを見つめ語りかける。その表にはどこか不安げなが浮かんでいた。
「お言葉ですが、殿下。私もミルドレッドも、お伝えした自分の言葉の意味をちゃんと理解しておりますわ。私と妹のどちらも、ハリル王子殿下とは婚姻いたしません。そもそも、殿下は肝心なことをご存じないのです」
「な、なななな、なんだ? 肝心なこととは! この私が何を分かっていないというのだ。この生意気でふしだらな売め!」
ハリルの額に、青筋がくっきりと浮かび上がりピクピクといた。
貴族たちが居並ぶ公衆の面前で侮蔑の言葉を投げつけられたにもかかわらず、フローラはまったくじず表一つ変えず淡々と続ける。
「私と殿下の婚約はそもそも無効です。婚約屆など、はなから理されていないのですから。よって婚約を破棄するまでもなく私と殿下は無関係な間柄なのですわ。そしてミルドレッドとの婚約も、當人がそれを了承していない以上立いたしません」
その聲に続き、ミルドレッドも澄ました表で付け加えた。
「その通りです。それに私はこれまで一度たりともハリル王子殿下の求婚をけれたことはございませんし、たとえ生まれ変わってもおけする気はありませんわ」
フローラは、ちらりと會場の最奧にある高い座に堂々たる姿で座る國王に視線を移した。その國王がわずかにうなずくのを確認したフローラは、凜とした聲で告げる。
「よって私とハリル殿下は、もとより婚約者同士などではございません。今まで私が殿下の婚約者のように振る舞って參りましたのは、あくまで國王陛下の命による、振りでございます」
會場から、大きなどよめきが起きた。一何事が起きているのかと、この場に居合わせたそうそうたる貴族たちは互いに顔を見合わせた。
「ははははっ! フローラ、お前は一何を迷いごとを。自らの不貞を公にされて、さては気でもれたか。お前との婚約の屆けならば確かに出してあるし、國王にも理されているはずだ。それになぜ、そんなことをする必要がある。お前が私の婚約者であることは、すでに周知されている明白な事実ではないか」
ハリルはそう言って笑い飛ばした。
次期國王の座が約束された自分との婚約が破棄されたことがよほど悔しく悲しかったのだろう。そのために荒唐無稽な作り話を口にして、自分の不貞をうやむやにするつもりなのだろうと信じて疑わないハリルである。
が、フローラはまったくじない。むしろその顔には余裕のすら浮かんで見えた。その姿を目にしたハリルは、途端に不安げに顔をひきつらせた。
「なんだ、その態度は……。まさか理されていないだと? そんなことが……そんなばかなことがあるわけ。あれは確かに……」
そう言うとハリルは、はっと何かに気がついたように後ろを振り返った。そこには父親である國王がただじっと威厳のある姿でこちらを見下ろしている。
「そんなまさか……まさかまさかまさかっ! そんなっ! 國王自らが自分の息子の邪魔立てをするなど、そんなことがあるわけっ」
正式に屆け出たはずの王子の婚約屆が最終的に理されていないということは、それを妨害したのは間違いなく最終的に判を押す國王以外にない。もしや父であるはずの國王に自分の將來を妨害されたのかと思い至り、怒りの中に悲痛なを浮かべてハリルがんだ。
「そんな馬鹿なっ! そんな馬鹿げたことをなぜわざわざする必要がぁっ! 私はあなたのを分けた息子ではありませんかっ。なのにどうしてっ」
いつ何時どのような事態が起ころうとも決してを波立たせてはならない。常に冷靜沈著、威風堂々とした態度を崩さないようにと教え込まれているはずの王子としては、あまりにも冷靜さに欠けた様子でハリルはんだ。
様子を息をのんで見守っていた貴族たちから、ひそひそと耳打ちする聲や言葉にならないざわめきが起こった。しかし自分を取り巻く視線のが徐々に変わりはじめていることにも気付かず、ハリルは顔を怒りで真っ赤に染め國王をにらみつけている。
「殿下、々落ち著きなさいませ。そのように次期國王ともあろう者が取りしては……」
重鎮の一人が見かねて聲をかけるもその手を払いのけ、耳を傾けようともしない。そんな王子の醜態を、皆が呆れたように遠巻きに見はじめた頃。
甲高く威圧的なをにじませたの聲が、ビリビリと會場全に響いた。
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