《私たち、殿下との婚約をお斷りさせていただきます!というかそもそも婚約は立していません! ~二人の令嬢から捨てられた王子の斷罪劇》7
次回で最終話となります。
最終話の更新は、本日10時頃を予定しています。
ここまでお読みくださった皆様、想や評価をくださった皆様、誠にありがとうございます!
最後までお楽しみいただけましたら、幸いです。
ハリルは膝をついたまま、はらはらと涙をこぼしながらすがった。
「父上……、なぜ。なぜなのです。同じ息子ではありませんか。私と、リカルド。母親が違うというだけで同じ息子なのに、どうして!リカルドばかりが褒めたたえられ、次期國王に相応しいのはリカルドだと、なぜ皆口を揃えて言うのですっ。私だって……私だって」
床に頭を何度も打ち付け、その額からを滲ませながらハリルが嗚咽する。
ハリルとて父親に認めてもらおうと自分なりに頑張ってはいたのだ。ただその努力や意識の向け方が、大きく歪んでいただけで――。
「ハリルよ。お前にすべての咎があるとは言わぬ。悪いのはお前までも利用しようとしたアルビアであり、またそんなを見抜けなかった私の責任だ。だが、お前はアルビアと共謀して何度もリカルドの命を狙い、フローラまで陥れようとした。お前の加擔した罪もすべて調べはついているのだ、ハリル。いさぎよく罪を認めて、もう楽になれ」
國王の聲に隠しきれないがにじんでいたことに、ハリルは気づかない。ただ絶にその目を伏せ、狂ったように床の上で暴れていた。
「二人を拘束せよ」
國王の聲が告げた。
それを合図にハリルの元に衛兵がその両腕を抑え込もうとしたのを見たアルビアが、弾かれたようにいた。が、それとリカルドがいたのは同時だった。
「あぁっ……!!」
そのきは俊敏だったが、それを見越していたかのようなきでリカルドがそのドレスの裾を踏み、アルビアの暴れるを抑え込む。
アルビアはハリルが拘束されようとしているのを見て、一人逃げ出そうと駆け出したのだ。
息子を置いてでも自分だけは助かろうとするその姿に、ハリルは「あぁ……嫌だ……もう何もかも嫌だ……。どうして、どうして……」と何度も何度もうわ言のように繰り返す。
「……アルビア、そしてハリル。二人には極刑を申し渡す。自分たちの罪を最期の時までしかと見つめるが良い」
そう告げる國王の聲に、わずかに苦悩と後悔がのぞいた。
「ああっ……! どうかっ、どうか命だけはっ。あなた、ご慈悲ですから……。それに、ハリルはあなたののつながった息子ではありませんか! せめて命だけはっ!」
アルビアの懸命な命乞いに、國王は表を曇らせ目を閉じる。
アルビアはともかくとして、ハリルにはやはりを分けた息子として滲む苦い思いがあった。別に側妃の生んだ子だからという理由でどうとも思っていなかったわけではないのだ。ただやはり、ただ一人心からした王妃の忘れ形見で次期國王のとしても申し分のないリカルドと比べて、ハリルに足りなさをじそれほど目をかけてこなかったことは事実だった。
しかし苦悩をじつつも、それでも國の安定を思えばここは溫をかけるべきではない。それは國王自、よくわかっていた。それが國を背負うものの役目でもあるのだから。
連れて行けと口を開こうとした國王の言葉を、リカルドが止めた。
「陛下。確かに國を私利私のために利用し、もしかすれば國の未來さえ危うくしかねない重罪を犯したことは確かです。ですが二人の命を絶てば、民はそれで納得するでしょうか」
「……極刑は不適だと申すか」
もう一人の息子の言葉に、國王は厳しい表を浮かべて問いかけた。
「私はこれまで多くの國を見て參りました。その中で、必ずしも絶対的な力と支配が良き國を作るのではないことを學びました。消えた命はすぐに忘れ去られましょうが、もし二人の殘りの命が今現在もこの國のため費やされていると思えば、きっと民も納得することでしょう。ですからここはあえて極刑ではなく、この國のために生涯そのを使役し捧げるという形で刑に服させるという道もあるかと存じます」
國王は、しばし苦悩の表で黙り込んだ。
れの音ひとつせず、誰もが事態のり行きを息をのんで見つめていた。國王の決斷を、この國の未來の王の姿を。
リカルドは、ハリルへと視線を向ける。二人の視線がほんの一瞬だけわり、そして離れた。
ついぞ分かり合うことのなかった腹違いの兄と弟の、これが最後の瞬間かもしれないとリカルドの心にも苦い後悔が滲んだ。権力という絶大な力が目の前にあったために、普通の兄弟として向き合うことができなかった苦々しい思いは、リカルドの中にもある。だが今さら取り戻しようもない。
國王が重々しい聲で、靜かに告げた。
「……アルビア、ハリル。お前たちには西の離島にて終刑を申し渡す。あの地にてその命が終わるまで、この國のため生涯をにして働くように。……以上だ。連れていけ」
その言葉とともに、がっくりと力なくうなだれたアルビアとハリルは衛兵にがっしりと拘束され、ずるずると引きずられるように退室していった。
「……リカルド。この度は誠にご苦労だった。この國のため苦を飲んでくれたこと、大儀に思う。そして伯爵家長フローラ、そしてその次ミルドレッド。そなたたちにも嫌な役回りをさせたこと、許せ」
リカルドは父親の心中を思いながら、に手を當て目を伏せた。
そして國王直々に謝罪とねぎらいの言葉をかけられたフローラとミルドレッドもまた、深く首を垂れるのだった。
これで、斷罪は終わった。
長い斷罪までの日々それぞれに重ねてきた思いをにしまい、誰もが言葉なにこの結末を複雑な思いとともにけ止めたのだった。
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