「火屬魔法、小さな火の球(ファイヤーボール)！」

杖の前に小さな火の球が出現し、下に居る四速歩行の狼に向かって放たれた。

直撃し、焼ける様な痛みと苦痛を與えて行く。

もがき苦しむ狼に向かって、私はヒノから包丁を取り出して、投擲した。

刺さったかは不明だが、命中したのは確かだ。

狼が魔石へと変わった。

「チームの件、けるよ。よろしくね」

「せめて顔を見せてくださいよ。あ、私田中慧(けい)と言います。よろしくお願いしますね」

「私は鈴木凜子」

そんなこんなで、私は基本的に包丁で、田中さんは魔法で空中から狼を倒して行く。

超安定して楽な戦い。

移中の田中さんはヒノの【催眠】を利用して眠らせ、魔力を回復させている。

回復が終わると自然に起きる。モンスターを見つけても起こす。

「それにしても、このフワフワの空飛ぶ乗り、凄いですね。一どこでこんなマジックアイテムを？　このレベルなら、かなりの高難度だったでしょう？　それとも買ったんですか？　売ったら數千萬はくだらないと思いますよ」

「數千萬、ね」

ヒノが驚愕した気がした。

「売るつもりはないよ」

ヒノを安心させる様に言いながら、座っている部分をでる。

し落ち著いたヒノにしだけ口角が上がった。

私がヒノを売る筈がない。

「乗りじゃないよ」

「そうなんですか？」

「うん。この子は、友達、いや家族だよ」

「む？」

そんな『この子頭大丈夫』みたいな顔で見ないでしい。

顔を自分の目で見た訳じゃないが、ヒノを通じてなんとなく分かる。

分かるから辛い。私はそこまで頭お花畑ではない。

そんな頭では既に枯れて、塞ぎ込んでいる。

いまさらだが、ここ最近さらにヒノとの繋がりらしきモノをじる。

「も仕舞えて、人を癒さて、飛んで移出來る⋯⋯も人も運べる⋯⋯凄すぎますよ。本當に、一いくらするのか、気になりますね」

「売りませんよ」

何か自分に近いものをじる。

人が増えてきそうなので、そろそろ降りる事にする。

それに寄って、田中さんはヒノをきちんと見た。

「枕？」

「枕で悪いですか？」

「あ、いえ」

ヒノは小さくなって、ポッケにった。

今日の収穫は大量の武だった。正直、ヒノを使った武の投擲を見出した今、武は売りたくない。

なので、今日の果もゼロだゼロ。もう慣れたね。悲しくないさ。ただ、虛しいだけさ。

「大丈夫ですか？」

「うん」

結局、私達は顔を合わせる事はしないで解散とした。

明日はまた別のダンジョンで待ち合わせする事を約束して。

◆

田中慧と名乗ったはそのまま路地裏へとった。

そこで數分待つと、數名の男達がやって來た。

「どっかのボンボンか？」

「いやいや。ジャージだぜ？　防ですらない。貧乏だ貧乏」

「しかし、あのマジックアイテムはなぁ」

そんな會話をしている。男達が慧に近づく度、慧の顔は悪くなる。

「おい、紗奈(さな)分かってんだろうな？」

三人の男の中心に居る、一番細でスピード特化に鍛えたリーダーがそう言う。

防寄りで筋骨隆々の男が左側で慧を睨み、反対の大剣を持った男は空を眺めていた。

「う、うん」

「お前の父親がした借金はまだ沢山ある。だぁが、あのマジックアイテムは見た事も聞いた事も無い一級品だ。アレを金に替えれば⋯⋯いや、あれには長期的な利用価値もありそうだ。アレを手にれたらお前の借金はチャラだ」

「ほ、ホントですか！」

「あぁ。俺は約束は守る。それに、おめぇ寄りもあのマジックアイテムの方が使えそうだ」

慧の顔にが宿る。

（やっと終わる。この地獄が。誰か分からない人だったけど、良い人が釣れた。私の為に、犠牲にってね。鈴木凜子さん）

そして、男と慧は解散した。

◆

帰ると、そこには晩飯が準備されていた。

丁度完したのか、湯気が出ている。チャーハンだ。

「⋯⋯」

「良いんだよ、食べて」

もしも裕也さんじゃない人が私に手をばしてくれても、きっと私は手を取らなかった。

裕也さんの優しさが、記憶にある父とそれだけ重なった。

チャーハンを一口食べる。

「う、うぅ」

「え、そんなに不味い！」

「違います。逆、です。味しい、んです。紗波さん」

涙が止まらなかった。

母親からはける事の無かったと料理。それだけで、荒んだ心がし、癒された気がした。

ストックホルム癥候群に近いかもしれない。

いやまぁ全く違うのだが。

裕也さん達とはたったの二日しか居ないし、元々警察を私は嫌っている。

まぁ、なんでも良いや。この恩をバイトで返そう。

その為に、私はコミュ力を上げなくては。

「あの、紗波さん」

涙聲恥ずい。誰だって泣かれてる姿を見られたくはない。

小學校だったらバカにされて一生分の恥だ。

「料理を、教えて、くれませんか？」

「私は、厳しいぞ」

「頑張ります！」

ちなみに、料理の教えは、本當に厳しかった。

辭めようと思ったのは三度四度では無い。

だけど、紗波さんの誠意に答える為、頑張るのだった。

風呂場にて。

私は暖かい溜まった風呂に浸かっていた。目の前にはヒノが湯に浮かんでいる。

枕なのに、風呂にる。大丈夫なのだろうか？

「暖かい風呂。もう二度とる事は無いと思ってたのに」

家出の當日を思い出す。

ゴブリンと同程度の義父、そして無駄に使われた風呂。

「贅沢を今、私はしている。他人の家で、他人のお金で。ヒノ、頑張ろうね」

ちゃぷん、とく。

やっぱりヒノは可い。

家の下にあるバーで私は常連さん達の名前と顔を覚えながら必死に會話をする。

まず、私はコミュ力が無い。絶的に無い。

コミュ力のレベルがあるなら、マイナス100は行っている。

さらに、エクストラスキル的なレベルで【人見知り】があるだろう。

噛み噛みでカタコト、それでも必死に會話の容を出す。

「雨水は降った水を使うのも良いんですが、翌日に流れるドブの水、これで大量の水が手にるんですよ！」

私はドヤ顔で経験談を語った。正直、今すぐにぜたい。

なんでこのチョイスをしたのか分からない。顔どころか全真っ赤だ。

死にたい。心臓がギューッと握られている気持ちにる。

淺知恵でドブの水に腹を痛めた。だが、今ではそれも真水に変えれて、良い水となっている。

ほんと、雨と言うのは素晴らしい。生命の母、始まりの水、全ては水から始まっている。

水に謝しよう。

「ははは。面白いね。だが、に危険だから、あまりするんじゃないぞ」

源さんが先に聲を出して、そう言ってくれた。

私が楽しませる筈なのに、フォローされてしまった。

嬉しいような、恥ずかしいような。いや、普通に恥ずかしいな。だけど、助かった。

自分の黒歴史をドヤ顔で語っているんだ。恥じるべきだ。

これを笑いモノとして扱える人はいるだろうか？

どんな年齢でも、バカにされ弄られるネタに使われるだけだ。

しかし、源さんはそれをしなかった。

あぁ、やばい。この空間、とっても好きにりそうだ。

それから、私は頑張って、常連さん達と會話をするのだった。殆ど、け答えだったが。

いずれ、皆を楽しませる會話が出來ると良いな。⋯⋯私には無理だろう。